389:再検査と再解析 スズとマリー
「こんにちは燃詩先輩。再検査と再解析。両方の指示があったので来ました。あ、ナル君。こっちに居たんだね」
「水園か。解析は分かるが、検査もだと?」
「スズか。まあ、スズの『ドレスパワー』はそうだよな……」
未検証の衣装の『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を燃詩先輩と一緒に解析している事暫く。
俺たちが居る部屋にスズがやってきた。
まあ、これについては当然だな。
スズの『ドレスパワー』は普通の解析機器では解析不可能な物の筆頭だろうから。
「そうだね。私は効果を把握しているけど、一般的には意味不明なものだから」
「と言う事は……やっぱりそうなのか」
「うん、そう言う事。当時はナル君にはアビスとの関係性は秘密にしていたから、妙な音扱いしていたけどね」
スズの仮面体は般若の面を付けた巫女である。
巫女とは神に仕えるもの。
『ドレスパワー』で発生するバフの種類は衣装の意匠による。
そしてスズは、自身が仕えている神が明確な上に、その存在を自身に下ろしてこの世に顕現させることが出来る存在でもある。
此処まで揃えば、そりゃあ『ドレスパワー』の効果だってアビス関係の物になって当然だろう。
「水園。検査機器の準備が出来た。量るから、入れ」
「はい。分かりました」
燃詩先輩の指示でスズが魔力量の検査を受ける。
俺の時と同じように光の輪が何度か行き来して、止まり……その結果に怪訝な顔をした燃詩先輩の手で機器が再稼働、また光の輪が行き来する。
「水園涼美。魔力量750」
「うん、さっきと変わらないね」
「ん?」
燃詩先輩が検査結果を告げる。
その言葉にスズは満足そうに頷いているが、俺は思わず首を傾げてしまっていた。
スズの魔力量は去年時点で500程度だったはず。
そして、先ほどまでしていた燃詩先輩との話の内容からして、元の魔力量が多い方が伸びも良くなるはず。
つまり、俺の方がスズよりも魔力量の伸びが良くないとおかしい訳だが……現実には逆で、スズの方がより多く伸びている。
どう言う事だ?
「確かに変わらないようだが、奇妙な結果が出ているな。なるほど、これは確かに再検査案件だ。原因は……アビスか?」
「たぶんね。私がアビスの信徒になったのは去年の全国一斉検査の後。それからアビスの力を借りたりなんだりしているから、何かしらの影響が出てもおかしくはないんじゃないかな?」
「特に影響が大きそうなのは、体育祭での魔力の貸し借りに、ペインテイルの件での神降ろしか。体調に異常は?」
「自己判断できる範囲でも、検査できる範囲でも異常なし。調子がいい事を異常と捉えるなら、それを挙げてもいいかも?」
「なるほど。まあ、そう言う事なら、偶々、個人的な資質の影響で伸びが良いだけと言う事で、隠蔽してしまえばいいか」
「うん、私もそれでいいよ。ナル君も黙っておいてね」
「あ、うん。分かった」
とりあえずスズの魔力量の急激な伸びはアビスとの関わりが原因と言う事にしつつ、一般にはそれを秘匿する事にしたらしい。
まあ、そう言う事なら、俺は口を噤んでおこう。
二人が揃って口裏を合わせるのなら、そうした方が良いと言う事なのだろうしな。
「『ドレスパワー』についてはどうする?」
「変わらず奇妙な声が聞こえるって事で」
「ではそうしておこう」
ちなみにスズの『ドレスパワー』の効果を燃詩先輩の手によって正確に解析すると……。
自分と波長が近しい超常存在の声が聞こえやすくなる。
と言う事らしい。
この超常存在と言うのが、スズの場合にはアビスなわけだな。
なお、俺が巫女衣装を着る事とその状態で『ドレスパワー』を使う事はスズがストップをかけている。
なんでも、嫌な予感がするとの事だ。
「それでナル君はどうして此処に?」
「最初から呼び出されてた」
俺の事情についてはサクッと伝えてしまう。
隠す事でもないからな。
「なるほど。燃詩先輩、そう言う事なら、私も此処に居ていいですか?」
「構わんぞ。むしろ手伝え。データの整理をする人間が居るだけでも、吾輩が楽になる」
「ありがとうございます」
と言うわけで、再検査を終えたスズが合流。
俺の『ドレスパワー』解析を再開しよう。
「失礼しまース! 『ドレスパワー』の再解析を指示されたので来ましター! おヤ」
「イチはマリーの付き添いで来ました。スズにナルさんもですか」
「あ、マリーにイチ」
「まあ、二人も来るよな」
と思ったら、その前にマリーたちが来た。
うんまあ、マリーの『ドレスパワー』も一般的には解析不可能な対象だもんな。
そりゃあ、こっちに回される。
「でハ、『ドレスパワー』発動でス。アー……」
「ふむ。間違いなさそうだな」
そんなわけでサクッと再解析する事に。
マリーがマスカレイドを発動して、『ドレスパワー』も発動する。
そして、何かが見えたらしく、燃詩先輩が座っているデスクの棚の一つに目を向けている。
「ですネ。とてもよく見えていまス。細切れにされた人みたいなものガ。そして泣き叫んでいまス。ちょっとツラいのデ、解除していいですカ?」
「構わんぞ。むしろ解いておけ。見えていると気づいたら、寄ってくるかもしれない」
「「「……」」」
マリーの仮面体の意匠は一言で表すならば未亡人、つまりは親しい人を亡くしてその死を悼む人の服装。
それに合わせた『ドレスパワー』の効果は……たぶん、死者あるいは霊魂の姿を見る事。
マスカレイドを解除したマリーの顔色の悪さも考えると、かなり衝撃的なものが見えていそうだな。
「マリー。とりあえずこっちの席に座って休むといい」
「ありがとうございまス。そうですネ、そうしまス」
俺はマリーの手を引き、体を支えながら移動して、席に座らせる。
その上で、マリーの目が向いていた方へと目を向ける。
「一応言っておくが、これは吾輩が好きで所有しているものでは無いぞ。先日、教師へ素直に提出された一枚だ。念のために解析と……可能なら、安全な処理・無効化方法や救助・救済の方法を開発して欲しいとの事でな」
「そこは疑ってないです。燃詩先輩なので」
デスクの中には『ペチュニアの金貨』が入っているのだろう。
そして、マリーは原材料にされた誰かを見てしまった。
マリーはスプラッタ系列が苦手なのを考えると……たぶん、そう言う状態の人の姿が見えてしまったのだろうな。
「しかし、今の処理ではやはり霊魂を抑え込むようなことは出来ていないのか。まあ、吾輩の技術では霊魂の観測自体がまだ出来ていないのだから、こればかりは仕方がないな……」
その後、マリーの復活にはしばらく時間がかかり、マリーがある程度復活する頃には次の生徒がこの部屋へとやって来ていた。
つまりは……。
「失礼します。魔力量の再検査と相談をしに来ました」
「アタシも再検査になった。念のためだとさ」
「付き添いでーす」
「同じくですよ~」
巴たちがやって来たのだった。