393:狙うは何処
マスナル一周年!
と言う事で、本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
なお、今回は別視点となります。
時間は少々遡り土曜日。
ナルたちがグレーターアームと会話してから暫く経った後。
学園の空き教室に四人の生徒が集まっていた。
「それでグレーターアーム。どうしてナルキッソスたちと話していたんだ? 次の決闘相手だって分かっているだろ」
口火を切るのは伸びた前髪で目元を隠した男子生徒……アンクルシーズ。
彼は咎めるような口調で以って、筋骨隆々の男子生徒……グレーターアームに問いかける。
「理由は色々だな。まあメインは敵情視察と思考誘導ってところか」
が、グレーターアームはアンクルシーズの口調を気にする様子も無く、普段通りの様子で応える。
「上手くいったのか?」
「前者はともかく後者は厳しいな。こっちの挑発を受けて、乗ったような姿は見せていたが……本気もフリもどっちもあり得そうな感じだ。期待はするべきじゃないな、ありゃあ」
「そうか……」
グレーターアームの言葉にアンクルシーズは考え込むような姿を見せる。
「つまり、こちらの情報を無駄に晒しただけ。と言う事ですか」
「どうだろう? 正直、あのスズ・ミカガミたちがわっちたちの情報を集めていないとは思えないんだけど。少なくとも、アンクルシーズ以外の三人の個人戦情報は完璧に集めているでしょ。つまり、どっちも新しい情報の開示は無しでいいと思うけど」
代わって反応を見せたのは二人の女子生徒、チョウホウとサンライザーの二人。
ただし反応は対照的で、チョウホウは不満げに、サンライザーは宥めつつも実情は無関心に近い。
「そうだな。と言うかだ。ぶっちゃけ、アイツらがどう動くかはどうでもいいんだ。それよりも俺たちが気にしないといけないのは……アンクルシーズ、お前がどっちを望むかだ」
「……。分かっている。勝利を狙うか、成績を狙うかだろう?」
勝利か、成績か。
それはアンクルシーズたち……と言うより、今後の授業でナルたちと戦う者の大半に課される事になる判断である。
勝利を望むのであれば、あのナルキッソスを倒さなければならない。
ドライロバーと言う、態度はともかく実力は国内有数の決闘者であった者が特別な道具を持ち込んでなお倒せなかった、『玲瓏の魔王』とすら呼ばれるようになった実力者を。
偶然や幸運だけでは絶対に通せないほどに強固な守りを、相手に合わせて自在に変える事が出来る防御を、手を緩めれば傷を無かったことにされてしまう再生を、上回らなければならない。
対して成績を望むだけならば、ナルキッソスは放置でいい。
成績を付ける教師たちもナルキッソスの守りを打ち破る事の難しさはよく分かっているからだ。
だから、今回であればナルキッソス以外の三人を倒せれば、その時点で決闘の勝敗はどうあれ、アンクルシーズたちはほぼ満点の評価を貰える事だろう。
どちらの方が楽であるのか、決闘者として後がないアンクルシーズがどちらを選ぶべきなのかは……明らかではあった。
「それでも僕は勝利が欲しい。舞台の上で、自分の力で戦って、勝利を得たい」
だがそれでもアンクルシーズが選んだのは勝利を求める事であった。
「これは完全に僕の我が儘だ。成績だけを求めるのなら、僕がコマンダー席に着いて、ナルキッソス以外の三人を倒すことに注力するべきだ。なんだったら、僕を抜いて、もっと成績や相性がいい生徒を入れるべきだ。でもそれでも……僕は勝ちたい。決闘者として勝ちたい。成績を得るためだけに決闘をするような真似はしたくない」
アンクルシーズは自身の言葉を言い切ると、グレーターアームたちの顔を見る。
「いいじゃねえの。それでこそ、俺の筋肉の活躍を見せる価値があるってものだ」
「筋肉は知りませんが、同感です。決闘者ならば勝利を追い求めるべきです」
「そうだね。それに勝利を求める方が場も盛り上がるし、色々と美味しいよね」
グレーターアームたちの答えは肯定。
アンクルシーズが決めた方針に従うと言うものだった。
「みんな……ありがとう」
そして、三人の言葉にアンクルシーズは頭を下げる。
「だが分かってるな、アンクルシーズ。それなら戦術も戦略もガッチリ決めておくのは勿論のことだが、お前含めて全員がやれるだけの事をやらないといけねぇ」
「ああ分かっているとも。作戦なら考えて来た。机上の空論かもしれないが、これならギリギリ通すことは出来るはずだ」
「ギリギリですか……。となると、スズ・ミカガミの調合が上振れたり、ナルキッソスの衣装が増えていたりしたら……」
「ああ、そうだね。場合によっては何も出来ずにボロ負けなんてこともあるかもしれない。ただ、僕たちの手札でこれ以上の手段は見当たらなかった」
「ふうん。良いんじゃない? わっちは乗るよ。元より相手は圧倒的な格上。勝つも負けるも運次第くらいに思っておいた方が健全ってものでしょ」
「ありがとう。なら、この案を元にブラッシュアップしていくとしよう。それと、これが通らなかった時の案もね」
アンクルシーズがノートを広げ、その内容をグレーターアームたちに説明する。
勝てる可能性はある。
上手くいかない可能性も当然ある。
だがそれでも……1%でも勝てる可能性があるならと、アンクルシーズたちは議論を積み重ねていく。
「勝つ……勝つんだ。なんとしてでも。どんな手を使ったとしても。僕を信じてくれた仲間たちの為にも……!」
そうして議論を煮詰め、この場は解散。
一人教室に残ったアンクルシーズは、誰かに言い聞かせるように独り言を呟きながら、自分の懐に入っているお守り……その中身として、いつの間にか入っていた小さな円盤状のそれを握り締めた。
『憎い……憎い……憎い! 生きている者が! 生を謳歌している者が! 我が失ったものを享受している者が憎い! 何故、何故に! どうしてだ!? どうして我だけがこんな目に遭わなければいけないのだ! 奪い取ってやる! 全てを奪い取ってやる! 貴様らを……掴んでやる!』
それから漂う怨嗟の声に気づかず。
『キャハッ、アハハハッ! いいなー、羨ましいなぁ……』
何処からともなく響く少女のような声にも気づかずに。