40:決闘者の結婚事情
「とまア、こんな感じですネ」
「なるほど。イチもマリーも中々に独特と言うか、特徴的なんだな」
イチとマリーの仮面体に付いている機能の確認はあっさりと完了した。
二人ともらしい仮面体に、らしい能力が付いている……ような気はする。
「それでナルちゃん。制服の取り込みはどう?」
「ん? んー……ちょっと試してみる」
さて、スズたちが仮面体の機能を確認している間、俺はずっと決闘学園の女子制服を着用。
それに魔力を通して、型を取ったり、構造を理解したりすることをやっていた。
時間にすると……一時間には満たないくらいだろうか。
では、その構造理解が上手くいったかを確かめてみよう。
と言うわけで、俺は制服を全て脱ぐと、魔力による再現を試みる。
結果は?
「なるほど。ナルさんの模倣はそのままなのですね」
「そうみたいだね。でも、胸の校章のディテールとかが甘いから、単純な時間不足かも」
「ちょっと試しに引っ張りますネ。アー、強度とかも微妙ですネ」
俺が着ていた通りの制服は再現できた。
つまり、イチの言う通り、ワイシャツはギリギリだし、ブレザーは前が締まらないと言うサイズである。
調整は……もうちょっと構造理解が進めば、たぶん出来る。
で、スズの言う通り、校章のような細かい部分のディテールがちょっと甘い。
ホックとかもちょっと捻じ曲がっているし、ボタンも正円を描けていないな。
また、マリーがソックスの端を手にした金貨で少し引っ張ってみたところ、簡単に破れてしまった。
それどころか、その後に指で引っ張ってみても、破れてしまった。
魔力で構成された物質は、魔力で関わる形でなければ破壊できないはずなのだけれど、そのルールが適用できていないという事は、強度がまるで足りていないな。
「キャストオフ! よし。じゃあ、もう少しの間、制服を着ておくか」
「そうだね。何なら許可を取って、放課後まで着れるようにしておこうか?」
「それはちょっと……」
俺は魔力で構成された制服を吹き飛ばすと、物質としてある制服を身に着けていく。
うん、やっぱり胸の辺りがきついな。
まあ、それでも流石は俺で、よく似合っているわけだけれど。
「なんで一度キャストオフしたんですか?」
「丁寧に脱ぐのが面倒だったとかでしょウ」
さて、これで確認は終わり。
だが、授業時間はまだ残っている。
普通ならば、休憩を挟んで再確認を始めるのだろうけど……他に確認するべき事があるな。
「で、今更なんだけども、スズはともかくとしてイチとマリーが俺にも仮面体の機能を教えてくれたのは、今後の事とやらが理由なんだよな。で、その今後の事ってのはなんだ? 想像は付いているけれど、一応確認しておきたい」
「「「……」」」
なので俺は一度しっかりと腰を据えて、イチとマリーの二人に話を聞くことにした。
この手の話はなあなあにしておくと、良くない事になりがちだからな。
「今後の事の意味としては二つありますネ。学校行事と卒業後に関わる話でス」
「やっぱりそうなのか」
「はい。ナルさんが思い描いている通りだと思います。ですがそうですね。折角の機会なので、しっかりと説明しましょう。スズが」
「うん。説明するね。ナルちゃん」
「分かった」
うん、やっぱりスズは全部分かっているよな。
これまでを考えれば当然だけれども。
「先ずは学校行事について。と言っても、こっちはまだまだ先の話になるね。どんなに早くてもデビュー戦が終わってからになるはず」
「ふむふむ」
スズ曰く、決闘学園では今後、マスカレイドした複数人……概ね四人一組で協力して、一つの事に当たる行事が少なからずあるらしい。
その手の行事ではメンバーを固定して組んでおいた方が何かと便利であり、それを分かっている一部の生徒は既に固定で組めるように動き出しているとの事だった。
で、スズ、イチ、マリーの三人は俺と組みたいので、今日のように動いているし、だからこそ仮面体の機能も教えてくれたようだ。
仮面体の機能すら分かっていない相手と組むことなど不可能だからだ。
「とは言え、最終決定権はナルちゃんに委ねるつもりだけどね。ナルちゃん。ナルちゃんは私たちと組んでくれる?」
「組むに決まってる。俺の仮面体の事情を考えたら、変な相手とは組めないしな。その点気心が知れていて、受け入れてもくれているスズたちは願ってもない相手だ」
「ありがとう、ナルちゃん」
「ありがとうございます。ナルさん」
「センキューでス! ナル!」
うん、そう言う事情で、改めて言われたのなら、俺には受け入れる以外の言葉なんてない。
と言うわけで、学校行事の面については、これで解決だ。
で、もう一つの卒業後とやらについては……。
「で、卒業後ってのは、つまり婚姻とか婚約とかの話でいいんだよな?」
「あ、あー。ナルちゃん知ってたの?」
「スズ。幾ら俺でも、魔力量甲判定者は実質的に伴侶を複数持っているような状態になっている事くらいは知っている。詳しい事は知らないけどな」
まあ要するに結婚関係の話だ。
俺が把握している限りだと……俺のような突然変異も存在するが、魔力量と言うのは遺伝による部分も少なからず存在している。
なので、魔力量に優れた人間の子供は一人でも多く欲しい国では、魔力量甲判定者が男性の場合、複数の女性を娶らせるのが主流になっているらしい。
勿論、日本では一夫一妻が法律で決まっているので、公にはそんなことは無いですよ、と言い続けているそうだし、本人たちの意思を無視するようなことを公私にわたって許してない訳だが。
「うん、それでだいたいあってる。それでね、ナルちゃん。私はナルちゃんから離れる気はないの。けれど、国はどうあってもナルちゃんに複数の女性を寄り添わせようとするの。だから……いっそのこと、私の方から積極的に動いちゃおうかなって」
「それで選んだのがイチとマリーの二人?」
「うんそう。あ、勿論二人とも、そう言う関係になる事は了承済み。むしろ三人で協力して、変なのがナルちゃんに近づかないようにしようって言い合っている感じだね」
「と、スズは言っているけれど?」
俺はスズの手を掴みつつ、イチとマリーの二人に問いかける。
「心配しなくてもスズの言っている通りです。実のところ、イチの家は日本政府とも関わりがありまして、スズと協力できるのは、こちらとしても願ってもない事なのです。また、イチ個人として考えても、ナルさんの妾になれると言うのは色々と良さそうだな、と」
「マリーも同様ですヨ。詳しい事情は長くなるので今はちょっと割愛させていただきますガ、強要の類は一切ないと言わせていただきまス。マリーからナルへの恋愛感情ハ……こっちも今はまだ言っても嘘くさいだけですネ。たダ、同じ一年の中から誰に嫁ぐかを考えたなラ、ナルを選びますヨ」
「お、おう。なるほど」
どうやらイチとマリーの二人も問題はないらしい。
ちなみに俺としてはギブアンドテイクのような関係で婚約を結ぶのは十分にありだと思っている。
そこから愛を育むことが出来ない訳ではないし、国が求めている事は愛が無くても問題はないからな。
むしろ必要なのは、スズが言うように女性同士で協力し合えることかもしれない。
「あ、ナルちゃん。分かっていると思うけれど、学生の間は不純異性交遊は厳禁だからね」
「それは分かってる」
うん、それは当然の事である。
学生の本分が学ぶ事であるのは、決闘学園でも変わらない。
「不純異性交遊があるト、その間で強制婚約なんですよネ。この学園。望まないのなら決闘でぶちのめして破棄させるみたいですけド。望まない側が10で、望む側が1とかの決闘になるらしいですよ」
「そもそも無理やりに事を及ぼそうとするやつは男女問わずマスカレイドを使って叩きのめしていいと女神は明言していますけどね。なので恐いのは暴力よりも薬や酒です」
「ナルちゃんの場合、迫られることも考えた方がいいけどね。世の中にはそういう趣味の男性も居ると聞くし、ナルちゃんの状態だと見た目がもう圧倒的だから」
「待って、なんか急に怖い話になって来た。いや確かにそう言う怪しい目で俺を見てる奴が居るのは感じていたけれども。俺は男だから、男だから、な!」
と、思っていたら、なんか急に血なまぐさい話になってきた気がする。
なので俺は慌てて止めに入るのだが……。
「ナルちゃん。男の子にだって穴はあるんだから、気を付けた方がいいよ。犯罪者に常識なんて通じないんだから」
「ヒュッ……」
「そう言うわけだから、部屋の戸締りはしっかりとして、飲み物は絶対に目を離していない物か未開封の市販品に限定。男女問わず二人きりには極力ならない。これぐらいは守った方が身のためだからね。冗談でも何でもなく」
「き、肝に銘じます……」
なんだろう、決闘学園に来てから、今日が一番肝が冷えた日だったかもしれない。
俺がそんな事を思っている間に、授業の時間は終了した。
イチとマリーの仮面体の機能は既に決まっているのですが、今ここで出しても本格的に暴れさせる際には忘れられていそうだなという事で、今回はカットです。