410:12月ミーティング
「それでは本日のミーティングを始めていく」
本日は2024年12月2日月曜日。
と言う事で、午後は定例のミーティングである。
「さて、12月に入ったと言う事は、今年も残り僅かと言う事になる。ただ、だからこそなのだろう。この時期から来年三月までは、突発的な決闘、特殊な条件下の決闘、特別な決闘が多くなりがちとなる。なので、決闘に参加する諸君らはしっかりとルールを確認してから参加して欲しい」
味鳥先生の言う特別な決闘と言うのは……スズが今週の金曜日に参加する事になる国家間決闘が正にそれだな。
誰かの思惑の結果である事は言うまでも無いのだけれど、学生の身分で正式な国家間決闘に出るなど、そうある事じゃないだろう。
国家間決闘なのに負けても大きな問題は無いとか、参加できる決闘者の指定が18歳以下の魔力量乙判定だったとか、観戦できる人間が限られていると言った部分もかなり特殊だしな。
ちなみにスズの決闘を見るメンバーに関しては、ナルキッソス小隊とトモエ小隊の合わせて七人、それと『シルクラウド』社から残りと言う事になり、とても簡単に決まっている。
「そして、それとは別に諸君らに伝えるべき事がある。二週間後には期末テストがある。全員、勉学にもしっかりと励むように」
「「「……」」」
「いや、そこで嘆くなら普段からしっかりと勉強しろよ。バカルテット」
味鳥先生の言葉が教室中に響き渡った瞬間。
俺、徳徒、遠坂、曲家の四人が揃って天を仰いだ。
それに反応するように縁紅が何か言っているが……。
違うんだ、勉強が出来る出来ないだけじゃないんだ、テストと言う言葉そのものが俺たちの心を苛むんだ。
くうっ、こういう時ばかり、座学が出来る連中は俺たちの悲しみを分かってはくれないんだ。
決闘の実力でマウントを取ってやろうか!?
「はい、私が勉強計画を立てるから、ナル君は頑張ろうね」
「ナル様。私も助けられる部分は助けますから、しっかりとしてください」
「……」
と、そうして嘆いて、スズと巴から慰められて、そこで気づく。
俺たちの反応に対する教室内の生徒たちの反応は、概ね普段通りのそれだった。
けれど一人だけ……吉備津だけ反応が違った。
徳徒たちに声を掛けず、苦笑するばかりで、おまけにこちらには一瞥も向けようとしない。
何か……あってもおかしくはないか。
最初に味鳥先生が言ったからな、特別な決闘が多い、と。
吉備津が参加者となる特別な決闘があって、それで反応に変化が生じていても、何もおかしくはない話だ。
「まあ、頑張れるかは俺の決闘がどうなるか次第だな」
「それもそうかもね」
「では早速確認してみましょうか」
その後、ミーティングは特に何事も無く終了。
俺は早速、今月の自分の決闘が何時誰とする予定なのかを確認する。
「えーと、来週の金曜日、秘匿する形で、サンコールと……ガミーグ・ロッソォの強制自供を賭けて決闘」
「「……」」
俺が読み進めると同時にスズと巴の表情から笑みが消える。
たぶん、俺からも笑みが消えている。
日にちが来週の金曜日で、相手がサンコールなのは別にいい。
秘匿する形なのも、まあ、気にしなくていいだろう。
だが、ガミーグ・ロッソォ……『ペチュニアの金貨』の製造者兼研究者の強制自供を賭けて?
いやこれ……完全に授業ではなく本番で、特殊な決闘だろ。
「や、翠川。今月はよろしく」
「吉備津」
「「……」」
と、ここで気まずそうな顔をした吉備津が俺に話しかけてくる。
なるほど、表情とミーティング中の様子からして、俺が今ここで知るよりも早くに吉備津は知っていたんだな。
そして、そんな吉備津をスズも巴も明らかに敵意を持って睨みつけている。
「あー、スズ、巴、落ち着け。どうしてこうなっているのかとか、情報を得るタイミングの差とか、吉備津が俺に何の用があるのかとか、色々と気になるところはあるけれど、ここで二人が睨みつけていたら、話が聞けなくなりかねない」
「……。ナル君がそう言うなら」
「……。分かりました」
「助かるよ、翠川。いや本当にね……」
とりあえずスズと巴は抑えておく。
俺と吉備津はそこまで親しい訳ではないが、それでもある多少の付き合いと今の表情と行動から、この状況に対して思うところがあるのは分かるからな。
今は話を聞いて、少しでも情報を集めるべきだ。
周囲の人影は……俺たち以外で教室に残っているのは、瓶井さんだけだな。
他の生徒は敢えて早々に去ってくれたらしい。
だが、瓶井さんが俺にだけ見えるようにスマホを振ってもいるので、録音はしているようだ。
「それで吉備津。用件は何なんだ? みんな気を使ってくれたみたいだが、わざわざここで話したいって事は、割と急いで伝えるべき話なんだろう?」
「いや、そこまで急ぐ話でもないよ。どちらかと言えば、僕が今回の件についてちょっと思う事があるから、早めに共有したかっただけと言うだけの話。つまり、僕が一方的に荷を下ろしたいだけだね」
吉備津が適当な席に座って口を開く。
スズと巴は……距離を取ってくれたな。
「簡単に言えば、今回の件は、僕の家の本家が君たちに迷惑をかけた話になる」
「本家?」
「ああ、喜櫃家と言う、日本の決闘者たちの中でも特に有力な家の一つだ。特徴としては、人権意識が高く国選決闘者を積極的に出している事と、人間は女神の力を軽はずみに借りるべきではないと主張している事だね」
「それは……あー……」
此処まで言われて、俺はなんとなく察してしまった。
「うんそうだね。喜櫃家は最近の日本政府は女神の力を当てにし過ぎであると、掣肘しようとしたんだ。そうしたら、まさかの女神の力をきちんと借りるべき事態にクリーンヒットしてしまった。と言う話なんだよ」
間が悪い、とはこう言う事を言うんだろうなぁ。
俺は当事者になったにもかかわらず、思わずそう思ってしまった。