401:反省会と報告会
「えー、それでは只今より、グレーターアーム小隊との小隊戦についての反省会を始めたいと思います」
グレーターアーム小隊及び黒い何かとの決闘から丸一日経った。
警察及び学園からの事情聴取は難なく終わり、病院の検査でも何の異常も無く、と言うのが俺たちの現状である。
なので、当初の予定通りにサークル『ナルキッソスクラブ』にて俺、スズ、イチ、マリーの四人で反省会をする事になったのだった。
とは言えだ。
「まあ、ぶっちゃけた話として、グレーターアーム小隊との小隊戦での反省点は俺の初期衣装をもう少し考えてもよかったんじゃないか、くらいだよな」
「そうだね。相手がナル君の倒し方を考えていた以上、既に写真集で効果の詳細を出している聖女服じゃなくて、物理防御に特化したコスプレ鎧の方が良かったかも。そこは私も気づくべきだったと言う事で反省点かな」
「後はだいたいマリーたちの想定通りに事が進んでいましたよネ」
「そうですね。相手の初撃をナルさんが防ぎ、追撃をイチがいなし、スズとマリーの二人で仕掛ける。そして、二人の仕掛けが成功したら、そのまま各個撃破で押し込んでいく。これはイチたちが目指していた流れの通りだと思います」
俺の言葉にスズもマリーもイチも同意を示す。
勿論、細かい部分までと言うか、後から見返してみたら、もっといい手段を採れる場面もあったかもしれない。
個人レベルで修正するべき動きもあるかもしれない。
けれどおおよそについては反省点無しでいいだろう。
強いて言うなら、俺が挙げた通り、相手がグレーターアーム小隊であり、俺たちについて公表されている情報から考えて、最初に着る衣装を光属性以外の対属性防御に偏っている聖女服ではなく、物理防御に偏っているコスプレ鎧にした方が良かったかもしれない、程度だ。
そして、この点についても現実には『ウォルフェン』だけで防ぎ切れてしまったからな……。
まあ、最初の衣装はもう少し考えましょう、と言う反省点止まりだな。
「じゃあ次に黒い何かについてなんだが……。アレも反省点については無いよな」
「無いね」
「無いですネ。そもそモ、アレは想定外で規定外の存在ですかラ。マリーたちはよく対処したと思いまス」
「アレについて考えるならば、反省ではなく究明でしょう。スズもマリーも、今日の午前中を使って何かしらの情報は得ていますよね?」
「うん、持ってるよ」
「ですネ。色んな意味で当事者だからカ、色々と教えてもらえましタ」
「じゃあ、このまま報告会にするか。俺もアレについては少しでも知りたい」
と言うわけで、反省会についてはこの辺りで終了。
続けて報告会に移る事とする。
どうやら俺以外の三人は午前中を使って、色々な場所から話を聞いてきたらしい。
なお俺は逆に質問責めにされていた。
あの黒い何かの攻撃力がどれぐらいとか、直視してどういう風に感じたのかとかを、羊歌さんを含む色々な人に聞かれたのだ。
まあ、役割分担と言う奴である。
「ではまずマリーかラ」
マリーが手を上げて話し始める。
「あの黒い何かですガ、やはり『ペチュニアの金貨』関係の存在である事は間違いないようでス。アンクルシーズの持ち物から破壊された金貨が出て来たそうなのデ」
「やっぱりか……」
まあ、『ペチュニアの金貨』関係なのは知ってた。
雰囲気がペインテイルの暴走状態の時とかとよく似ていたからな。
今回の方がより統率されていて、より禍々しくして、より深い感じではあったけれど。
「ですがアンクルシーズの性格が『ペチュニアの金貨』を使う事を良しとしないであろう事。金貨があったのがお守りの袋の中と言う確認する事もあり得ない場所であった事。これらかラ、誰かがアンクルシーズの持ち物に金貨を紛れ込ませタ。そう言う考えが風紀委員会や教師の間では主流になっているようですネ」
「まあそうだよね。私もアンクルシーズについてちょっと調べたけど、『ペチュニアの金貨』の原材料を知っていたらブチ切れるタイプだと思ったし、学園から提出しろと言われた代物を隠し持つようにも思えなかった」
つまりアンクルシーズは被害者だったわけか。
マリーの言葉だけでなく、スズの言葉も併せて考えるなら、これはもう確定と考えていい事になるな。
いやしかし、そうなると……。
「ですネ。けれド、だからこそ問題なのでス。誰が『ペチュニアの金貨』を学園内に戻したかは分かっていませン。そしテ、その誰かは学園内で金貨を何も知らない他人の持ち物に仕込んだと思われまス。カメラにモ、誰の目にも留まらずニ、ひっそりこっそりとでス」
「悪意ある何者かが学園の関係者に潜んでいる事が確実になったわけですか。厄介ですね」
悪意を感じずにはいられないな。
『ペチュニアの金貨』を学園内に戻したは善意の行動で通るかもしれない。
『ペチュニアの金貨』をお守りの中に入れたは悪戯の範疇かもしれない。
けれど、それらを誰にも……未だに犯人が捕まっていない辺り、燃詩先輩にも見咎めらずにやっていると考えたら、それは悪意ある行動と捉えるべきだろう。
後ろめたい行動でなければ、周囲の目を逃れる気にはなっても、燃詩先輩の目を逃れる気にはならないからだ。
と言うより、逃れられない。
具体的にどうやるのかは分からないが、あの人がその気になれば、学園内の全てのカメラをチェックするぐらいは出来るだろうし。
「だからこソ、容疑者も絞れているみたいですけどネ。その容疑者が誰かまでは教えてもらえませんでしたガ」
「そりゃあそうだ」
「まあ、燃詩先輩の目まで逃れているのはやり過ぎだよね」
「要求ラインが高すぎるが故にですか」
ただ、燃詩先輩がどういう力を持っているのか、その詳細まで知っている人間は限られるのだろう。
だから、逆に絞り込む事も出来る、と。
「ま、犯人捜しは警察に任せよう。それよりも俺たちが気にするべきなのは、残り三枚だったか? 残りの金貨を自分の持ち物に仕込まれないようにする事だ」
「その事についてですガ。この後にマリーがマスカレイドしテ、『ドレスパワー』を使った上で学園中を一度見回る事になってますネ。似た能力の人も招いテ、一斉捜索するそうでス」
「そうか、それは良かった」
マリーの『ドレスパワー』を使えば、並大抵の防護措置を抜いて『ペチュニアの金貨』……と言うよりは、幽霊の類を感知出来るんだったか。
確かにそれを使えば、残り三枚を探し出すことは可能そうだな。
上手く見つけられれば、次の被害が出る事は避けられる。
それは本当に良い事だ。
ただまあ、念のために俺は同行しておこう。
また、黒い何かが現れるとも限らないしな。
「マリーからの報告はこんな所ですネ」
「じゃあ次は私でいいかな」
「はい、イチは内容的に最後でお願いします」
さて次はスズの報告であるらしい。
07/02誤字訂正