414:スズVSアショーペーヴィ -決闘前
「アレがそうなのか」
「そうですね。アレが今回決闘する相手国の方々です」
本日は2024年12月6日金曜日。
つまりは国家間決闘が行われ、スズたちが戦う日である。
と言うわけで、俺たちは昼食後に決闘が行われるホールの観客席へと移動した。
「んー……あっちの観客も遊興ではなく、真面目に観察をするためって感じだな。誰も彼も真剣な顔つきだし、俺たちの事も観察するように見ている」
俺の周囲には、イチ、マリー、巴の三人が居て、俺の背後には巴小隊の残りの三人と『シルクラウド』社から招かれた三人が居る。
俺自身も含めたこの十人が、スズが客として招いた十人だ。
そして、俺たちの更に周囲には、麻留田さんが招いた十人……青金さんたち風紀委員会のメンバーと何処かの企業の人たち。
それと巴の叔父さんが招いた十人……文化祭の時に巴の父親である信長さんが連れていた覚えのある顔も一部含むメンバーが居る。
『ペラペラペ~ラ』
『ペペラペラペラ』
で、そんな俺たちを観察するように、相手国の観客三十人が、舞台を挟んで向かい側の席に座っている。
身に付けている衣装で大別するなら軍人と研究者が半々と言う具合だろうか。
何人かは俺と同年代の人間も居るな。
「当たり前なんだけど、英語でも日本語でもない言葉を喋っている事しか分からないな……」
「そうですね。ただ、日本であちらの国の言葉を知っている方は、興味があって学んだ方くらいでしょうから、これは仕方がない事だと思います」
「マリーも東南アジア圏の言葉はちょっと分からないですネ。誰か分かる人いますカ?」
なお、彼らが何を話しているかは全く分からない。
ならば誰かが翻訳をと思うところだが、マリーの言葉に対して誰も彼も首を横に振っている状態なので、仮に本当は分かっている人間が居ても、教えてくれる人は居ないようだ。
「こういう時は~英語でコミュニケーションを取る事がオススメですね~世界の何処の方が相手でも~エリート層の方なら~だいたいは通じますので~」
「うーん、俺の英語の成績でそれは無理だなぁ。羊歌さん」
まあ、今日の俺はただの応援する人なので、相手の言葉が分からなくても問題は無いか。
「それでは時間になりましたので、決闘を始めさせていただきます。第一の決闘に臨む者は前へ」
時間になったらしい。
『シルクラウド・クラウン』を身に着けたスズが舞台の上にまで歩いてくる。
「アレがアショーペーヴィ……。顔が隠れているせいだけで性別が分からなくなるのか」
「そうですね。随分と中性的な体格をしています。ただ恐らくは……男だと思います」
「イチの言う通りだと思います。確証は持てませんが」
「仮面体の機能によっては性別も重要なファクターになりますかラ、油断ならないんですよネ」
同様に、相手国の選手……アショーペーヴィも、金属と木材を組み合わせて作られた、見た目的にも素晴らしいマスカレイド用のデバイスを身に着けた状態で、舞台までやってくる。
ただ、アショーペーヴィの外見から得られる情報は殆どない。
服装は軍服に似たもので特徴が無いし、装飾品は身に着けていないし、俺たちの世代だと変な髪色に髪型でも魔力の影響で話が終わりなので。
敢えて挙げるなら、性別を窺わせる要素のことごとくが服で隠せる範囲であり、動きからも要素が取れないため、中性的で性別不祥と言う点が特徴ではあるか。
「話は……しているっぽいか?」
「声が小さくて聞き取れませんけどネ」
「……。互いに極普通の挨拶を交わしているだけですね」
「国家間決闘ではなく国家間交流と言った方が正しそうなくらいに平和な光景ですね」
スズとアショーペーヴィは何か話をしているようだった。
が、それ以上は分からない。
まあ、落ち着いて話をしているようなので、挑発の類はお互いにしてなさそうだな。
探りを入れるくらいはしているかもしれないが。
と、話も終わったみたいだな。
「それではカウントダウンを始めさせていただきます。3……2……1……0! 決闘開始!」
そうして、スズとアショーペーヴィの決闘が始まった。
■■■■■
「マスカレイド発動。映して、スズ・ミカガミ」
決闘開始が告げられると同時にスズはマスカレイドを発動する。
スズの前に薄い円盤状の水が発生して、それが通り過ぎた場所から仮面体へと姿が変わっていく。
顔に付けるのは天に向かって角を伸ばす般若の面。
身に着けるは神に仕えるものである事を表す巫女服風の衣装。
手に握るのは、様々な道具が入った大きな鞄。
「マスカレイド発動。アショーペーヴィよ、共に」
アショーペーヴィも性別を感じさせない声でマスカレイドを発動する。
薄ぼんやりとした光に包まれて、その中から仮面体が姿を現す。
顔に付けるのは虎を模したと思しき仮面。
身に着けるは首や胸部と言った急所を守りつつも、機動性を損なわない実用性重視の革鎧。
手に握るのは、錐型の刀身を持ち、切るよりも突くことを重視した形の片手剣。
「まずは相手の能力を見極めるためにも……」
両者のマスカレイドが完了し、先に動き出したのはスズ。
スズは調合を行うためにも、アショーペーヴィの動きを警戒しつつ、鞄の口を開いて中身を確認する。
そして、この中身ではアショーペーヴィの攻撃に対処できないと”直感し、諦めて”、鞄の口を閉じ、中身を入れ替えるためのリロードを行ってしまう。
「え?」
その完全に無駄な行動に誰よりも困惑したのは、行動したスズ当人だった。
今の鞄の中身には、アショーペーヴィに攻撃するための素材も、防御するための素材も揃っていた。
勿論、最適最善では無かったかもしれない。
けれど、必要十分な素材ではあった。
なのに、気が付けば、その手札を捨ててしまっていた。
それはまるで、自分の体なのに自分以外の意思が働いたかのような光景だった。
「イージーウィンをありがとう」
「あ……」
アショーペーヴィはそうして戸惑うスズを見逃すような決闘者ではなかった。
スズに向かって駆け、十分に距離を詰めた上で手に持った剣をスズの胸目掛けて突き出す。
スズはそれを避けようと思った。
反応は出来ていたし、避けるにも十分すぎる距離があった。
なのにスズの体と意思は、アショーペーヴィの攻撃を避けられないものだと認識、回避を”諦めていた”。
そして、スズの能力では避けなければ致命傷は必須だった。
故にアショーペーヴィは勝利を確信して笑みを浮かべ……。
『何をやっているスズ・ミカガミ!』
「っ!?」
「なっ!?」
だが、アショーペーヴィの剣はスズの肩を切り裂くに留めた。
スズがギリギリのところでしゃがみ込んだために。
決闘中のアショーペーヴィの台詞は、スズに聞かせる場合は英語、呟き系統は母国語です。
スズの台詞についても、相手に聞かせる場合は英語とお考え下さい。
ナル君と違って二人は会話を成立させられるだけの英語力があります。




