431:ナルたちは語り合う
「はぁ……疲れた……」
「本当だね……」
「ですネェ……」
「イチはまだ家への報告があるので、完全には休めませんね……」
俺、スズ、マリー、イチの四人は『ナルキッソスクラブ』に戻ってくると、揃って椅子に深く腰掛けて息を吐いた。
当たり前の話だが、今回のペチュニアの件は大騒ぎとなった。
俺たち自身の身に起きた範囲でも、とりあえず病院で検査されて、警察から事情聴取を受けて、気が付いたら次の日になっていて、学園と警察が合同でする追加の事情聴取も受けて……先ほどようやく解放されたところである。
が、また後日改めて事情聴取するかもと警察の人が言っていたし、まだ収まっていないと考えていいだろう。
「当たり前だけど、ネットやテレビ、各種マスメディアも大騒ぎになってるね。色々とぼかしているけど」
「ペチュニアの情報を出さないために、か?」
「うん、そうみたい。死人も出ているし、学園の建物の屋根は吹っ飛んだし、隕石が落ちたような音が響いたりで、とてもじゃないけど誤魔化せなかったみたいだね」
「どれどれ……なるほど……」
そして、俺たち以外についても、かなり騒がしくなっている。
状況によっては結界無しで暴れていた事もあって、今回の件は学園内の人間ならほぼ確実に目撃していたし、学園外の人間でも近くの人間なら一部を目視出来てしまっていたらしい。
また、少し調べれば、当日あの場で俺とサンコールによるガミーグの強制自供を賭けた決闘が行われていた事も分かる。
なので、政府と学園はペチュニアの事は隠して、強制自供を拒否したガミーグが違法な力を使って暴走した、と言う、出しても問題のない事実だけをお出ししているらしい。
なお、今回の件に合わせて、死人が出た事や、解決の主体が生徒になった点について批判している連中が少なからず居るようだが……うん、そいつらの好き勝手な物言いについては、ちょっとイラっと来るな。
イラっと来るが、流しておこう。
「まア、隠せませんよネ。今回の件ハ。隠すべきではないとモ、マリーは思いますガ」
「そうだね。そこは私もマリーと同意見。これは隠す方が拙いと思う」
「今回の件で『ペチュニアの金貨』の危険性は更に明確化されたし、その点については確かにそうだな」
「イチも同意します」
当然のことながら、俺たちには今回の件に関する緘口令も敷かれていて、一般人には話さないように言われている。
まあ、誰が好き好んで死人が出るような凄惨な場の話をしたいのだ、と言う事なので、言い訳として使いやすい、この緘口令はありがたくもあるな。
「でもまあ、これで『ペチュニアの金貨』の件は一段落着いたって事でいいんだよな?」
「そうだね。女神曰く、復活は何年も先との事だったから、とりあえずは気にしなくてもいいと思う。各国上層部では今回の件も含めて色々と情報共有もされるだろうし、上手くいけばもっと先になるかも」
「そうだと良いですネェ……」
俺は適当にお茶を淹れると、それを飲む。
スズたちも同様で、それぞれが適当に飲み物を口に含む。
「イチが考えるに、残る問題は行方不明になっている『ペチュニアの金貨』がどれぐらいあるかと、アンクルシーズの件で『ペチュニアの金貨』を仕込んだのが誰なのか、この二つくらいだと思います」
「そう言えば、まだそれはあったか」
「はい。とは言え前者についてはイチたちが気にする事ではありませんので、流していいでしょう。後者については……」
イチがスズの方へと視線を向ける。
燃詩先輩から何か聞いていないのか、と言うところだろう。
「私の方に情報はないよ。燃詩先輩も出す気は無いんじゃないかな。ただ、前に聞いた時点で容疑者は絞り込めているって話だったから、燃詩先輩なら容疑者を24時間常時監視する体制ぐらいは構築しているんじゃない?」
「あー、燃詩先輩なら確かに出来そう」
「そして安心も出来そうですねネ」
「そうですか。ちなみにこちらの件、天石家どころか、その上の方にも情報が無いようなので、恐らくですが燃詩先輩と麻留田先輩の二人と、その周囲の限られた人間だけで動いている事になりそうですね」
どうやら何処にも情報はないらしい。
まあ、俺たちは風紀委員会ではないので、声を掛けられれば協力はするが、それ以上の積極的な協力は向こうの予定を崩さないためにも控えるべきなんだろう、たぶん。
「後は……今回の件の反省会か」
「反省……ナル君、やっぱり……」
「死人が出ているのは確かだからな。気にしない訳にはいかない」
俺は一度目を瞑り、思い出す。
ペチュニアの蔓に打たれて致命傷を負った人たちの事を。
自分の身を守る事しか出来なかった光景を。
即死でなかった人たちはあの後に病院へと運ばれて、あらゆる方法で治療を受け、殆どの人は一命を取り留めたとは聞いている。
そうして治療を受けた人の一部が、俺に対して「気にしなくていい」「君はやれるだけの事を、最良の行動をとってくれた」、そうメッセージを送ってくれたことも知っている。
知っているが……。
それでも守れなかったのが事実である以上、俺はその事を忘れる事は出来ないし、気にしない訳にも行かなかった。
「気持ちは分かりまス。ですガ、ナルの手札から考えてどうしようもなかった事案だとマリーは判断しまス」
「そもそも彼らはプロです。元より命を懸けて、あの場に居た人たちです。その人たちの死がナルさんのせいだと言うのは、ただの驕りであるとイチは考えます」
「分かってる。だからそういう方面で悔やむ気は無い。哀悼の意は示すけれど、そこまでだ。ただ……もしも次に同じような事があった時にどうするべきなのか、どういう手札を持っておくべきなのか、そう言うのは考えずにはいられないんだよ。俺自身の為にも、スズたちの為にも」
「ナル君……」
だから俺は、どうすればよいかを考えずにはいられなかった。




