419:報告書を読んで
「以上が夜来叔父さんから送られてきた、ガミーグについての資料となります」
「そうか……」
国家間決闘から一夜明けた。
観客席で論文云々の話になっていたので、ガミーグについて改めて調べてもらったところ、イチから資料が返ってきたのだが……想像よりはるかにヘビーなものが出てきてしまった。
いや、ガミーグ・ロッソォがペチュニア・ゴールドマインの事件の関係者なら、その話に触れる事はあって当然だとは思っていたけども。
だが俺が過度にショックを受けているわけにはいかないな。
なにせ、この場で一番ショックを受けているのは、俺ではないはずなのだから。
「あー、マリーはこの事を?」
だから俺はマリーへと視線を向ける。
マリーの表情は……ショックを受けてはいるようだった。
だが、一度目を瞑り、開いた時には何かを理解したような顔になっていた。
「マリーはゴールド一族が内部で分裂していた事モ、ペチュニアの家がこのような行為をしていた事も知りませんでしタ。パパママがマリーは知る必要が無いと黙っていたのでしょウ。ただそれは隠されていたのではなク、守られていたのだと思いまス。あまりにモ……あまりにも酷い話ですのデ」
「マリー……そうか」
「大丈夫でス。今なら受け入れられまス。むしろ納得がいったくらいでス。どうしてパパママが世界中に離散した他のゴールド一族との繋がりを持ちたがらないのカ、とか。この話を知ったラ、当然としか言いようがないでス」
「そうだよね。そうなるよね」
「そしてマリーのスタンスは変わりませン。『蓄財』については今後も使いますシ、『ペチュニアの金貨』の技術は潰しまス。むしロ、やる気が湧いてくるぐらいなものでス」
マリーは……空元気かもしれないが、とりあえずは大丈夫そうだ。
しかし、ゴールドマイン家が急進派で、成果を生みだすのを急いでいたのは分かるが、どうしてこんな違法行為を……あー、タイミング的に世界中の決闘者が、そう言う方法を使ってでも成果を上げようとしていた時期と言うか、世代だったのかもな。
「あー、それじゃあ、その『ペチュニアの金貨』の製造者であるガミーグについての話をしよう。俺としては、確認実験が行われた結果、こんなに素直に話して披露してしまうのなら、強制自供をさせる意味が無くなったんじゃないかと思うんだが」
俺は陰鬱な空気を払うように話題を変える。
「そうですネ。マリーとしても今度のナルの決闘の意味は薄くなってしまったように思えまス。ガミーグのこの様子ですト、強制自供のメリットは被害者を出さずに済む事だけですよネ?」
次の俺とサンコールの決闘で賭けられているものはガミーグに強制自供させる権利だった。
そして、強制自供をさせてまで知りたかったのは、『ペチュニアの金貨』関係の情報だったはず。
だが、ガミーグが確認実験に簡単に乗ったとなると……質問すれば普通に話してしまう気がする。
これでは強制自供させる意味がないのではなかろうか?
と、俺とマリーは思うところである。
「んー、私としてはむしろ絶対に強制自供させないといけないと思ったかな」
「と言うと?」
だがスズは違う意見らしい。
真剣な目をして、イチが出してくれたレポートを見ている。
「この確認実験をどんな人たちが観察していたのかはレポートに書かれていないけれど、ガミーグが居た国の人たちは馬鹿じゃない。取れるだけの情報は取るために、魔力に関する研究者を何人も呼んでいたはず。勿論、医者や生物学者辺りをはじめとして、関連しそうな他の分野の人たちも呼んでいたはず」
「それは……まあ、そうだろうね」
「でも、その人たちが確認実験を見ても、肝心要の部分については何も分からなかったと言っているに等しい内容になっているんだよね。でなければ、明確な対抗策が欲しいなんて言ってこないよ」
「言われてみればそうですネ」
つまりガミーグはまだまだ隠し事をしている、と。
そうなると、『ペチュニアの金貨』の製造工程は割とどうでもいい部分で、真似をしてくれるなら、むしろ真似をしてくれた方が良いとまで思っていそう……。
なんだか、自分が死んでも技術さえ残って広まればいいとか思ってそうだな、コイツ。
「ああうん、確かに全部吐かせた方が良さそうだ……」
「ナル君のやる気が出たようでよかったよ」
「考えてみれバ、どうやって脱獄したのかとかも分かっていませんかラ、そう言うのを話させるためにも強制自供させた方が良さそうですネ」
「そうですね。その辺りについては、現状では黙秘しているようなので、喋らせるには強制自供が必要でしょう」
どうやら本当にガミーグは色々と隠し事をしているらしい。
じゃあやっぱり強制自供は必要だな。
今のガミーグは自分が喋りたい話だけを喋っている状態であり、自分に不都合な事、隠したい事は黙っているのだから。
そのガミーグが隠したい事次第では、今後がどうひっくり返されるか分かった物じゃない。
うん、強制的に喋らせないと駄目だ、これは。
「しかし、こんなのの代理人として決闘しないといけないとか、国選決闘者って大変なんだな」
「それはそう」
「それは本当に思いまス」
「人権は平等な物であると言う建前を守るためには致し方ない事ですが、ナルさんの言葉には全面的に同意します」
それはそれとして、サンコール……吉備津がちょっと可哀想になって来た。
でも、この心意気はプロの決闘者になるのなら持っておくべき物なんだろうな。
味方をしたくない依頼者と言うのに遭遇する事は、誰かの代理として戦うのなら、決して珍しい事ではないのだろうから。