435:『シルクラウド』社への依頼
「本日はお招きいただきありがとうございます。翠川様」
「年末年始でお忙しいであろう中、来てくれてありがとうございます。楽根さん」
午後、俺たちは早速と言う感じで、『シルクラウド』社の人たちと会っていた。
「それで翠川様。本日はどのようなご用件でしょうか? メールでは話しづらい事もあるために、こうして私たちをお呼びしたとの事ですか」
「そうですね」
で、まずは先日のペチュニアの一件について話す事にした。
なお、緘口令については学園の方から予め許可を貰っていて、『シルクラウド』社の人たちもみだりに話さないようにと伝えてある。
その上で、女神が話した辺りについてはぼかしておき、ペチュニアとの戦闘周りについては詳しく話した。
「なるほど。大変な戦いだったようですね」
「実際大変な戦いでした。そして、あの戦いを経たからこそ思ったわけです。『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を別々に使っていたのでは、致命的な遅れになる場合もある、と」
「それは……否定できませんね」
俺の言葉に楽根さんが頷く。
実のところ、マスカレイド使用中は口が良く動き、場合によっては意識するだけでもスキルと言うのは発動するようになっている。
だが、それでも二つのスキルを順々に使うとなると、コンマ数秒ではあるが遅れが生じる事になる。
そのコンマ数秒の遅れは、ペチュニアのような強大な相手になればなるほど、致命的なものになるだろう。
では、その遅れをどうやって解消するかと考えた場合、一番簡単なのは……。
「だから『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を一体化させたスキルを作れないかと、ご相談したいわけです。今の俺はほぼ必ずと言っていいくらいに、この二つのスキルを連続で使っていますから」
「なるほど。妥当な判断だと思います」
どうせいつも一緒に使っているのだからと、一つにまとめてしまう事である。
「楽根さん。可能ですか?」
「……。少々お待ちください」
楽根さんは少し考え、何処かに電話をかけ、やり取りをして……それから再び俺たちに向き直る。
「今、研究者の方に確認しましたが、二点……いえ、三点ほど条件を呑んでいただければ、可能であるとの返事を貰えました」
「条件ですか。具体的には?」
楽根さん曰く、『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』の一体化自体は可能との事。
ただし。
・専用の追加パーツを『シルクラウド・クラウン』に装着する必要がある。
・魔力の消費量は二つのスキルを順に使うよりも多くなる。
・新スキルと『P・Un白光』を実質的にスキルの枠に固定する必要がある。
との事だった。
「理論上はこうする事で現状三つしかないスキルの枠を二つしか使わずに、『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を組み合わせた新スキルと『P・Un白光』、実質三つのスキルを同時に運用する事が出来るそうです」
「なるほど。そう言う事なら何も問題はありません。その方向でお願いします」
うん、何の問題もない話だな。
どうせその三つのスキルは俺の決闘の根幹あるいは保険として入れ続ける事になるであろう物なので、それが外せなくなるのはデメリットでも何でもない。
追加パーツにしても『シルクラウド』社なら変な見た目やサイズにはしないだろう。
消費魔力量の問題は……よほどでなければ問題は無い。
「分かりました。では、年が明けた頃にお持ちいたしますね」
「「「え?」」」
「え?」
なお、続く楽根さんの言葉には俺たちは思わず疑問の声を上げてしまった。
そして、俺たちの声を聞いた楽根さんは首を傾げている。
「翠川様。遅かったでしょうか? これでも頑張った方なのですが……」
「いやそこはむしろ逆です。そんなに早くて大丈夫なんですか? 年末年始ですよね? もっと遅くなってもいいと思うのですが……」
「そう言う事でしたか。御心配には及びません。その、裏を明かしてしまいますとですね。以前、翠川様からあったご要望……スキルの枠を増やしたいと言う願いを叶えるための方法として、今回の方法は以前から考えられていた方法ではあったのです。ですので、こちらとしては、今回の翠川様のご要望は渡りに船だったわけです」
「な、なるほど……」
そう言えば前にそんな事も言っていたな、うん。
確かに実質的にスキルの枠を増やす方法でもあるし、俺の要望を叶える手段として試算をしているのはおかしな事でも何でもないな。
「ではこちらについては社の方に持ち帰らせていただきますね」
「よろしくお願いします」
さてこれで俺からの要望は終わり。
「続きましてゴールドケイン様。何か欲しいものがあるとの事ですね」
「えエ。今回の戦闘でマリーに必要なものが見えましたのデ、仮面体に取り込むための元パーツとして欲しいのがあるのでス」
続けてマリーから『シルクラウド』社への頼みである。
と言うわけで俺はマリーの席を譲り、マリーはアナログのメモ帳を開くと、楽根さん相手にあれやこれやと相談している。
えーと、なんだったかな。
マリーの『蓄財』で作った金貨を百枚単位で収納し、持ち運べるようなケース、だったか。
見せられたイメージ図としてはトランクケースのような物になっていたはずだ。
「そう言う事でしたら……」
「でハ、こういう事は可能ですカ?」
「出来るならマークをですね……」
「『ペチュニアの金貨』や『ドレスパワー』を考えるト、デザイン周りの妥協も出来なくなってきていますよネ」
「そうですね。デザイナーが発狂しかけている場合も……」
「ア、これは良い感じですネ」
「こちらの素材を使えば盾としても……」
「軽微な攻撃への自衛手段。確かに欲しくはあるんですよネェ……」
うん、楽しそうに話をしているな。
時々脱線している気もするけれど、話自体は特に問題なくまとまりそうだ。
そんな感じに話をしていった結果、マリーの新たな装備品は『シルクラウド』社経由で作ってもらう事になったようだった。
なお、試作品については俺のスキルの明け渡しと同時になる模様。
その……『シルクラウド』社の人たちの年末年始は大丈夫なのだろうか。
依頼した側ではあるのだけれど、何となくそんな事を思ってしまった。




