408:【速報】国家間決闘の誘い
「さて、今日はこんな所か」
「そうですね。色々と話が出来て楽しかったです」
全国一斉魔力量検査及びスキル『ドレスパワー』の試用結果の一次速報を読み終わった俺たちは、その後も実際の決闘ではどう運用するのか、コマンダー戦のオート効果との関係性はどうなのか、色々と話し合い、検討や推測を重ね、必要なら対策についても話し合った。
そうしている間に時間は過ぎ去り、既に今日の学園の授業の時間は終わって、放課後に入ってしまっていた。
勿論、決闘学園の性質上、放課後に入ってもそのまま自主練習をする生徒は少なくないし、俺たちもそうしている事は多いが……切り上げ処を見失うと何時までも話をしてしまいそうなので、ここらが切りどころだろう。
「それではナル様。また今度、機会があれば話でも模擬戦でも」
「ああそうだ……」
と言うわけで巴と別れの挨拶を交わしていた所……。
「っ!?」
「ん?」
「おや~?」
スズのスマホが唐突にメッセージ着信の音を流した。
これは珍しい事である。
普段のスズはこういう時は邪魔にならないようにノーアラームか振動で知らせる程度に留めているはずなのだが。
それが働かないとなると……緊急の話か?
「ゴメンね。ナル君……えー……」
「「「……」」」
そんな俺の考えが正しかったかのように、届いたメッセージを見たらしきスズが何とも言えない顔をしている。
「何かあったようですし~萌はまだ留まりましょうか~」
「スズ。問題ないなら何の連絡が来たのか伺っても?」
「あー、アタシは離れておく。今日の風紀委員会の担当だからな」
「ボクも離れておくね。役に立てないだろうし」
「お茶と茶菓子のお代わり準備しておきますネ」
「イチも手伝います」
「スズ、問題がないなら話してくれ」
「……。そうだね。此処に居るメンバーなら話した方が都合がいいかな」
羊歌さんと巴がスズに事情を聴くべく視線を向ける。
大漁さんと瓶井さんの二人は『ナルキッソスクラブ』の外へと出ていく。
マリーとイチは話を続けるための準備をする。
そして、特にやる事が無かった俺が席に着き、他の準備が整ったところでスズが口を開く。
「簡単に言えば、私、スズ・ミカガミが国家間決闘の代表者の一人に選ばれたみたい」
「「「!?」」」
スズの第一声に羊歌さん以外の全員が、程度の差はあれど驚きの表情を露わにする。
「色々と確認する必要がありますね~。相手の国~誰なのか~何時なのか~何処なのか~……そして~、何故なのかと~何を賭けてなのか~。あ~守秘義務の有無についてもお願いしますね~」
「ちょっと待ってね。今急いで一通り目を通しちゃうから」
国家間決闘。
それは国同士の揉め事を解決する際に用いられる仕組みだ。
勝てば自分の所属する国が何かを得て、負ければ何かを失う。
決闘らしい決闘とも言える。
そんな決闘の代表者に選ばれる事は、決闘者にとってはこの上ない名誉であるが、負けた時に晒される非難の量を考えると普通の決闘者にとっては恐ろしいほどにプレッシャーがかかる役目でもある。
それにスズが選ばれた?
うん、名誉な事ではあるが、それ以上に何故と言う思いが拭えない。
スズは魔力量乙判定……つまり魔力量1000以下の人間だし、技術面でもスズ以上の決闘者は幾らでも居るはずだし、そもそもマスカレイドを覚えてから一年も経っていない。
つまり、スズ以上の人材は幾らでも居るはずで、こう言っては何だが、国家間決闘と言う重要な場でわざわざスズを選ぶ理由が分からなかった。
俺でも此処まで簡単に分かる事を国のお偉いさんたちが分かっていないなんてあり得ないので、なおの事である。
「順に言っていくね。まず日付は2024年12月6日金曜日で、決闘を行う場所は決闘学園内。守秘義務はないけれど、一般公開もしない。当日に決闘を見られるのは私が招いた生徒だけで、最大10人まで」
「もうこの時点で~特殊ですね~」
うん、確かに特殊だな。
国家間決闘を学園内で行うのも特殊なら、それを一般公開しないのも特殊だ。
後、その日付だと来週の金曜日なので、かなり近い。
普通の国家間決闘なら、一か月以上前からスケジュールの調整やら何やらがあるものだと思うのだけど、こういう面でも特殊だ。
「相手は……仮面体の名前はアショーペーヴィ。魔力量乙判定で年齢は17歳」
「相手も未成年で魔力量乙判定?」
スズの言葉に俺は首を傾げる。
今言われた言葉通りなら、相手も相手で普通の国家間決闘では出さないような決闘者を出している事になる。
もしかして勝つことが目的ではないのか?
いやでも、決闘なのに、勝つのが目的でないだなんて、そんな事があり得るのだろうか?
「賭けるものは……私たちに伝わる範囲では少額の金銭になっているね。でも、この決闘の勝敗に関わらず日本に渡されるものがあるみたい」
「まさカ……」
「うん、『ペチュニアの金貨』の製造者にして研究者、ガミーグ・ロッソォの身柄だって」
スズの言葉に俺、イチ、マリーの表情が険しくなる。
勝敗に関わらずガミーグの身柄が日本に送られるのは嬉しい事であるが……まさか、当事者にされるとは思ってもいなかった。
「なるほど~。つまり今回の国家間決闘は~、タダで日本に渡したのではないと相手国が示すものであると同時に~、日本がルールを無視して奪ったものでは無いと示しつつ~、お互いの国にどれだけの戦力が居るのかを示すための~儀礼的決闘の側面が強そうですね~」
「そうですね。羊歌さんの言う通りだと思います。だとしても、何故、スズさんなのか。という疑問が残りますが」
「ですね~。その辺何か書いてありますか~?」
儀礼的決闘か。
うーん、ちょっと俺には分からない話になって来たな。
「ちょっと待ってね。今はまだ簡単にしか目を通してないから……。流石に何の情報もないと言うことは無いはず」
「スズ。イチはちょっと実家の方に聞いてきます」
「萌もちょっと家に電話をかけてみますね~」
「では私もそうさせてもらいますね」
「うん、三人ともお願い」
とりあえず、スズがメッセージの精査。
イチ、羊歌さん、巴の三人がそれぞれの伝手で情報を集めて、その結果次第だな。
うーん、俺にも何か出来ればいいのだが……悔しいが、俺に出来る事は特になさそうだった。




