399:決闘を終えて side-グレーターアーム小隊
「ここは……控室?」
目を覚ましたアンクルシーズの視界に控室の天井が映る。
そして、体を起こそうとして……異常なほどに体が怠く、口と指先くらいしかマトモに動かせない状態である事に気づく。
同時にどうして此処に居るのかを思い出そうとするも、頭に靄がかかったかのようになっていて、上手く思考が回らなかった。
「目を覚ましたみたいだな。アンクルシーズ」
「グレーター……アーム? っ!?」
アンクルシーズの視界に影が落ち、グレーターアームの顔と声を認識する。
そうして自分の仲間を認識したことで、これまでに何が起きたのかを少しずつ思い出し始め、小隊戦と言う場で自分が何をしたのかも知覚し始める。
「チョウホウは!?」
やがて自分が……本当にあれが自分だったのかも、何が起きたのかも分からないが、とにかく自分の体がしたと認識していることを全て思い出したアンクルシーズは、自身の攻撃によって傷つけてしまったチョウホウがどうなったのかを真っ先に問いかけた。
「此処に居る。うん、やっぱりアレはアンクルシーズじゃなかったんだね」
「良かった……」
チョウホウの姿を見たアンクルシーズは安堵の言葉を漏らす。
「良くはない。あの時点で勝敗が決していたと言える状況ではあったけれど、アンクルシーズの暴走のせいで私が退場になったのは事実なのだから、それは反省して」
「うっ……はい。ゴメン……」
「反省してくれたならそれでいい。で、分かっていますよね? アンクルシーズのせいで負けたのなら、次はアンクルシーズのおかげで勝って、私たち全員の成績をプラマイゼロに戻したい事くらいは」
「それは……え?」
チョウホウの言葉にアンクルシーズの表情は二転三転していた。
落ち込み、諦め、困惑する。
「俺たちはお前と一緒に勝つことを諦めてないって事だよ、アンクルシーズ」
「え、えと、なんで……」
「逆に聞きますが、どうして授業で一回負けた程度で諦めなければいけないのですか? それも相手がナルキッソス小隊な上に、こっちは正体不明の暴走のせいで壊滅したと言う、事故そのものな試合内容で」
「それは……そうかも……」
「と言うか、この程度で小隊解散なんてしてたら、わっちたちが組む相手が居なくなるんだけど」
「あー……うん、そうだね……」
グレーターアーム、チョウホウ、サンライザー、三人の言葉に少しずつアンクルシーズの声が明るくなり、表情も柔らかくなっていく。
「御歓談中失礼。私は三年の陽観と言います。貴方たちに至急話しておかなければならない事がありましたので来ました」
と、ここで控室の入り口から、複数人の生徒、教師、警備員たちが入って来る。
先頭に立つのは、決闘学園三年生にして、魔力量甲判定者である陽観光。
その直ぐ後ろには、風紀委員会所属の二年生にして、時期風紀委員会委員長に内定している青金竜の姿もあった。
「まずはこちらの衣服に急いで着替えてください。何があるのか分かりませんので。ああ、他の三人の分もありますので、出来ればお願いします」
「? 分かりました」
「どうするよ?」
「従っておいた方が良いと思います」
陽観から渡された白一色の衣装にアンクルシーズたちは急いで着替える。
ただ、アンクルシーズはまだ体が上手く動かないため、風紀委員会の生徒たちに手伝ってもらいながらだ。
それと、勿論の事として、女子であるチョウホウとサンライザーの着替えは急遽用意された衝立の先で、女性陣に守られつつとなっている。
「すまないが、合わせて衣服、手荷物の検査をさせてもらう。先ほどの決闘でのアンクルシーズの暴走。その原因が何処にあるのか分からないのでな」
「それについては、むしろ僕たちからお願いしたい事です。何があったのか分からないと、反省も何も出来ないので」
「協力感謝します」
そうしてアンクルシーズたちは着替え、妙な着心地の良さと安堵感を覚えつつも、自分たちの制服、デバイスが検められていくのを確認する。
また、そうこうしている間に警察も到着し、捜索と確認は警察も合同での物になって行われていく。
やがて見つかったのは……撃ち抜かれて、中身ごと穴が開いた、アンクルシーズのお守りであり、縁が黒焦げとなっている穴はまだ僅かに熱を持っていた。
「どういうことだ? なんでマスカレイド中だったのに所持品が傷ついている……」
「アンクルシーズの持ち物に何かあるだろうとは思っていたが、これは……」
「まさか、いやだがそうなると、厄介な話になって来てしまうぞ……」
お守りの発見に場はざわつく。
マスカレイド前に身に着けていたものが、マスカレイド中に破壊されることなど、仮面体が身に着ける必要があるものでもなければ、普通はあり得ないからだ。
だが事実としてお守りは傷ついている。
「中を見ても?」
「あ、はい。むしろお願いします」
陽観がお守りの口を開き、中に入っているものを出していく。
アンクルシーズのお守りに入っていたのは、普通のお守りらしいお札と……撃ち抜かれて砕かれた『ペチュニアの金貨』であった。
「さて、これで一つ確定しましたね。今回の件は『ペチュニアの金貨』が関わる事案のようです。申し訳ありませんが、四人とも警察の方に包み隠さず話してきてください。誰が仕込んだのか、確かめる必要があります」
陽観の言葉にアンクルシーズたち四人は静かに頷いた。
陽観の持って来た白い衣装ですが、浄化作用や憑依防止機能が付いた特殊な一品となっております。
なんでそんな物を持っているのかって?
陽観先輩の実家都合です。
なお、悪霊に取り憑かれている人が着ると、即席の拘束服になる模様。
なので、これを難なく着れた時点で、陽観先輩視点ではアンクルシーズたちにはシロ判定を出しています。