38:ナルの仮面体の機能確認
「この部屋がそうみたいだな」
「ふむふむ。結界装置付きでメンテナンスは万全。排煙装置や消火装置も問題なし。壁や窓の強度も問題はなさそうだし、防音も大丈夫かな」
「盗撮や盗聴に関わる装置はありません。魔力の反応も飛んできていないので、現状で外から覗かれる可能性はないと思われます」
「鍵はかけましタ。窓などにも細工はありませんのデ、正規の手段でしか入ってこれないですネ。つまり安全でス」
俺たちは仮面体の機能を確認する部屋に着いた。
そして部屋に入った直後に、スズ、イチ、マリーの三人が何かを確認していき、安全を宣言する。
「え、スズたち。いきなり何の確認を……」
「ナル君。ナル君は今年の新入生の魔力量一位で、しかも既に魔力量三位の縁紅相手に圧倒的な戦いを見せつけ、戦えることを証明しているんだよ。となれば、そんなナル君を邪魔に思う人間だって居て当然。これくらいの警戒はして当然だって」
「それと同時に、ナルさんの仮面体に関わる情報は些細な物であっても値千金になります。強力無比な仮面体の情報は、一見すれば弱点や強みに関わらない物であっても、積み重ねれば何かを見出せる可能性がありますので」
「更に更ニ。事故と言う事にしテ、仕掛けてくる連中も世の中には沢山居まス。トラブルの種は未然に潰しておくのが最上ですのデ、こういう時は戸締りは万全にしておくのが鉄則でス。分かりましたカ、ナル」
「な。なるほど……ありがとうな。スズ、イチ、マリー」
どうやら色々と気を抜いていて、考えが足りない俺に代わって、スズたちが気を回してくれたらしい。
なので俺は素直に礼を言っておく。
「さてと、それじゃあ。ナル君の機能確認から始めて行こうか」
「俺からでいいのか?」
「装置の動作確認とか手順のチェックも含めてるから。ナル君は私の指示通りに動いてくれればいいよ」
「分かった。じゃあ先ずは何をすれば?」
「先ずは結界の中でマスカレイドをして」
「ああ」
それでは機能の確認を始めていこう。
と言うわけで、俺は部屋の中央に設置されている、直径3メートルほどの結界の中に入ると、マスカレイドを発動。
仮面体に変身する。
「変身完了。次は?」
「ちょっと待っててね、ナルちゃん。えーと、まずは三方向から写真を撮って、と」
スズが写真を撮り始める。
ちなみに今の俺は縁紅との決闘で見せた、ライダースーツ、ブーツ、大型盾を持った状態である。
「今更ですが、ナルさんの仮面体は顔に何も着けていませんよね。これはどういう事なのでしょうか?」
「単純に顔そっくりのマスクを被っていル。と言う話ではありませんカ? スパイ映画で出てくる奴みたいなものでス」
「うーん。学術的な話をするなら……仮面体ってその人のペルソナやエゴに関係するらしいんだよね。ナルちゃんはナル君が取り繕ったりすることが殆ど無い事や、自分の容姿に絶対的な自信を持っている事が影響して、顔を隠していないのかも」
「へー。そう言うのもあるんだな。俺個人としては、俺の顔を何かで隠すなんてあり得ないっていう思いはあるから、この姿なのは当たり前なんだけどな」
イチの疑問は尤もなものなのだろう。
俺が仮面体を知っている人間はそう多くはないが、その大半は顔を何かしらの方法で一部または全部隠していた覚えがあるからな。
例外は檻だけ出している状態の麻留田さんぐらいだが……アレはどういう事なんだろうな?
いずれ聞く機会があれば聞いてみよう。
「それで次は?」
「服、盾、ブーツの出し入れって出来る?」
「勿論できるぞ」
「盾を投げる事は?」
「えーと、ダメだな。手から離れた時点で魔力に戻る。再利用は問題なく出来そうだけど」
さて、本格的な機能確認の時間だ。
仮面体の機能には、魔力が関わった事で物理的には不可能な事が色々と含まれている。
それらの大半は、術者は無意識的あるいは意識的に最初から使う事が出来る。
それを確認するのが、この時間の目的だ。
ただ、機能の中には術者本人が無意識的に使う事を忌避しているものがあったり、術者本人以外から見ると何故その使い方をしないんだと疑問に感じるようなものもある。
そう言った部分の確認も、この時間ではしていくらしい。
「改めて見ますガ、デカいですネ。Eカップくらいはありますカ」
「身長も相まって、非常に大きく見えますよね」
「おまけにこの張りとツヤ……普通にナルちゃんに対して嫉妬する女性も出そうだよね」
「んんっ……」
と言うわけで、確認されているのだが……。
「うーン、お尻についても見事ですネ。本当に何処を見ても芸術品ですヨ」
「一応、トップとアンダーを記録しておきます。あ、他の部位もですね」
「うん、お願い。仮面体なら今後成長とかもないはずだから、全部きちんと測定しておけば、ずっと使えるはず」
「んー……」
いやこれ、機能の確認なのか?
盾や服を何度か出し入れしたところで、イチがメジャーを取り出し、体の各部を念入りに測定し始めたんだが。
後、マリーは俺の胸と尻を揉んでいるし、スズはスズで凄まじい勢いで何かを記録しているし……いやこれ、本当に機能の確認なのか?
いや、此処はスズたちを信じよう。
スズたちなら悪い事にはならないはずだ、たぶん。
「さてナルちゃん。次はこれを着てみて」
「これは……制服か?」
「そう、決闘学園の女子制服。樽井先生から、ライダースーツと同じようにこれを取り込んで、自由に着る事が出来るかどうか試すようにと、渡されてたんだ」
「なるほど」
俺は学園の女子制服を着ていく。
ただ、そうして着ていくとすぐに気付く。
「なあスズ。ワイシャツのボタンが上まで止められないし、ブレザーの前が締めれないんだが」
サイズが合ってない。
スカートやソックスは問題ないし、ワイシャツの腕の丈なども問題がないのに、なぜか上着の一部だけが収まらない。
「ああそれワザとなんだって」
「ワザと?」
「取り込んだ後でサイズが合わないまま再現されるのか、ナル君が望めばサイズ調整が施された上で再現されるのか、と言うテストだね。つまりはこれも機能確認の一端だね」
「なるほど?」
まあ、テストなら、このまま着続けるしかないな。
そして、衣装の取り込み方についてはもう分かっている。
盾やブーツの時と同じように魔力を染み込ませて型を取り、記録すればいい。
なおこれは後に分かった話だが、俺が魔力を染み込ませた物体はその時点で構造強化などがされて、俺が使う分には普通の物体とは比較にならないほどに丈夫になるようだ。
ただこの恩恵は俺だけで、他の人は受けられず、それどころか再利用も難しくなるらしい。
と言うわけで、レンタルだった大型盾は、この事が分かった時点で俺の買取となっている。
閑話休題。
「うーん、着てみたが……スカートが落ち着かないな。後、胸の揺れで服がダメになりそうだ」
「ナルさんは下着を着けていませんからね。落ち着かないのは当然の事かと」
「けれド、スズが持ち込んでいないのなラ……今度の土日に買いに行きましょうカ。女性用下着ヲ」
「下着……下着か……流石に男としてのアレコレがざわめく感じがあるんだが……」
俺は制服を着ると、魔力を染み込ませつつ、軽く動き回ってみる。
が、どうにも不安があると言うか、無理がある感じがするな。
見た目の美しさ的には何の問題も無いんだが、強度や心理面でどうにもなぁ。
イチの言葉通りなら下着を付ければ問題ないようだが……女性用下着を暫く着用し、取り込み、出現させて着用すると言うのは、流石に変態的過ぎやしないだろうか?
「ナルちゃん。女性用下着にはナルちゃんの美しさを引き立たせるようなものもあるし、市販品でいいのが無くても、ナルちゃんの立場ならオーダーメイドする事も可能だから。大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ、今度の土日で買いに行くか」
「うん、そうしよう。ナルちゃん。あ、買いに行く時は今の格好でね。その方が話も通しやすいだろうから。それと、制服の取り込みと脱ぎ癖はどうにかしておいてね」
「分かった。その時はスズも選ぶのを手伝ってくれ」
「うん、勿論だよ。ナルちゃん」
うん、俺の美しさを引き立たせるものがあると言うのなら、着用しない手はないな。
それに考えてみれば、これまで裸だったのが下着は着用している状態になるのだから、健全になったとも言えるのではないだろうか?
なんだ、そう言う事なら、買いに行かないなんてことは無かったな。
脱ぎ癖もまあ、今の肌触りなら一時間くらいは我慢していられるだろうし、最悪マスカレイドを解除すればいいだけの事、何も問題はないな。
「流石は幼馴染ですネ。誘導が上手いでス……」
「やっぱりスズに味方して正解だったとイチは思っています」
マリーとイチが何か言っているようだが、気にしなくていいだろう。
「じゃ、ナルちゃんが制服の取り込みをやっている間に、私の仮面体の確認をしようか」
「分かった」
「そうですネ」
「では、手伝います」
さて、ここで俺とスズが交代。
スズの仮面体について調べる事となった。
女性にもみくちゃにされるのはTSの華。
07/25誤字訂正