39:スズの仮面体の機能
「えーと俺は……」
「ナルちゃんはそこで見ていて」
「分かった」
スズが結界の中央に立ち、俺は結界の外で適当な席に腰かける。
うーん、下着無しスカートだと、やっぱり感覚があれだなぁ。
これならいっそ、裸の方が気分はいいかもしれない。
それはそれとして。
スズのマスカレイドはしっかりと見ておかないとな。
縁紅との一件でスズが漏らした言葉が本音なら、魔力量を覆せるような何かがあるわけだし。
「マスカレイド発動」
スズがデバイスを顔に付け、起動する。
すると薄い円盤状の水にも見える物体がスズの顔の前に出現。
水の円盤が通り過ぎた場所から、スズの体が仮面体のものへと置き換えられていく。
そうして現れたのは、般若の面を顔に付け、巫女装束を身に着け、大きなバッグを両手で持ったスズの姿だった。
ただ、初めてのマスカレイドの時にあったようなプレッシャーは感じない。
どうやら、あのプレッシャーは初回発動時特有の制御できない部分であったらしい。
「さて、ナルちゃんと違って私たちには時間制限があるから、サクサクっと調べてしまわないとね」
「そうですね。では、写真を撮っていきます」
「とは言エ、裏でちょくちょく確認していましたかラ、今日この場でするべきはナルへの説明ですけどネ」
「裏? 俺への説明?」
「その辺は私のマスカレイドが解けてからね」
色々と気になるワードが入っていたのだが、どうやらスズたちはそれどころではないらしい。
いやでもそれは当然と言えば当然か。
俺は実質無制限にマスカレイドを発動できるが、スズたちがマスカレイドを発動できる時間は10分未満であると、この部屋へ移動する途中に言っていた。
そして、魔力が切れれば、十分に魔力が回復するまでマスカレイドの再使用は出来ない。
なら、マスカレイド中でないと確認できない事を優先するのは当たり前の事だ。
「私の仮面体の機能として、今のところ確認されているのは、このバッグの中身だね。私がマスカレイドを発動する度に生成されるんだけど、ランダム性を一部に伴いつつ、色々と入ってるの」
そう言いつつも、スズはバッグを床に置き、中身を取り出していく。
出てくるのは……赤い液体の入った三角フラスコ、青い液体の入った丸底フラスコ、黒い液体の入った試験管、何かの薬のカプセル、パッケージングされた錠剤、粉末入りのビニール袋、少量の液体が入ったガラス質な何か、スポイトにシャーレ……色々だな。
中には十字を幾つも組み合わせたような、とても複雑な形状のガラス容器なんかもある。
ただ全体的には……理科の実験で使いそうなものが多いだろうか。
「私たちで調べた限り、これらの物質は私の魔力で出来ていて、マスカレイド解除と共に消える。単体なら非常に安定している。ガラス容器たちは非常に脆い。と言う特徴を持っているの」
「ふむふむ、なるほど。でも単体なら安定という事は?」
スズがこれらの物体に共通している特徴を教えてくれる。
いやしかし、単体なら安定しているという事はだ。
それは裏を返せば、混ぜ合わせたら何かが起きたと言っているようなものでは無いだろうか?
そして、その事を示すかのように、既にイチとマリーは結界から少し離れた、何かの装置の所に立っている。
「うん、此処からが私の仮面体の機能の真骨頂だね。今回はナルちゃんに見せるためだから、確定しているので行くね」
そう言うとスズは黒い液体の入った試験管の栓を抜き、その中に錠剤を一粒入れる。
すると……。
「!?」
「うん、ちゃんと同じ効果が出た」
スズが居る結界の内部が、一瞬にして黒い煙に覆われて、何も見えなくなってしまった。
まるで……いや、煙幕そのものである。
「スズ。排煙装置を動かしますネ」
「同時に結界も少しだけ緩めます」
「お願い、マリー、イチ」
マリーとイチが装置を動かすと、結界の中で発生していた煙が吸い込まれて、部屋の外へと排出されていく。
が、吸っても吸っても煙幕は途切れず、なくなったのは、教室一つ分くらいの空気を吸ったのではないかと俺が思った頃だった。
「とまあ、こんな感じに、液体と薬または液体同士を、二つ以上を混合すると何かが起きるの」
「何かか……もしかしなくても爆発とかも起きる感じか?」
「うん、起きるね。と言うより、爆発は一番簡単な反応かな? 五つくらい混ぜれば、どう混ぜたって爆発するみたいだから」
「な、なるほど」
どうやらスズは何時の間にやら爆弾を生成し扱えるようになっていたらしい。
いや、爆弾だけじゃないな。
たぶんだが、毒とかその辺も扱えそうな気がする。
となると、そうして生み出されるものの中には、縁紅のような甲判定者でも受ければ危険だと断言できるようなものが含まれているのかもしれない。
「一応聞いておくが、まだ全部の組み合わせを調べられたわけじゃないんだよな?」
「うん、調べられてない。と言うより、ある程度の傾向は読めても、完全に調べ切るのは無理じゃないかな? 薬液だけでも何種類もあるし、固形の薬についてはそれ以上。毎回同じ薬があるわけでもないし……今日の生成物についても、このシャーレとスポイトは初めて見たかな」
「なるほど。なんだか全部が判明すれば、何でも出来そうだけど、それまでは大変そうな機能だな」
「そうだね。幾つか決闘にも使えそうな組み合わせがあったけれど、それだけじゃないし、日々の研究が必要な機能だと私自身も思う」
「まあでも、スズなら何時か扱い切れるとは思う」
「ナルちゃん……うん、私頑張るね!!」
そして、スズでもまだ傾向が読めるだけで断言はできないのか。
となると、相手にとっては何時までも、何が出てくるのか予想が付かない、極めて危険な機能になりそうだ。
「そう言えばスズ。壊れたり使ったりでバッグの中身が無くなったらどうするんだ?」
「あ、それは大丈夫。燃費は良くないけれど、リロード出来るから」
そう言うとスズは一度バッグを閉じ、再度開ける。
するとそこには、外に出してあるものとはまた別の物品がバッグ一杯に詰められていた。
なんだろう。
そう言う事が出来るのなら、色々とヤバい事も出来そうな予感がしてきたのだけれど……。
「ア、たぶんですけド、今のナルが思い描いている事は出来ると思いますヨ」
「スズのバッグの側面。穴あきの鉄板が仕込まれているんですよね」
「うん、だから、このバッグは案外頑丈だよ」
あ、はい。
相手に叩きつけた瞬間にバッグの中身が割れて混ざり、大爆発を起こす。
そして、その爆風がバッグを叩きつけた相手に向かって放たれるくらいは出来るのですね。
理解しました。
「と、そろそろ時間切れかな。それじゃあイチ」
「はい。次はイチですね」
と、ここで時間が来たらしく、スズが結界の外へとマスカレイドを解除しつつ出る。
スズがマスカレイドを解除すると共にバッグの外に出ていた危険物たちも消えた。
「ちなみに最初にマリーが言っていた裏ってのは?」
「自主練の事だね。先生に許可を貰って、放課後とかにこっそりやってたの。そう言う事が出来るって知っている新入生は、まだ少ないみたいだから、案外簡単に取れるよ」
「マスカレイドをして暴走しない事が第一条件デ、その他の安全確保も十分に出来ている事が前提ですけどネ」
「へー、なるほど」
自主練、自主練か……。
俺の場合は……わざわざ部屋を借りるまでではない気がするな。
衣装の取り込みと再現と維持の練習なら、寮の自室でも出来るし。
「では、始めます」
そんな事を考えている間に、イチのマスカレイドの機能確認が始まった。
それぞれの戦闘能力のイメージですが。
一般の乙判定生徒:昔のドラ〇エ
縁紅:昔のファ〇ナルファ〇タジー
ナル:耐久面は最近のファ〇ナルファ〇タジー、ただし火力はペ〇マリ
スズ:ア〇リエシリーズ
くらいには差があります。
なお、ナルとスズに限らず、何人かは強さの方向性が違っている仮面体になっているので、実はナルでも油断は出来ません。




