388:魔力量検査
本日は2024年11月11日月曜日。
今日の午後は決闘学園に通う一年生の魔力量を一斉検査する日となっている。
また、今年の魔力量検査では併せてスキル『ドレスパワー』の試用も行い、一年生全員の『ドレスパワー』がどのような効果を持っているかを確かめる事になっている。
「……」
さて、決闘学園の一年生の人数は297名。
この人数を一か所の検査場で捌くのははっきり言って無理である。
と言うわけで、生徒は複数人の会場に分かれて、順次検査を受けていく事になっている。
また、『ドレスパワー』でもたらされる効果の中には、普通の検査機器では解析が難しいものも含まれている。
なので、普通の会場の検査では解析できないとなった場合には、専用の会場で再検査する事になっている。
と、此処までが普通の一年生たちが置かれている状況なわけだが……。
「今日はよろしくお願いします。燃詩先輩」
「ああ、今日はよろしく頼むぞ。翠川」
何故か俺は、最初から再検査専用の会場に通されて、燃詩先輩の前で椅子に座っている事になっていた。
「ふむ。状況が理解できないと言う顔だな」
「ですね。どうして俺は最初からこっちなんですか?」
まあ、燃詩先輩が再検査の担当者なのは分かる。
スキル『ドレスパワー』の開発者だし、その解析能力の高さは俺もよく知っているからだ。
ぶっちゃけ、この人が解析不能なら、学園の他の教師を呼んでも解析不能か、さわりがちょっと分かるくらいなものだろう。
「理由は幾つかある。来るかも分からない再検査の生徒をただ待つ事に吾輩の貴重な時間を浪費することが許せなかった」
「分かります」
うん、燃詩先輩は凄く忙しいはずだもんな。
今も俺と会話しつつ、手元では別の何かをしているっぽいし。
「なので、待ち時間を使って、ナルキッソスの『ドレッサールーム』に登録された衣服の中で、『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』の効果を確かめていないものを確かめることにした」
「俺としても助かる奴ですね」
「国としてもメリットがあるものだな」
つまり、三方丸く収まる話か。
じゃあ、呼ばれるのは当然か。
「それとナルキッソスの衣服を着ていない状態の『ドレスパワー』で何が起こるか分からないので、安全対策として最初から隔離しておくべきと言うのもある」
「……。遺憾ながら分かります」
実は今回の『ドレスパワー』の試用では、俺は衣服を身に着けていない、本当に素の状態での『ドレスパワー』を試すことになっている。
ただ、裸での『ドレスパワー』は、例の闇堕ちシスター服の魅了強化のような、危険な効果が出る可能性が高いと思っていたので、試すのを敢えて控えていたものでもある。
なので、普通の検査場に回されたら、その懸念を伝えて、場合によっては飛ばしてもらうつもりだったのだが……先に手を打ってもらった形だな、これは。
「と言うわけで。翠川、貴様は最初からこの部屋だ。とっとと検査を始めるぞ。雑談は検査をしながらでも出来るからな」
「分かりました」
納得がいったところで、俺は席を立ち、魔力量を測定するための機械……2メートルほどの高さがある四本の柱に囲まれた位置に立ち、機械の指示に従って深呼吸をする。
足元から頭の天辺までスキャンするように何度か光の輪が行き来して……測定完了。
「翠川鳴輝。魔力量3800」
「お、伸びてますね。去年の一斉検査では3600だったので」
「そのようだな。ブレを含めるなら最大3850、最小3750と言うところか」
「ブレ?」
俺は燃詩先輩の言葉に首を傾げる。
魔力量が伸びたのは確実のようだが、ブレとは何の話だろうか?
「知らないのか? 人の魔力量は体調によって多少の増減をする。吾輩の経験則に従うのならだいたい1%ちょっとぐらいは簡単に増減するな」
「へー」
まあ、納得は行く話だな。
人によって調子がいい日、悪い日があるなんてのは、当然の事だろうから。
「しかしこの分なら、在学中に魔力量4000への到達もあり得そうか。末恐ろしいな」
「そうなんですか?」
「ああ。これもまた吾輩の経験則だが、中学三年生の魔力量一斉検査で高い値を示した人間は、その後にある数年間の成長期でも、その高さに応じて伸びが良い傾向にある。魔力量甲判定者が優遇される理由の一つだな」
燃詩先輩曰く。
中学三年生の魔力量一斉検査の時点で、魔力量500の人間と魔力量100の人間が居た場合、前者の方がその後の魔力量の成長具合が良いらしい。
そして、魔力量1000なら魔力量500よりも更に良いし、魔力量3000ならなおの事。
つまり、俺が順当に魔力量を増やしていくと……成長期が終わる頃には、一般的にはとんでもない魔力量になっているかもしれないとの事だった。
うん、そりゃあ、魔力量甲判定が優遇されるわけだ。
だって、最終的な魔力量に大きな差があるのだから。
「とは言え、個人個人の成長率の差。千の壁、百の壁の存在もあるから、乙判定の魔力量700と魔力量900でなら、成長期が終わった後の魔力量に大した差は生じていないことはよくある事だがな」
「千の壁? 百の壁?」
「おい、翠川。こちらも知らないとは……授業でやっていないのか?」
「えーと、どうでしょうね? 俺が聞き逃したり、忘れただけかも……」
「はぁ……貴様と言う奴は……」
続けて燃詩先輩曰く。
魔力量の成長に当たっては、魔力量1000と魔力量100の部分に壁のようなものがあるらしい。
原理不明のこの壁こそが、魔力量に応じて甲判定、乙判定、丙判定で分ける事になった原因。
計算上ではまだまだ成長してもいいはずなのに、この壁の少し手前で魔力量の成長が止まってしまう人間が非常に多いそうだ。
それこそ、公表されている範囲では、世界中で年に数人……それも大半は百の壁の方……しか壁を超えた人間が確認されていないぐらいには珍しい。
「で、この見極めが出来るのが15歳前後であるから、日本ではこの時期の中学三年生を対象に一斉検査をするわけだな」
「なるほど」
つまりはこれもまた魔力量甲判定の人間が優遇される理由の一つな訳か。
だって、その千の壁とやらを、俺たち甲判定は既に超えてしまっていて、後は伸ばすだけなのだから。
「ちなみに、吾輩の推測が正しければ万の壁もある」
「えっ」
「まあ、早くても吾輩たちのひ孫や玄孫辺りで、ようやく存在を認識するであろうくらいには遠い話。実際に触れるのは、それこそ、決闘学園の一学年300名が全員甲判定で埋まるくらいになってからの話だろうがな」
「な、なるほど……」
ちなみに根拠はマスカレイドの術式の許容魔力量とか、人体構造から見る魔力量の限界とか、色々とあるらしい。
他にも基本的な魔力量増加に伴う肉体の変質とか、ユニークスキルからユニークの文字が取れるかもしれない話とか、色々とされた。
されたが、さっぱり分からなかった。
とりあえず燃詩先輩は一人だけ100年ぐらい先が見えているんじゃないかなと思った。
「と、いい加減に『ドレスパワー』の試用の方もやるぞ。特に裸の奴は先に行っておかねば」
「あ、はい。そうですね」
その後、俺は衣服を身に着けていない本来のナルキッソスの姿での『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を使用。
そして、その効果を燃詩先輩が解析。
結果。
裸状態での『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』は無事に、平時使用禁止と相成ったのだった。