403:犯罪組織の壊滅
「簡単にまとめてしまうのなら、『ペチュニアの金貨』を製造していた犯罪組織は壊滅しました」
「おー」
「ホッ」
「よかったね、マリー」
とりあえず『ペチュニアの金貨』を製造していた犯罪組織は無事に潰されたらしい。
これは本当に良い事だ。
新たな犠牲者が出る事を、一先ずは止められたのだから。
「ただ幾つも問題点があります。まず情報の流出が抑えきれなかった可能性があります」
「製造に直接関わっていた奴に逃げられたのか?」
「製造の責任者と言うべきか、研究者と言うべきか、中核の人間は捕まえたようです。しかし、出入りしていたのに見当たらない人間と言うのが何人か居るようでして、こちらについては現地当局と周辺国で協力して捜索に当たるそうです」
逃げた人間が居るかもしれない、か。
ただまあ、これについては仕方がないんだろうな。
今回の作戦はかなり大規模な壊滅作戦になったようだし、そうなればどうしたって漏れる情報がある。
そうでなくとも、摘発のタイミングでは拠点に偶々居なかった可能性だってある。
そう言う取り逃しについては、地道に捕まえるしかないのだろう。
中核の人間は捕まえられたのだから、それで良しと考えておこう。
「次に拠点内にあるはずだった『ペチュニアの金貨』……最低でも数百枚が行方知れずになっています」
「それは……怖いところがあるな」
「はい。ちなみに壊滅作戦は数日前の事です。なので先ほどまでスズがしていた、『ペチュニアの金貨』の意思は他の金貨から魔力を引き出せる話も併せると……」
「組織の誰かが持ち逃げした可能性もありますガ、金貨そのものが何処かに逃げテ、勝手に動いている可能性もありそうですネ。なるほド、これは問題ですネ」
「はい。なお、目下、こちらも全力で捜査中との事です」
あるはずの『ペチュニアの金貨』が行方不明。
うん、色んな意味で大問題だな。
あるはずのものが無いと言う時点でもう大問題だし、どうやって金貨が移動したのかも分からないのは問題だ。
一瞬、『ペチュニアの金貨』の意思がアンクルシーズの仮面体を暴走させた際に、その機能を模倣学習することで、自発的に金貨が逃げたのではないかと思ったが、これは時系列的におかしくなる。
つまり、仮に『ペチュニアの金貨』が自発的に逃げたのなら、それ以前から逃げ出すために使えるような能力をもっと前から持ち合わせていた事になる。
もう、何処からか『ペチュニアの金貨』が突然湧き出してもおかしくないな、これ。
「最後に、先ほど述べた『ペチュニアの金貨』製造の中核人物ですが、これもまた問題でした」
それはそうだろう、と、つい思ってしまったが、イチの表情からして、人格的に問題があると言う話ではなさそうだ。
「名前はガミーグ・ロッソォ。アメリカ人の研究者であり、ゴールド一族の研究にも企業による人員再編後に関与していて、ペチュニア・ゴールドマインの事故にも関わっているとされています」
「マリー、聞き覚えは?」
「無いですネ。当時のマリーは5歳児ですのデ、興味がない相手の名前なんて覚えてなくて当然ですガ。顔を見たらワンチャン思い出すかモ? と言うところでしょウ」
ゴールド一族には関わりがある。
けれど、マリーには覚えがない人物か。
でも、『蓄財』の研究も知っているのなら、それを悪用して『ペチュニアの金貨』を作れるのかもしれない。
そして、金貨の絵柄にペチュニアの花を使ったのも、ペチュニア・ゴールドマインの事故に関わりがあるのなら……繋がりがあると言う事になるな。
「この人物の問題はペチュニア・ゴールドマインの事故後にアメリカの裁判所に終身刑を言い渡されて、五年前に刑務所内で獄死していると言う記録がある点です」
「あ……」
「アー、それは駄目ですネ……」
「今頃、その刑務所……と言うより、関係各所何処も大騒ぎになっていそうだね……」
イチの言葉に俺たちは揃って、それは駄目だと言う表情になった。
いやだって、刑務所に収監されて獄死したはずの人間が、東南アジアの犯罪組織に居て、しかもそこで『ペチュニアの金貨』の製造と言う大罪を犯していたのだから。
これが駄目でなかったら、何が駄目なのかと言うぐらいの話だ。
「一応、燃詩先輩の計画だと、この後ガミーグ・ロッソォを日本に移送。そこで女神の力も利用して搾り取れるだけ情報を搾り取り、『ペチュニアの金貨』技術の対策を構築する。だったか? でもこの状況で、それは出来るのか?」
「こうなると色々なところが身柄を求めて来そうだよね。この分だと潜伏していた現地の有力者との繋がりも少なからずありそうだし……」
「揉めるでしょうネ……」
「既に揉めてますね。ただこれまでの根回しもありますので、国家間決闘を挟む事にはなりそうですが、何とか年内に身柄を日本に持ってくる事は出来そうです」
今更な話だが、2024年も後一月半ぐらいである。
それなのにガミーグの身柄を持ってこれるのは……たぶん、面倒な部分は決闘で解決して、厄介な部分は燃詩先輩が何とかしたのではないかと思う。
何の根拠も無いが。
「以上が『ペチュニアの金貨』を抑える話についての現状です。不安は残りますが、状況そのものは解決の方向に向かっています。イチたちは静観していれば大丈夫でしょう」
「まあ、そうだよな」
「国家間決闘に学生が関わる事はあり得ないもんね」
「自白の強要にしてモ、普通の決闘で済むでしょうかラ、マリーたちが関わることは無いでしょウ」
まあ、とりあえず、この件に関してはイチの言う通り、俺たちにこれ以上出来る事は無いはずだ。
俺たちはそれぞれの思い浮かべた予測が一致したことで、少しだけ安心していた。




