387:グレーターアーム小隊とは
「じゃあ、順番に話して行こうか」
スズの言葉と共に、全員のスマホにグレーターアームたちの情報が表示される。
「既に知っている事だけど。グレーターアーム小隊のメンバーは、グレーターアーム、チョウホウ、サンライザー、アンクルシーズの四人。私たちで調べた限り、グレーターアームたち三人の勝率は六割超と、個人戦での成績が良いメンバーが揃っていると言えるね」
グレーターアームたちの勝率は六割超、か。
魔力量乙判定だと、甲判定の相手は厳しいし、乙判定同士では魔力量の有利は取れない。
そんな中で六割以上勝っていると言う事は、戦術や戦略がしっかりとしていて、実力があると考えていいだろう。
ちなみに、スズとマリーの二人の勝率も六割ぐらいで、イチは八割前後だったはずである。
「個人個人の情報を見ていこうか。グレーターアームは上半身裸の巨漢の仮面体だね。武器は巨大おろし金。物理火力に極振りした、一撃に全てを賭けたタイプ。最新の情報から計算すると、ナル君でも油断は出来ないレベルみたい」
画面にグレーターアームの仮面体が表示される。
うん、相変わらずの見事な筋肉だな。
流石はボディビルサークル所属。
肝心の火力は……俺と決闘した時よりも高まっている事だけは確かであるらしい。
どうやら俺と決闘した後に曲家……コモスドールとも決闘したことがあるようで、この決闘の時に俺ほどではないにしても防御寄りであるはずのコモスドールの防御を打ち破っている。
まあ、その後にコモスドールが上手くやったらしく、勝負そのものはグレーターアームの負けになっているようだが。
「次にチョウホウ。蝶の仮面に蜂柄の全身タイツの仮面体。武器は二本の包丁。素早さに力を割り振っているタイプだけど、個人的に最も重要なのは小回りの利きやすさかな。最高速度を出していても、直角に曲がったり、後方に跳んだり出来るみたい」
続けてチョウホウ。
体育祭の特殊決闘プロレスで戦った時と見た目に変わりは無いな。
スズたちが調べた限りでは、その頃と比較して戦闘能力の大きな変化はないらしい。
並外れて速い上に小回りが利くってのは……まあ、厄介だろうな、小隊戦なら特に。
「三人目、サンライザー。照東さんだね。見た目は後光を背負って、顔に半透明の器具とインカムマイクを付けたアイドル。仮面体の機能は低威力だけど指先からビームを撃てること。基本戦術は強度の高い『ロックウォール』で高台を作って、そこからの打ち下ろしだね」
確かにサンライザーの顔には、片目を覆うように半透明の器具が付けられているし、インカムマイクの先が口元に来ているな。
ただそれ以外に顔周りの変化が見られていない辺りに、照東さんの自信が窺えるような気がする。
で、戦い方で出ていた『ロックウォール』だが……壁と言うよりはお立ち台とか、ステージとか呼んだ方が良い気がするな。
俺の知っているそれと比べて、色々と違い過ぎる。
「最後にアンクルシーズ。見た目はコートを着用し、フードを目深に下ろし、ヴェールで顔を隠した少年。仮面体の機能は自分の周囲にフィールドを展開し、そのフィールド内の地面から手を生やせると言うもの」
アンクルシーズは……第一印象としては、暗い、だな。
なんと言うか、写真で見ても、一人だけ周囲の空気が重苦しく、張り詰めている感じだ。
それはそれとして、仮面体の機能を聞く限り、弱そうに思えないな。
「スズ。アンクルシーズは本当に勝ち星0なのか? この仮面体の機能があれば、勝ち方なんて幾らでもあると思うんだが」
「私もナル君に同感なんだけど、勝ち星なしなんだよね。と言うのもね」
スズが俺の疑問に答えてくれる。
なんでも、アンクルシーズの仮面体の機能で出て来る手の強度は、後衛よりの脚力に優れない仮面体であっても、普通に千切れてしまう程度のものらしい。
なので、知らないならばともかく、知っているならばちょっと足を鈍らせる程度が限界なのだとか。
つまり、ダメージを与える手段は別に確保しなければいけないそうだ。
しかし、この機能の燃費は決して良いものとはいえず、スキルを数度使えば、魔力切れになってしまうそう。
ならばと槍や剣、銃と言った武器を持っていた事もあったが、担当教師が匙を投げているとの事なので、合わなかったのだろう。
結果、少しの足止めしか出来ない仮面体では決闘に勝つことなど出来ず、勝ち星0になっているのだとか。
「モブマスカレイドにするとか……いや、基本的な武器の扱いが出来ないと、そっちも厳しいのか」
「仮面体の機能を捨てテ、普通のスキルの運用に特化すル。決闘者として生きるなラ、マリーにはこれくらいしか思いつきませんネ」
「イチもマリーに同意します。ただ彼の場合、家が決闘者の家で、親と兄が決闘者として頭角を示しているとの事なので、相手と直接戦うような決闘者への強い憧れがあるのでしょう」
「そうなんだろうね。ただ、学業成績とかを見る限り、コマンダーや決闘周りの各種業務の方が適性がありそうなのが、赤の他人である私でも窺えるレベルなんだよね」
「本人の才能と希望の不一致って奴か。ちょっと悲しくなるな」
うーん、これはグレーターアームがコマンダー戦にする事を提案するのも納得できるレベルだし、教師が他の道を勧めるのも分かってしまう。
実際、コマンダーのオート機能でアンクルシーズの機能が強化されて適用されたのなら、相当の厄介さになるだろうからな。
「まあ、アンクルシーズの事情についてはさておいて。こんな四人の小隊だから、奇策でない限りは取ってくる戦略は分かり易いよね」
「サンライザーが分断と守り担当、チョウホウが牽制と奇襲担当、グレーターアームが火力担当、アンクルシーズが阻害担当。と言うところでしょうか」
「そうだな。サンライザーで俺とスズたちを分断した上で、チョウホウとグレーターアームが仕掛けてくる。そして、合流にせよ、攻撃にせよ、防御にせよ、アンクルシーズが邪魔してくるんだろう」
「確かにチョウホウとグレーターアームに無策でマリーとスズが襲われたラ、退場させられそうですネ。少なくとモ、マリーがグレーターアームの攻撃を防ぐのが無理でス」
相手の戦略については、それぞれの能力を生かす形なら、基本的には今言った通りだろう。
基本から外れるのであれば……開幕にフルバフ乗せて、俺をぶっ飛ばすことを狙ってくるかもしれないな。
まあ、それなら真正面から俺が受け止めるだけなので、別に何も困らないし……うん、これは無いな。
「となると対策は……こうか?」
「そうだね。基本はこの形だと思う」
「どれだけ対応できるか次第になりそうですネ」
「初の小隊戦です。奇を衒うような真似は控えておきましょう」
その後、俺たちはどう動くかや、相手の一部行動への対策を話し合った。
これが上手くいくのなら、少なくとも無様に負けることは無いだろう。