384:食堂での雑談
「今思い返してみても、昨日は凄かったな……」
「巴たちも吉備津さんたちも圧倒的だったよね」
本日は土曜日。
現在時刻は昼食時。
今日の俺たちは何となくで校舎の食堂の方へと来ている。
人の入り具合は……授業がある平日よりは、まあ、ちょっと少ないくらいか?
「手も足も出ないとハ、正にあのことを言うのでしょうネ」
「とは言え、誰にでも予想できる結末だったからこそ、相手もそれを前提に動いていて、中々に見応えがありましたね」
話題に上がっているのは、昨日行われた巴たちと吉備津たち、それぞれの小隊戦について。
どちらも相手は一年生、魔力量乙判定だけで構成された小隊だったのだが、見事に味方四人残し……つまり、圧倒するような形で勝利していた。
ただ、相手の方も、一人だけでも落としてみせると戦略を練っていたようで、油断すれば危ない場面もあった。
つまり、見応えがある決闘だった。
たぶん、学校の成績的には、参加者全員に十分な点数が与えられたことだろう。
「縁紅は先週に戦ったから、これで一年生の甲判定でまだ小隊戦を戦っていないのは俺たちだけか」
「うんそうだね。相手はグレーターアームたちだよ」
「一週間を切りましたシ、そろそろ改めて情報を確認しないといけませんネ」
「そうですね。このタイミングで再確認すれば、調整もギリギリ間に合うはずですから」
さて、巴たちが頑張ったのなら、俺たちも頑張らなければいけないだろう。
だから、そろそろグレーターアームたちの情報を再確認して、専用対策が必要ならば話し合う必要があるのだけど……。
「違う、駄目だ。これじゃ足りない。クソッ、これでも足りない。堅すぎる。計算上でも貫けないんじゃ、現実でどうにか出来るわけがないんだ。考えろ。此処で貫く方法を見つけないと、勝ち目がない。此処で勝てなければ僕の決闘者としての道は……」
「……ボツ。……ボツ。……ボツ。……。ぐぬぬぬぬ……こんなものどうすりゃあいいんだ。こっちを搭載したら、あっちが立たない。でもアレ抜きじゃ、奴への対処が出来なくて……」
「ふっざけんなぁ! 勝てるかこんな物! なんで此処で反応できるんですかねぇ!? 人間辞めてませんかぁ!? 辞めてない? チクショーメー!」
「「「……」」」
なんか、少し耳を澄ますと、食堂のあちらこちらから怨嗟の声みたいなものが聞こえてきているな。
いや、『ペチュニアの金貨』関係で聞いてきたガチの怨嗟の声に比べれば、はるかにマトモな声なんだけど、陰の濃さで言えば結構なものな声が聞こえているな。
なんだこれ。
「スズ」
「一年生が入学してから半年以上、三年生が卒業するまで後数か月。色々と明暗が分かれている頃なんだと思うよ。で、そう言う人の一部が食堂を計算場所や考察場所、愚痴の掃き出し処にした結果なんだと思う。たぶん、来月には収まるよ」
「なるほど」
どうやら時期的なものであるらしい。
そう言うスズの視線は、陰のある生徒の中でも一部に注がれているのだが……顔を知っている相手でも居るのだろうか?
「実際の所としテ、一年生の一部……決闘者に向かないと判断された人間ハ、それ以外の道を考えるように言われる頃ですよネ」
「そうですね。イチが把握している範囲でも、夏季合宿中以外の公式戦で勝ち無しの一年生は何人か居ます。そう言う生徒が今回の小隊戦でも勝てなかったのなら、決闘者以外の道を模索するように教師から諭されるでしょう」
「そうか。まあ、そうだよな。俺もそう言う同級生に覚えが無いわけじゃないし」
しかし、道を変えるように言われる、か。
俺はもう誰の目から見ても決闘者としての適性有りだから、この道を進むのが俺自身も含めて当然であるけれど……逆に俺の目から見ても、決闘者には向いていないなと感じる生徒も居るもんな。
そう言う生徒にそのまま決闘者としての道を進ませるのは……本人も周囲もつらい事になる。
だから、この時期にはそう言う話が出てくるのだろう。
「決闘者として戦う以外の道だって大切だし、誇れる物なんだけど、人によっては受け入れがたい場合もあるみたいなんだよね」
「難しい話だな……」
なお、そうして決闘者としての道を諦めるように諭されても、学園を退学になるわけではない。
決闘者以外にも決闘に関わる道は幾らでもあるからだ。
デバイス、スキル、魔力を含む道具の製作者に始まり、決闘を安全に進行するための結界に関係する業務、事務や広報、警備業のように決闘以外でマスカレイドを生かす業務だってある。
なんなら、教師や参謀になるルートだってある事だろう。
だから、決闘者としての道を諦めるように諭されたとしても、気に病む必要はないのだけれど……俺がこれを言っても仕方がないだろうな。
俺は決闘者としての適性を持っている方だからな。
「クソッ!」
と、ここで計算をしていた男子生徒が声を上げつつ立ち上がる。
「……! ……。 くそうっ……!」
「ん?」
そして何故だか俺たちの事を見て驚き、睨み、早足で去っていく。
その視線と動きはまるで怨敵を見つけたかのようなものだった。
「スズ。もしかして、あの男子生徒って……」
「うん、アンクルシーズだね。次の私たちの決闘相手であり……これまで勝ち星0の一年生だよ」
「そうか」
アンクルシーズのそれは一方的な恨みつらみではある。
だが、ドライロバーやペインテイルなんかと違って、まだ理解が出来る恨みでもあるな。
だからと言って、手加減するような事は無いのだけれど。
「ったく。気持ちは分かるが、喧嘩を売るんじゃねえっての……」
食堂から去っていったアンクルシーズと入れ替わりに一人の男子生徒が現れて、俺たちに近づいてくる。
制服のシャツ越しでも分かる筋肉にこの声は……。
「グレーターアームか」
「おう。久しぶりだな。ナルキッソス」
アンクルシーズと同じく、今度の小隊戦で俺たちが戦う事になる相手、グレーターアームだった。