438:戌亥寮のクリスマスパーティ
「「「カンパーイ!」」」
2024年12月24日火曜日の夕方。
決闘学園の各寮では、それぞれの寮が主催するクリスマスパーティが開かれた。
このパーティはクリスマスを祝うものであると同時に、今日が二学期の終わりと言う事で二学期お疲れ様のパーティでもあり、年末年始は寮を出て自宅に帰る生徒が多い事から今年一年お疲れ様のパーティでもあるため、殆どの寮生はいずれかのパーティには参加するものだった。
「ナルちゃん、良かったね。赤点は無くて」
「本当にな。ペチュニアの件も考慮してくれるっぽいし、ほんっとうに助かった」
「力がこもってますネェ」
「ナル様はそんなに危なかったのですか?」
「危うかったのは事実です。酷いものではありませんが」
なお、各寮がそれぞれ別にクリスマスパーティを開いているため、どの寮のクリスマスパーティに参加するのかは各自の自由である。
なので、虎卯寮所属の巴は俺との付き合いを重視して此処に居るし、他にも普段は戌亥寮の中では姿を見ない生徒がチラホラと居る事もあれば、その逆もまた然りである。
勿論、参加自由なので、燃詩先輩のように出て来ない事も許されている。
「それじゃあナルちゃん。お仕事頑張ってね。私たちは他の人たちの所に挨拶に行ってくるから」
「頑張って情報収集してきますネ」
「ナルさん。それではまた後程」
「では行ってきますね」
「ああ、気を付けてな」
ちなみにだが、寮ごとに参加条件やパーティの雰囲気もだいぶ違うものになるのも、決闘学園のクリスマスパーティの特徴である。
例えば子牛寮ならば厳かに行われ、舞踏会のようにダンスを踊ったりすることもあるので、きちんとした衣装を身に着けなければいけない。
虎卯寮ならば、見世物として決闘が行われたり、アームレスリング大会が行われるのだが、参加資格は特になし。
申酉寮ならカラオケやツイスターゲームなんかで盛り上がるそうだが、その分お金もかかるらしくて、ちょっと参加費が高い。
で、戌亥寮だと、基本的には立食形式のホームパーティと言う感じで、とても気楽な雰囲気なのだが……。
「次のクリスマスプレゼントを持ってきたくまー」
参加にあたっては、クリスマスプレゼントの抽選会に出すために、500円程度の商品をラッピングして持ってくることが求められる。
と言うわけで、熊白先輩が新たな参加者たちが持ってきたらしいクリスマスに、後ほど使う数字付きのシールを貼り付けながら、俺の背後にあるプレゼント置き場に誰かが用意したプレゼントを置いていく。
うん、此処までは特に問題は無い話だ。
「で、ナルキッソスが警備係なのは想定していたけれど、なんでミニスカサンタコスチュームなんだくま?」
「スズたちに押し切られた上に、桂寮長、梅駆先輩の両方からも許可が出てしまったものでして」
「じゃあ、仕方がないくまね」
「仕方がないんですかねぇ。これ」
問題は、そうして集められたプレゼントの警備係に魔力量甲判定の一年生と言う事で任された点と、警備を行うに当たってどうしてかマスカレイドをした上にミニスカサンタと言う衣装を身に付ける事になっている点だろう。
いや、前者は魔力量甲判定の一年生は戌亥寮だと今年は俺しか居ないし、抑止力と言う物を考えたのならまだ分かるのだけれど、後者はどうしてこうなった感が凄い。
「現寮長、次期寮長、お前の妻たちが推したものに対して、クマがあれこれ言うだなんて、火中の栗を拾うようなものだくまー。そんな危ない橋をクマは渡らないだくまー」
「まあ、熊白先輩はそうですよね」
ちなみに熊白先輩の言う通り、来年度の戌亥寮の寮長は梅駆先輩が務めるらしく、桂寮長から色々と教わっている。
その隣には俺と同学年である諏訪と獅子鷲さんも居るので、順当に行けば再来年の寮長まではもう決まっているのかもしれないな。
閑話休題。
「しかし、プレゼントの警備なんて必要なんですか? いやまあ、この手の話でどういう事態を想定しているのかは分かりますけど」
「こう言うのは警戒していますと見せる事が重要なんだくま。そうするだけでも、場に酔って馬鹿な事をしてしまうような連中を抑制できるだくまー」
「居るんです? そんな人。此処、決闘学園ですよ」
「基本的には居ないけれど、隙があったらやらかしそうな奴の覚えはクマにはあるくま」
「あ、はい」
俺は警備の必要性に疑問を呈したのだが、熊白先輩の顔からして油断は出来ないらしい。
なお、ここで俺たちが警戒している事としては、プレゼントの損壊、異物混入、窃盗あたりである。
しかし居るのか……まあ、居てもおかしくはないか……学園の生徒って基本的には品行方正だと思っているけれど、そうでないのも時々居るし、居たしな。
「ちなみにナルキッソス関係でありそうなこととしては、ナルキッソスが出したプレゼントが欲しくて欲しくて仕方が無いと言う奴が、クジに細工をするとかくまね。嫁たちは大丈夫かくま?」
「なるほど。あ、スズたちについてはこのパーティの後に別にプレゼントを渡すので大丈夫なはずです。こっちに出したプレゼントはただのお菓子の詰め合わせですし」
「後輩が手慣れているだくまぁ……」
まあ、クジについては俺の担当範囲外なので、気にする必要は無いな。
スズたちについても、友人たちと楽しそうに話をしているようなので、大丈夫だろう。
「ま、これなら心配は要らなさそうくまね。クマは受付に戻るくまー」
「分かりました。熊白先輩も頑張ってくださいね」
こうして戌亥寮のクリスマスパーティは和やかに時間が流れて行った。
なお、子牛寮では縁紅と羊歌が踊っているし、虎卯寮ではヒートアップし過ぎて発生した取っ組み合いの喧嘩を大漁が取り押さえているし、申酉寮ではラップバトルが勃発している模様。