413:アショーペーヴィとは何者か
「と、スズの方はどうなんだ? 今週の金曜日には決闘だろう?」
「うん、その通りだよ」
「ちなみにガミーグ及び件の国の決闘者たちは本日到着予定。これから三日間、東京で調整をしてから、こちらに来るそうです」
説明終了後、とりあえず話題変更を試みた。
と言うわけで、スズの決闘について尋ねたところ、イチから追加情報が早速あった。
そうか、今日には到着するのか……つまり、今頃は日本に向かって航空機で飛んでいるか、既に着地して空港内で手続きを行っているとか、そんな状況か。
でもよく考えたら、到着したその日に決闘なんて無理をさせる状況でもないし、これは当然の事か。
閑話休題。
「スズの決闘相手は……アショーペーヴィだったか。どんな決闘相手なんだ?」
「それが調べても情報が出て来ないんだよね」
「情報が出て来ない?」
「うん」
スズ曰く。
向こうの国は日本ほど誰でも自由にマスカレイドと言う力を手に入れて、決闘を学べる環境ではないらしい。
これは向こうの国の政情や軍事政権の性質、治安維持の観点などから、仕方がない事だそうだ。
その為なのか、日本ほど決闘が娯楽として普及していないと言うか、映像として記録される事が少ないらしい。
なので、公的な映像記録となると、国家間決闘か、魔力量甲判定の決闘者か、よほど大規模な案件か、元より宣伝するつもりである何処かの大会か……とにかく、何かしらの事情が無いと、撮影はされないらしい。
だから、18歳未満……つまりはアマチュアで、魔力量乙判定でもあるアショーペーヴィの映像記録が存在しない事まではおかしくないそうだ。
「だけど、アショーペーヴィの場合は年齢も、男か女かも、身長がどれぐらいなのかと言う情報すらないの。ね、イチ」
「はい。今回の国家間決闘を受けて、現地の諜報員が探ったようなのですが、情報が一切出て来ませんでした」
「それは普通の事ではないんだよな?」
「普通ではないですネ。普通なラ、仮面体の見た目カ、周辺情報くらいは確認できまス。でモ、今回はそう言うところまで一切なしでス」
ただ、他の情報まで無いとなると、それは流石に異常の部類に入るそうだ。
スズで例えるなら、その仮面体の見た目も、仮面体の機能も、俺やイチたちとの繋がりも出て来ない状態との事。
うん、それは流石におかしいな。
しかも、俺たちが個人的に調べて分かりませんでしたじゃなくて、日本と言う国が調べて出て来ませんでしたなんだから、相当おかしい。
「でもまあ、だからこそ読み取れることもあるんだけどね。例えばアショーペーヴィと言う名前、これは現地の言葉で『諦め』を意味するんだって」
「諦め……仮面体の機能関係か?」
「警戒はしていいよね。仮面体の名前を機能と関連付けて命名する人は、どの国でもそれなりに居るから」
諦め、諦めか……相手を諦めさせるような何かがあるのか?
例えば、俺みたいに無茶苦茶堅いとか。
いや、魔力量乙判定で俺並みに堅いのは、ちょっと無理があるか。
「後はあまりにも情報が隠されているから、一芸特化、初見殺し特化の機能である可能性も高いかなとは思ってるね」
「あー、どういう仕掛けなのかバレたら、それだけで勝率が下がると。そうなると、普段は別の名前を使っている可能性もありそうだな」
「当然あるだろうね。でも名前については、変えているよりは、無名の新人である可能性の方が高いかな」
「と言うと?」
「仮面体の名前を変えて不意打ちする。これは一度でもやったら国丸ごと警戒されるような戦術だから。そんな戦術は、今回のような、どちらの国にとっても負けても痛手じゃない国家間決闘で切るような札じゃない」
「なるほど」
俺はスズの言葉に納得を示し、頷く。
いやしかし、分からない、調べられない、と言う事から、此処まで読み取れる物なんだな。
スズくらいに頭がいい人たちはこれを当然のようにやっているとなると……うん、恐いな。
「ちなみに、こちらが有利になる案件だから逆に想定しないのだけれども。アショーペーヴィの機能の効果が不安定だから、私で試そうとしている。と言うのもちょっと考えてる」
「ああ、今回スズに通用したら正式採用で、通用しなかったら採用しません。的な?」
「そうそう。今回の国家間決闘は、観客も関係者だけだから、そう言う場として使ってもおかしくはないんだよね。どうにも私が呼ばれたのも似たような理由みたいだし」
なるほどな。
つまり、向こうにも何かしらの事情があって、国家間決闘の方がついでになっている可能性もある、と。
うーん、やっぱり政治が関わると事情が複雑になると言うか、何と言うか。
「とまあ、こんなわけだから、私が金曜日の決闘に備えて出来る事って実はあまり多くはないんだよね。たぶんだけどお互いに初見殺しを押し付け合うような形になるだろうし」
「なんだか、ジャンケンみたいな状況になって来たな」
「実際近いかも。ヨーイドンでお互いに攻撃を繰り出して、繰り出した攻撃の相性次第で、そのまま決着。と言うのは、魔力量乙判定の決闘者だと、魔力量から考えて普通にあり得る範囲の事だし」
結局のところ、スズの今度の決闘は出たところ勝負にならざるを得ないらしい。
仮面体の機能どころか、姿すらも知られていないのでは、そうならざるを得ないのは仕方がない事だけれども。
「そんなわけだから、もしも私が負けた時は優しく慰めてね、ナル君」
「分かった。その時はそうする」
となると、俺の対応もスズ次第だな。
当日はきっちり応援して、その後は結果次第だ。
07/14誤字訂正