4:魔力量甲判定者たち
「こちらで時間までお待ちください」
「分かりました」
俺が通されたのは大きめの控室だった。
俺は一度室内を見渡し、空いている席へと適当に腰掛ける。
今現在、室内に居るのは……俺を含めて11人。
「ふむ」
「……。ふあっ」
2メートル近い身長に筋骨隆々の男性に、白衣を着た小柄な女性、この二人は年齢からしても、ほぼ間違いなく教職員だろう。
「お、新しいのが来た」
「みたいだな」
「すげーイケメンっすね」
「……」
「どうも」
俺以外の男子生徒が五人。
声を上げた順番に、丸刈り、赤モヒカン、緑の癖っ毛、何か睨んでる奴、桃色髪の優男。
ほぼ見た目だけの第一印象だとこんな感じだな。
なんとなくだけど、前三人の頭の中身は俺と大差ないように感じるな。
睨んでいる奴はよく分からないからスルーしておくとして。
桃色髪は……なんか、仲良くしておくと、色々と助かる気がするな。
「ああ、魔力量甲判定組同士、よろしく頼む」
と言うわけで、素直に挨拶をしておく。
最初から喧嘩を売ったって、得な事は何一つないからな。
「君で九人。後一人が新入生代表の護国さんで、今年の甲判定は十人と聞いているから、これで一通り見えたって事かな」
「そうなるんだろうな。ちっ、男の方が多いのかよ」
「そこは~気にしても~仕方がなくない~?」
今居る女子生徒は三人。
声を上げた順番に、明るくてボーイッシュなの、青髪ツインテのスケバン、金髪もこもこのおっとりさん。
こちらも第一印象だとそんなところだ。
うーん、まあ、女子生徒との付き合いは普通のクラスメイト程度でも付き合えれば十分かな。
あまり親しくし過ぎるとスズが……その……なんと言うか……怖い。
時々妙なプレッシャーをスズから感じる事があるんだよな、うん。
「すみません、遅くなりました」
「護国か。問題ない。まだ集合時間前だ」
と、ここで赤髪ロングのポニーテール、護国さんがやってきた。
制服をきちんと身に着けた彼女の姿には、隙のようなものは一切見当たらない。
さて、先ほどのボーイッシュな女子生徒の言葉を信じるのであれば、これで今年の魔力量甲判定の新入生は全員揃ったことになるようだ。
「樽井先生。時間前ですが全員揃いましたので、良いですかな?」
「……。味鳥先生の好きなようにどうぞ」
「では、マスカレイドのお披露目についての説明を始める。全員しっかりと聞くように。もしも聞きそびれて間違えてしまうと、大恥をかくことになるぞ」
どうやら話が始まるようだ。
俺は背筋を伸ばして、しっかりと聞く態勢を取る。
「諸君らも知っての通り、この場に集められたのは今年の魔力量測定で甲判定を得た者たちだ。例年は5人程度なのだが、今年は素晴らしい事に倍の10人も居る。いわゆる、豊作と言う奴だな」
「「「……」」」
「そんな君たちはどういう形であれ、今後、この学年の中心人物となり、非常に目立つことになって、ゆくゆくはこの国の決闘者を率いる存在として、頭角を現していく事が期待されている。そして、今日はその第一歩! 決闘者として最も重要なファクターの一つである魔力量に優れたものとして、威容に溢れた仮面体を構築し、同級生たちに我は此処にあり! そう国内外に示す場になると言うわけだ。どうだ、テンションが上がって来ただろう」
「「「……」」」
個人的にはテンションが下がる話である。
いやまあ、目立つのが悪いとは思わないし、期待されていると言うのも悪い気分にはならないのだけど……威容、威容なぁ……ゴツゴツとか、ムキムキとかなぁ……うーん。
「……。別にテンションが上がらなくてもいいですよ。味鳥先生の言葉は決闘者として実際に戦う者の意見でしかありませんので。優れた魔力量と言う時点で道は幾らでもあります。ただ、どのような道を行くにしても、優れたマスカレイドを持っておいて損はありませんので、威容に溢れた仮面体である必要はありませんが、この後のお披露目自体はしっかりとやりましょう。安心してください。昔と違って、初めてでも失敗するようなことはありませんので」
「む……。まあ、樽井先生のような技術者も必要ですし、それはそうですな」
今更だが、初めてでも大丈夫だと言うのは嬉しい話だな。
俺はマスカレイドにも、それを発動するためのデバイスにも今日初めて触れる。
だから、面倒な操作とかあったらどうしようかと思っていた部分もあるのだけど、そう言うのがないのなら、色々と安心できる。
「よしっ! とにかく自分らしさだ! 自分らしさを前面に出して、自分の望む未来に相応しいマスカレイドをするのだ! そうすれば、自然と望む結果が付いてくるはずだ! 諸君らにはそれだけの素質がある!」
「「「……」」」
自分らしさ、自分の望み、かぁ……ふむふむ。
「……。ではそろそろ、実際の手順の話に移りましょうか」
そう言うと樽井先生……白衣の女性が段ボール箱の中から二つの物品を取り出す。
「……。まずは全員、これを着用してください。これは皆さんの正体を隠すと共に、マスカレイドの発動を補助するための装置でもあります。これをしっかりと着れば、マスカレイドの発動に失敗する事はあり得ませんので、安心してください」
一つはフード付きの雨がっぱのような見た目だ。
俺の身長でも足元まで隠せるような丈の長いデザインだ。
「正体を隠す理由はなんなんで?」
「ある種の様式美、あるいはサプライズと言う奴だな。直前までどんな人物なのか分からないようにした方が、マスカレイドをした後のインパクトが強いではないか」
「なるほどなー」
「道理って奴っすね」
丸刈りの質問に味鳥先生が答えて、その答えに丸刈りが頷くと共に、赤モヒカンと緑癖毛が声を漏らす。
「……。次にこれを。こちらはマスカレイドを発動するためのデバイスです。決闘学園入学と同時に全生徒へ配られるモデルで、安価かつ低出力のモデルですが、極めて安定性の高いモデルでもあります。ああ、間違っても今ここで発動しないように。もしも発動したら、安全の為に制圧しますので」
「樽井先生ではなく、私が、だがな」
もう一つは顔の鼻から上を隠すような形になっている、無地で白い仮面。
裏側には電極に似たものがゴチャゴチャと付けられている。
試しに顔に当ててみれば、まるで顔に吸い付くかのようにくっついて、軽く頭を動かしてもズレたり剝がれたりする様子は見られない。
「お~、落ちな~い」
「……。そう言う技術ですので」
「プラスチック? 金属? どっちだろ、これ」
「どっちだっていいだろ、そんなの」
この場での反応はおおよそ二種類か。
初めてデバイスを付けるらしい、おっとりとボーイッシュは不思議そうにしつつも、俺と同じように色々としている。
だが、初めてでないらしいスケバンなどは落ち着いた様子だ。
「……。さて、全員付けましたね。ではこの後について。味鳥先生」
「うむ。私たちはこの後時間になったなら、大ホール中央の舞台に移動する。そしてそこで、魔力量測定の結果の順番に従って、一人ずつマスカレイドを発動していく。順番は魔力量が多いものから順番にだ」
魔力量が多い順番……ああなるほど、だから俺が一番だと通達があったのか。
トップバッター……行けるのか? 俺に。
いや、失敗することは無いと言っていたから、たぶん大丈夫なんだろう。
うん。
「魔力量が多い順番からなのは? インパクトがどうこうと言うのなら、魔力量が少ないものから始めていった方が盛り上がると、素人的には思うんだが」
「当然の疑問だな。だが答えは簡単で、マスカレイドを維持していられる時間の関係だ。詳しくは授業中にやる事になるが、マスカレイドを発動中は魔力を消費し続ける。魔力量が少ないものから始めてしまうと、最後に十人の仮面体を同時に見せる事が出来ないかもしれない。だから、魔力量が多いものからなのだ。納得したかね?」
「……。分かりました。理由があるなら構わないです」
睨んでた奴が声を上げ、味鳥先生が返す。
が、俺としてはそれどころではないんだよなぁ。
いや、大丈夫なはずなんだが……うーん。
「では、改めて順番を発表する。それとマスカレイドに伴う諸注意もだ。間もなく定刻になるが、諸君らの健闘を祈る!」
そうして順番が発表され、俺たちはその順番に従って大ホールの舞台へと移動を始めた。