382:模擬戦の感想と反省
模擬戦は巴たちの勝利で終わった。
そして、模擬戦が終わったのならば、次にするべきは模擬戦の感想と反省を当事者同士で出し合って、何が良かったのか、悪かったのかを話し合う事。
一言でまとめてしまえば、反省会である。
なので、結界が解除されて、戦った俺たち八人と審判として居た徳徒と遠坂の二人、合わせて十人で車座になって話を始めるのだけど……。
「「「ナルキッソスが堅すぎる……」」」
まず真っ先に異口同音に言われたのがこれであった。
「俺が堅いのは事実だから否定しないが、四対一の状況になった時点で俺としても半分くらい詰みだったと言うか、反撃する余裕がないから身を守る事に専念していたのが実情なんだけどな」
実際の所、俺も見た目ほど余裕があったわけではないのだが……。
まあ、それが分からないように対応していたからな。
「その守る事に専念しただけ。それだけで護国さんたち四人でも攻め切れない可能性があったと言うのが、オレたちとしては問題と言うか、今後決闘する事になったら困る部分なんだけどな」
「外から見ていたワイたち視点でもどうすればいいんだこれ、と言う気持ちが相当強くなったからな。アレ、事前に一人でも落ちていたら、攻め切れなかった可能性があるだろ」
「そうですね。もしも一人でも落とされていたら、結果がどうなっていたかは分からないと思います」
「まあ、私たちもそれを狙って、開幕から攻勢に出ていたわけだから、そうでないとね」
さて、今回の模擬戦。
俺たちの戦略としては、とにかく誰でもいいから、相手を一人落とす、それが無理でも俺が隙を見て倒しきれる程度に削る、と言うものだった。
もしも一人でも落とせていれば、それが誰であれ戦力の低下に繋がり、俺を倒しきるには火力や手数が足りなかった事だろう。
「上手くいきませんでしたけどネ。マリーの攻撃はキレイに対応されてしまいましタ」
「私の調合も今回は下振れ気味だったんだよね。『ハンドミキサー』と『サイコキネシス』を合わせての高速調合は上手く行ったんだけど」
「イチの攻撃も対応されてしまいましたね。上手くやったと思ったのですが……羊歌さんに阻まれていたようです」
「俺もなぁ。糸の壁がなくなったタイミングで突っ込んで、巴に打ち上げられたのがな……。アレで何秒も動けなくなったのが、小隊全体としては致命的だったと思う」
まあ、巴たちには上手く対処されてしまい、通じなかったのだが。
うーん、今更だが、糸の壁を張られて、お互いに何をしているのか分からなくなったタイミング。
あそこで俺は一度防御に専念し、トモエたちの動きを見てから次を決めるべきだったかもな。
そうだな、この辺の細かい反省や改善点については、後でスズたちだけに話しておこう。
「萌たちの大きな反省点としては~ナルキッソス専用対策の不足ですかね~」
「まさか一人相手にあそこまで粘られるとは思わなかったよね。ある程度の想定と想像はしていたから、最低限の準備はしてあったけど」
「ただな……これ以上にナルキッソス対策を積んだら、逆に他が疎かになんだろ。それで他の三人に対処できなくなったら、本末転倒だ」
「そうですね。自分たちがやりたい事と、相手のやりたい事への対策札。そのバランスの見直しは必要でしょう。相手の実力にもよるので、調整は難しいところですが」
巴たちの反省点は……一応は火力不足になるのか?
とは言え、俺を余裕で倒しきれる火力って、ぶっちゃけ過剰火力だろうからなぁ。
たぶん俺を相手にする時以外は必要ない。
だからこそ、巴たちもどうしたものかと困っているのだろうけど。
「私たちの反省点は……多いよね? ナル君」
「そうだな。色々と見直して、改善する点はそれぞれにあると思うぞ」
で、他の反省点を具体的に述べないのは……まあ、直ぐに改善する事が難しい弱点だからだな。
俺と巴たちは、同級生で、俺と巴が婚約者で、日常の仲も良好と言っていいものであるが、それでも決闘者としてはライバルなのだ。
全てを明かすわけにはいかない。
どう改善すればいいのかが、既に自分の中で分かっている件ならばなおの事である。
「そう言えば翠川。あの『ウォルフェン』とか言うヤベー盾。アレ、もっと有効に使えそうなポイントが何度かあったんだよな。何で使わなかったんだ?」
「ああそれはワイも気になった。出すのもなんかワンテンポ遅れている感じがあったよな。どうしてだ? 言いたくないなら、言わなくても構わないが」
「ああその事か。『ウォルフェン』はなぁ……まだ俺が不慣れなのもあると思うんだが、何と言うか重いんだよな」
「「重い?」」
逆に改善案が思い浮かばない案件については、堂々と話してしまって、改善点を募る方が正解だけどな。
と言うわけで、徳徒と遠坂が話を振ってくれたので、俺は『ウォルフェン』の挙動について軽く話しておく。
「出そうと意識するのに、まずワンテンポかかるんだよ。そして、実際に出すのも、ちょっと溜めが必要になるんだ。しかも、『ドレッサールーム』に取り込んでからちょくちょくと練習しているのに、かかる時間が短くなる気配がまるでない」
「ナル君。普段の盾なら、パンチを出しつつ出現させるぐらいの事は出来るのにね」
「なるほど。だから、バニー服を着ての突進の時も普通の盾だったのですね。もしもあの盾で突進をされていたら、威力も跳ね上がっていたと思うのですが」
「お察しの通り、やりたくても出来なかった、と言うのが正解だな」
ちなみに、俺の『ドレッサールーム』で出現させたものたちは基本的に慣性が乗っている。
だから動き回りつつ『ドレッサールーム』を使っても、動きを阻害される事なく着替えられるのだが……。
『ウォルフェン』は溜めのせいか、重量のせいか、理由は分からないが、慣性の乗りがどうにも悪い。
なので、今回の水平方向跳躍に合わせて『ウォルフェン』を出したりしたら……500キログラム超の鉄塊に自分から衝突するようになってしまう。
よって武器として使うなら、振り下ろし一択だろう。
「そんなわけで、これについては改善案募集中だな。使いこなせれば、色々と出来そうなんだが」
「直ぐには思いつきそうにありませんね~」
「うーん、誰かに撃ち出してもらうとか?」
「カタパルトですカ。有りかもしれませんネ。ナルなら10メートルくらいの高さは何ともないでしょうシ」
その後も俺たちはしばらく話し合い、一般的な小隊戦、俺たちだからこその小隊戦、その両方に対する見識を深めていった。
さて、授業で行う小隊戦がどのようなものになるのか……今から楽しみではあるな。
『ウォルフェン』は読み込みにも出力にも時間がかかります。
『ドレッサールーム』に取り込まれている他の一般的な物の100倍以上の重量があるから仕方がないね。