43:魔力量は遺伝するのか否か
「そう言えば、日曜の朝にこんな事があったぞ」
月曜日。
今日は午後から、俺と縁紅の決闘で流れてしまった甲判定限定ミーティングのやり直しが予告されている。
と言うわけで、昼食を食べた俺はミーティングが行われる教室へ移動。
そこで昼食中は別行動だった徳徒たちと合流した。
そして、ミーティングが始まるまでの適当な話題として思い浮かんだのが、日曜日の午前中に起きた、寮の部屋にスズたちではない女子生徒たちがやってくるも、俺の仮面体を見た直後に退散していった、と言う話だった。
で、その話を聞いた結果、徳徒たちは非常に微妙な表情をした。
「ワイたちが土日に先生から許可貰って自主練しとった中で、そんなうらやまけしからん事になってたのか、このイケメンは」
「いいっすねー。本当にいいっすねー。ウチたちの周囲には女の子の影なんて欠片も無かったのに、翠川の周りは女の子だらけっすかー」
「俺たちの汗水を女の子たちは評価してくれない。何故だ! 甲判定と言うだけなら、俺たちと翠川に差はないのに!」
そして口々にこう言うのだが……。
「徳徒、遠坂、曲家。三人とも表情が、そんな女に絡まれなくてよかったと全力で言っているんだが」
「分かるか。うん、実際絡まれなくてよかったわ。俺らには水園さんみたいに上手く対処してくれる友人も居ないし、練習の邪魔もされたくないしな」
「ぶっちゃけ、翠川がデコイになってくれていなかったら、そう言う女がワイたちの所に来ていた可能性が少なからずあると思ったら……おお怖い、怖い」
「ウチたちじゃ。コロッと騙されそうっすもんねぇ。生涯騙し続けて、少なくとも表向きはきちんと支えてくれるなら、まだ話は別っすけど」
どうやら徳徒たち的にも、先日の女子のような人間とは、出来るだけ付き合いたくないようだ。
まあ、スズ曰く、俺を利用しようとしたが、仮面体を間近で見て、利用できないと気づいたから逃げた、らしいからなぁ。
その言葉が何処まで信用できるかは分からないが、スズがそこまで言う上に、スズに気づかれないように立ち振る舞う相手は……まあ、出来れば懐には入れたくないよな、うん。
「しかし、そこで翠川を諦めたら、次は縁紅か吉備津に行って、それでも駄目なら俺たちか?」
「うわー、そう言う流れだったら、翠川の仮面体並の美人であっても流石に嫌だわ。ワイたちは第三候補じゃないっての」
「こうなると、これからしばらくは要警戒っすかねぇ……。そもそも真っ当なのなら、今の時期は仕掛けてこないとも思うっすけど」
「うーん、昨日訪ねてきたのが誰だったのかの資料はスズから貰っているんだが、要るか?」
「「「要る」」」
「じゃあ、送っておく」
とりあえず情報は共有っと。
「しかし、魔力量に遺伝する傾向が見られるとは言え、一年生四月時点からそこまでがっついているって、ちょっとドン引きものなんだが」
「スズ曰く『向こう百年の家の栄華を思い描いて、その為に行動している』だそうだ。ぶっちゃけ、俺みたいな突然変異みたいな魔力量も居るからなぁ」
「じゃ、折角だから、その遺伝関係について、アタシから一ついい事を教えてやろうか」
と、ここで俺たち四人以外の声がしたので、そちらの方を向く。
そちらに居たのは、青い髪をツインテールにした、鋭い目つきの少女……大漁愛佳さんだ。
「どういう情報っすか?」
「遺伝は当てにならないって話だ。アタシには魔力量検査で丙判定を貰った妹が居るんだが、その妹は一卵性双生児の妹なんだ。知っての通り、一卵性双生児なら、遺伝子的には全く同じのはず。アタシと恋佳は育ちも一緒だった。なのに、アタシは魔力量甲判定で、恋佳は丙判定。な、当てにならないだろ?」
「うわマジか、色々なところが発狂しそうな話だ」
「女神がもたらして六十数年。魔力についてはまだまだ分からない事だらけって事だな。傾向止まりなのもアタシみたいな例があるから。変なのに絡まれたら、この話をしてやればいい。血が欲しいだけの連中なら、それで退くだろうさ」
「なるほどな」
なるほど、これは分かり易い例だ。
確かに双子なのに甲判定と丙判定で分かれるほどに差があるなら、遺伝と環境以外の要因で差が付いたと考えるしかない。
「あ、ついでにその情報とやら、アタシの方にも送ってもらっていいか。そういう女ってアタシたち的にも要警戒の相手である事が多いからな」
「分かった。送っておく」
情報の対価代わり、となるかは分からないが、俺から大漁さんに対して情報を送っておく。
「ふーん。なるほどね。と、護国たちが来たな。じゃあな」
「ああ。有益な情報をありがとうな」
「大したことじゃねえよ。知っている奴は知っているしな」
そうして大漁さんは去っていき、俺たちはミーティング開始まで引き続き話すことにした。
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「護国さん。早速、そう言うのが出てたみたいですよ。男子共が話してたんで、貰っておきました」
「そうですか」
ナルたちと別れた大漁は、遅れて教室にやって来た護国たち甲判定女子組と合流する。
「ちなみに情報の出所は?」
「翠川の幼馴染。水園って女ですね。なんで信頼は出来ると思いますよ」
「では大丈夫そうですね。見せてください」
そして、直ぐに情報は共有されて……護国は顔をしかめる。
「巴様~機嫌が悪そうですね~」
「当然でしょう。学生の本分を忘れて、このような振る舞いに力を注ごうなど……それが将来の事を考えた結果の選択なのは分かりますが、今の時点からこんな事をするなど、完全に努力の方向性を間違えています」
「巴さんは真面目だね。でも言いたいことは分かるよ。乙判定なら、相応に努力して入って来た筈。なのにやってるのが男漁りで、しかもデビュー戦前からってねぇ。流石にちょっとと思うよ」
「瓶井に同感だね。何を考えているのやらって奴だ。ただ、資料を見る限り……ああ、この資料、翠川たち向けだから、敢えて誤魔化している部分もあるんだな」
「ふむふむ~なるほど~。家の命令って奴ですか~。嫌な話ですねぇ~。優秀な男を捕まえて来いだなんて~」
護国が顔をしかめた理由は二つ。
一つは口にした通り、学生の本分から外れた行いであると感じたから。
そしてもう一つは、この学生の家と同じことを自分の家がやる可能性を考えてしまったから。
もしも自分が翠川鳴輝に対して、そのように振る舞う事を求められたら……それを考えた時、護国の脳裏にはこれまでの人生で見てきたものが思い描かれ……。
そんな事になった時には、決闘と言う手段を用いてでも、自分の意思を貫いて見せる、護国は翠川の事を横目にしつつ決意した。
やがてミーティングが始まる時間となった。




