422:ナルVSサンコール
「っと」
ドロップキックを炸裂させたナルが反動で跳び、舞台と靴の接触面から煙を上げつつ少し滑ってから止まる。
「危ないなぁ……」
そして、ナルのドロップキックを受けて吹き飛ばされたサンコールも立ち上がる。
ただし、防御に用いたマスケット銃は中ほどで粉砕されていて、使うに適さない状態になっていたため、サンコールは適当に投げ捨てて消滅させる。
「とりあえず言うべきはこれかな。入学当初の頃に言われていた攻撃力不足は解消されたんだね。ナルキッソス」
「まあな。もう12月なんだ。魔力量にもサポートにも恵まれているのに、分かり易い問題点一つ解決できませんでしたは無い」
「それもそうか」
サンコールは軍刀を両手で握り、振り下ろす姿勢で構える。
対するナルはファイティングポーズを取って、サンコールの様子を窺う。
「来いよサンコール。全力で来るんだろう?」
「ああそうだね。そう言う機能でもなければ、最初の一撃こそが最大の一撃だ。だから、全力で行かせてもらう……『エンチャントフレイム』『ハイストレングス』『ドレスパワー』起動!」
サンコールが三つのスキルを用いる。
手にした軍刀が炎に包まれ、筋肉が幾らか膨れる。
そして、炎に包まれた軍刀が真夏の太陽のような輝きと熱を放ち始め、膨れた筋肉も輝きと力強さを帯びる。
「!? なるほど、二重強化か」
その光景にナルは一瞬驚きつつも、直ぐに何が起きたのかを理解する。
サンコールが行ったのは、通常のスキルとスキル『ドレスパワー』による二重強化。
普通のスキルは、同系統の強化であると重ね掛けが出来なかったり、上書きをしてしまったりするものなのだが、『ドレスパワー』によって生じるバフは例外的に重ね掛けが可能なものだった。
そして、サンコールの『ドレスパワー』は武器に太陽のような輝きを与えた上で、身体強化能力を上げると言う、非常に使い勝手がいい物。
三つのバフを組み合わせれば、属性相性もあって、ナルが普段使う盾では防ぎ切れない事は明らかだった。
「その通り。『クイックステップ』!」
サンコールが『クイックステップ』を使って突っ込み、その勢いを生かす形で軍刀を振り下ろす。
太陽の刃がナルに迫る。
「来い、『ウォルフェン』」
「っ!?」
だが、サンコールの一撃は鋼鉄の壁によって難なく防がれて、弾かれてしまう。
そう、普段使う盾では防げない。
ならば普段使わない盾を使えばいい。
ナルが下した判断は至極単純なものだった。
「おらぁ!」
「!?」
そして反撃として、ナルは『ウォルフェン』を消すと同時にサンコールの腹に向けて踏みつけるような蹴りを放つ。
そこへ『ドレスエレメンタル』の効果によって冷気を伴う爆発が生じて、サンコールは凍傷を負いながら吹き飛ばされる。
「くっ……ナルキッソス。『ウォルフェン』とか言うその盾の材質、本当に鋼鉄なのかな? 僕が今使っているこの状態の剣は、鋼鉄くらいだったら問題なく溶断出来るのだけど」
「鋼鉄だぞ。強度については俺の魔力が含まれているからとしか言いようがない」
「なるほど……性質か、密度か、単純な量か……とにかく何かが……いや、下手をすれば全てか。とにかく負けているから、難なく弾ける、と」
「まあ、そう言う事だな」
サンコールは立ち上がりながら思う。
なんて高くて分厚い壁だと。
物理的な意味でも壁なのだけれど、魔力的な意味でも壁以外の何物でもない。
少なくとも、今この場であの壁を打ち破る手段は自分にはない。
だが決闘者として自ら負けを認めることはあり得ない。
故に迂回策を講じる他ない。
そう考えて、突きの為の構えを取る。
「無粋なツッコミだし、半ば以上に負け犬の遠吠えなのだけれど、ナルキッソスは『ウォルフェン』を衣装として認めていいのかい? どう考えても、それは壁だろう」
「まあ壁ではあるな。だが、何処でも出せる固定背景のような物を考えれば、『ドレッサールーム』に入れておいても問題は無いだろ。ほら、それなら俺の美しさを撮影するのに使う道具の一つだろ?」
「なるほど。ユニークスキルだからこその理不尽さと言うか、鷹揚さと言うか……」
サンコールは会話をしつつ、すり足で少しずつ距離を詰めていく。
サンコールの狙う迂回策は至極単純な物で、ナルが『ウォルフェン』を展開する前に刺すと言うものだった。
それは事前の調査で、ナルが『ドレッサールーム』に収納している状態の『ウォルフェン』を展開するのには、一瞬ではあるが溜めが必要であると分かっていたからこそ、選んだ戦術であった。
そうしてサンコールとナルの距離は十分に詰まり……。
「まあ、上手くいったんだから……」
「『クイックステップ』」
サンコールは不意を突くように、一歩分横にずれてから『クイックステップ』で踏み込んで、突きを放った。
ナルはちょうど瞬きをしていて、一瞬ではあるが、隙を晒していた。
「何も問題は無いだろう?」
「!?」
だが次の瞬間……サンコールが気が付いた瞬間には、サンコールの突きだした太陽の刃はナルの足によって半ばから蹴り上げられていて、サンコールの体勢は完全に崩されていた。
「お前なら瞬き一つ分の隙も見逃さないと信じてたぞ。サンコール」
「なるほど、悔しいがこれは僕の負けだね」
ナルがやった事は単純だ。
片足で舞台の床を思いっきり蹴り、もう片方の足を舞台の床に埋めて固定。
その上で全身の他の筋肉を総動員して、跳ばずに足だけを超高速を動かして、サンコールの刃を蹴り弾いたのだ。
「そして悪いなサンコール。今日のお前は前哨戦になりそうなん……だっ!」
ナルの蹴りがサンコールの腹に再び叩き込まれる。
衝突と同時に黄金色の爆発が起きる。
そして、爆炎が晴れた後に舞台上に立っていたのは、ナル一人だけだった。
『決着! 勝者、ナルキッソス!』
ナルの勝利がコールされるのは当然の流れであった。
サンコールの『ドレスパワー』について。
武器への太陽属性エンチャントと肉体強化と言う、使い勝手がいい効果なのは本文通り。
ただ、それほど使い勝手のいい二種類の効果が何の制約も無く発揮されるわけも無く。
と言うわけで、裏設定として、使用した時の天候状況や日差しの量に応じてバフの効果量が増減すると言う仕様があります。
なので、雨天時に使うと、ほぼ効果のないスキルとなります。
逆に真夏の雲一つない真昼に使うと、一気に効果が跳ね上がります。