425:ペチュニアを名乗るもの -前編
本日は六話更新となります。
こちらは三話目です。
「何が起きて……っ!?」
「正面は任せたぞ、ウィンナイト」
「言われなくても分かっている。『パリング』」
ペチュニアによるナルへの攻撃に割り込んだのはウィンナイトとシュタールの二人だった。
ウィンナイトはナルへの攻撃を『パリング』によって難なく弾くと、そのまま正面からペチュニアへと迫り、自身に向けられる攻撃を次々に弾いていく。
シュタールはペチュニアに向けて砲撃を放つと、そのまま横へスライドして移動しつつ、体の各部に搭載された銃と砲による攻撃をペチュニアへと浴びせていく。
「いきなり何なの! 横やりなんてズルいじゃない!」
突然の妨害と攻撃を受けたペチュニアは、自身の怒りを隠すことも無く動き出す。
攻撃を弾いているだけのウィンナイトへある程度の攻撃をしつつ、こちらに積極的に仕掛けてくるシュタールにより多くの攻撃を向けようと、体の向きを変える。
「決闘ではなく命の奪い合いでズルとは。見た目通りの子供か」
「かもしれないな。だからこう言うのにも引っ掛かる」
「っ!?」
その瞬間を狙っていたように、シュタールは自分に向けられた蔓による攻撃を敢えてドリルで受け止め、巻き取り引いて、蔓をピンと張らせる。
そこへウィンナイトが踏み込んで、一閃。
ペチュニアの伸ばされ切った蔓を断ち切ってみせる。
「な、なんなのよーもうっ!」
「なっ!?」
「「……」」
怒りに任せるようにペチュニアが新たな蔓を勢いよく生やし、射出するように撃ち出す。
その蔓の先には鋭い金属の棘が生え揃っていて、触れればタダでは済まないのは明らかであり、それが見えたナルは息を呑む。
ウィンナイトとシュタールはその蔓を避けて見せるが、二人が蔓を避けても蔓の動きは止まらずにその先へ……未だ避難が済んでいない人の下へと向かおうとしていた。
「まずっ……」
「安心しろ。吾輩が居る限り、外にまで攻撃は通さない」
だが、ペチュニアの攻撃は突如として空中に現れた三重の結界によって阻まれて止められた。
通常出せるはずがない場所に結界を展開できる技術者など、世界全体で見渡しても限られているが、学園にはその限られた一人が居た。
GM.Neである。
「そして、この場から逃がしてやる気も無い」
「な、なにこれ!? こんなもの……堅いっ!」
GM.Neはコマンダー用の席に腰かけると、空中で指を激しく動かす。
そして、それに合わせるように、ペチュニアの周囲に三重の結界が展開されていき、その内へとペチュニアを閉じ込める。
閉じ込められたペチュニアは脱出しようと蔓を振るい、馬男の部分で暴れ回るが、一枚の結界を破る間に新たな結界が一枚構築されてしまうために、脱出できない。
「私たちの事を忘れないで欲しいものだな」
「まったくだ」
「本当になんなのよー!? 私はただ玩具で遊びに来ただけなのに! 酷い! ひどい! ヒドイ! こんな可愛らしい子供を狭い所に閉じ込めて、寄ってたかってだなんて!!」
脱出のために暴れるペチュニアにシュタールとウィンナイトが攻撃を仕掛ける。
銃砲を撃ち、ドリルを捻じ込み、剣で切り刻んでいく。
そうして、直接傷つけられれば、その怒りを晴らそうとペチュニアはシュタールとウィンナイトに攻撃を仕掛ける。
が、二人は適切にペチュニアの攻撃を避け、逸らし、防いでは、反撃でペチュニアにダメージを負わせていく。
「凄い。これなら……」
「ナルちゃん大丈夫!?」
「ナル様ご無事ですか!?」
「スズにトモエか」
と、ここでペチュニア相手に大立ち回りを演じるシュタールとウィンナイトの姿を見つめるナルの下へ、マスカレイドした状態のスズとトモエの二人がやってくる。
二人の声に反応したナルが周囲を見てみれば、いつの間にか要救助者たちを助けるためにマスカレイドした人間が何人も入ってきている他、サダルスウドやゴールドバレットと言った面々も、ペチュニアの周囲を覆う結界の周りに立ち、何かをしているようだった。
「……。スズ、分かっているとは思うが……」
「うん。前には出ない。状況からして、前に出れるのはナルちゃん、トモエ、コモスドール、シュタール、ウィンナイトの五人だけだと思う。本当ならシュタールとウィンナイトの二人だけで全てを終わらせてくれるといいんだけど……そうもいかないみたいだね」
「みたいだな」
「そうですね。私は準備を始めます」
スズはナルが言いたいであろうこと……『転移機能も無い、決闘と言うよりは殺し合いの状況下。ペチュニアの攻撃力の前では、魔力量乙判定の人間による仮面体では一撃受けただけでも致命傷となるので退いて欲しい。それが無理なら、可能な限り安全な場所に居て欲しい』を先読みして返答する。
その上で、ペチュニアの方へと視線を向ける。
ナルとトモエもまたスズにつられて視線を向け、そして、スズと同様の結論を出す。
「いいもん! 私はまだまだ元気いっぱい! でもおにーさんもおねーさんはずっと元気じゃない! だったら、二人も、そこのいけ好かない蛍光発光も力尽きて倒れるまで、殺し合いごっこで遊んであげるんだから!」
「「「……」」」
ペチュニアは結界の中に囚われても、変わらず暴れ続けていた。
だが、シュタールとウィンナイトは少しずつ魔力を消費しているし、GM.Neも苦笑いを浮かべていた。
この光景は、このまま耐えているだけでは、何の意味も無い事を示していた。
「ナルちゃん。私は安全圏まで退くね。そこで調合をして、ブルーサルにでも投げてもらう。マリーも同じ感じ。ファスは分からないけど……心配はしなくていいと思う」
「分かった」
スズがGM.Neの近く、その時を今か今かと待っている様子のブルーサルの下へと駆けていく。
「ナル様。私としては出来る事ならナル様にも下がってもらいたいのですが……」
「此処で下がったら、男が廃るってもんだろ。今は女だけどな。『ドレッサールーム』『ドレスパワー』」
「そうですね。ナル様ならそう言うと思いました。では、しっかりと観察を。最終的に制限なく対峙し続ける事が出来るのはナル様だけだと思いますので」
ナルは自分の衣装を学園制服に変えた上で『ドレスパワー』を発動し、短期記憶能力を大幅に強化。
その上でペチュニアの動きを観察し始める。
「『精錬』完了。では、私も全力で戦ってきますので、よく見ていてください。ナル様」
「ああ、分かった」
トモエは『精錬』によって自分の仮面体に力を漲らせながら、結界の直ぐ近くに立ち、薙刀を構える。
そうして全員の準備が整い、シュタールとウィンナイトの動きがだいぶ悪くなった頃。
「総員構え! 3……2……1……今ッ!」
「ちっ」
「此処までか」
「行きます!」
「頑張るっすよ!」
「「「ーーーーー!」」」
「!?」
GM.Neの号令と共に一瞬だけ結界が消える。
シュタールとウィンナイトが脱出し、トモエとコモスドールが突入する。
そして、結界の周囲で身構えていたサダルスウドの砲撃が、ゴールドバレットの銃弾が、バラニーの電撃が、アルレシャの糸の槍が、ブルーサルの投石が、展開を終えた機動隊の一部の人間たちが遠距離攻撃を一斉に放っていく。
放たれた攻撃は無数の爆発とエフェクトを伴い……ペチュニアを包み込むように無数の閃光と爆炎が生じた。