379:コマンダーのオート効果確認会 -後編
「じゃあ先ずは俺からだな」
残りの五人で先陣を切るのは縁紅……ゴールドバレットである。
なお、俺たちと巴たちはこの後にこの場で模擬戦を行う予定なので、八人揃って観客席で観戦と解析に専念。
コマンダーのオート効果を受ける先は縁紅たち五人で交代していく事で確保する。
と言うわけで、現在はサンコールが味方側、徳徒……ブルーサルが敵側として立っている状態だ。
「分かり易い変化はないね」
「だな。オレも何も感じない」
「俺視点からも分からねぇな。解析班どうだ?」
「反撃系の何かとは出ていますね~。ブルーサルが攻撃してみれば分かるかもしれません~」
ゴールドバレットのオート効果が発動する。
が、見た目に変化が見られたり、効果を受けている当人でも分かる変化は無いようだ。
スズと共に解析用の機械を見ている羊歌さんの言葉通りなら、反撃系だそうだが……。
「なるほど。じゃ、とりあえず……ほいっと」
ブルーサルが腰に吊るしていた投擲攻撃用のボールをサンコールに向かって投げつける。
勢いはほどほどで、普通に避けられる程度。
ただ、ゴールドバレットのオート効果見極めの為にサンコールはただ立ち続ける。
そして、命中まで後1メートルぐらいのところまでボールが飛んだところで、何処からともなく放たれた黄金の弾丸によってブルーサルのボールは撃たれ、弾かれ、床を転がっていった。
「なるほど~飛来物への自動迎撃ですか~クールタイムや回数の表記が見られないので~ゴールドバレットの魔力が続く限りは撃ち落とせるのかもしれませんね~」
「へぇ、そいつは良いな。編成と相手次第じゃ、一方的に距離の暴力を叩きつけられる訳か」
飛来物の自動迎撃、撃ち落としか。
どの程度まで撃ち落とせるのかとか、色々と検証が必要だろうけど……ゴールドバレットの言う通り、相手によっては致命的なレベルのオート効果になるな。
俺みたいに遠距離攻撃をしないタイプには無意味だけど。
「それじゃあ次は僕で」
「おうっ」
では続けて吉備津……サンコールがコマンダー席に立つ。
敵役は変わらずブルーサルで、味方役は曲家……コモスドールに交代だ。
そして肝心のオート効果は……直ぐに誰の目でも分かるものだった。
「晴れたな」
「晴れたねぇ。ナル君」
「そうですね。この日差しなら晴れ、あるいは日本晴れと呼ぶべきでしょう」
「強度次第ですガ、天候操作に対するメタ。と言う事ですかネ?」
「その天候操作自体、イチたちは今この場で初めて見ているのですが、そう言う事なのでしょう」
簡単に言えば晴れた。
もう少し詳しく言えば、結界内の天井に雲一つない晴れの光景が映し出され、そこから柔らかな日差しが結界内に降り注ぎ始めた。
これでもっと日差しが強く、夏の陽気のようになれば、色々と違うと思うのだが……現状ではただ晴れているだけである。
まあ、なんにせよ、初めての敵味方無差別……と言うより、環境そのものを対象としたオート効果、と言う事になるのだろう。
「じゃ、次はワイで。直ぐに入れ替わるからなー」
さてその後、遠坂……レッドサカー、ブルーサル、コモスドールの三人もオート効果を確かめた。
その結果を含め、縁紅たち五人のオート効果をまとめるとこうなる。
ゴールドバレット:味方への飛来物の自動迎撃
サンコール:結界内の環境を日本晴れにする
レッドサカー:結界内の重力を軽減
ブルーサル:結界内の空気抵抗を軽減
コモスドール:結界内の床に丈が足首くらいの草を生やす
うん、とりあえずあれだな。
「サンコール小隊は揃って環境を変化させるオート効果なのか。これってどうなんだ?」
「ぶっちゃけ困るな。オレ以外に空気抵抗減らしても活用できないだろ」
「ワイ自身には役立ちそうだけど、他のメンバー視点だと邪魔にしかならないな」
「ウチの草がどんな種類なのかとか、検証するべき点は多そうっすけどね」
「まあ、僕たちの小隊が決闘で生かすのは、検証や有効なスキルが整ってからだね」
現状だと困りものである。
例えばの話として、ブルーサルの空気抵抗軽減だが、これは敵味方問わず、物が速く飛んだり、高く跳べたり、物が落ちるのが速くなったり、速く走れるようになったりする。
現状でも有効活用できる効果が一部にはあるが、この状態に予め体を慣らしておかないと、普段の環境との差でむしろ隙を晒すことになってしまうだろう。
なので、困りものと言う評価に今はなってしまうのだ。
ただ研究が進めば……何かあるかもしれないな。
「えーと、この確認結果については後で学園に提出しておくとして……」
さて、縁紅たちまで確認したところで、この場に居る十三人のコマンダーのオート効果の確認は完了した。
コマンダー戦についてはまだ開発されたばかりの為、資料がまるで足りない分野である。
と言うわけで、今回の確認結果は決闘学園と燃詩先輩に渡されて、今後の研究や戦術検討に生かされるとの事である。
「……。こうなってくるとモブマスカレイドの連中の結果が気になるところだな」
「ですね~。この場に居る人たちはどちらかと言えば~仮面体の調整をしていない方ですから~」
「ナル様の結果から考えるに、調整前の仮面体に応じたオート効果になりそうですが、それは推測でしかありませんからね」
「効果をおおよそで分けるなら、対象が敵か味方か環境か、コマンダーを生かすのか舞台上の味方を生かすのか、この辺りが妥当かな。まあ、その辺が不明瞭なのもあるけど」
「アタシなんかがそうだな。仮面体の機能である糸とは無関係だ」
「後は回数とか、頻度とか、常時でないなら、そう言う分け方もあるよね。ボクの一回だけの追撃とか、正にそうだし」
「各自のオート効果の魔力消費量についてはどうでしょうか?」
「その辺は次回の課題ですネ。維持できる時間によってハ、評価が変わるオート効果もあるかもしれまン」
そして、流石は縁紅たちと言うべきか。
渡す前の時点で自分たちで考察できることはしっかりと考察している。
最初の所は俺でも理解が出来る内容だったのだけれど……。
「効果優先度はどうなっているのか……」
「ゴールドバレットのオート効果の発動条件……」
「サダルスウドの威力検証……」
「アルレシャの糸はどうなっている?」
「ユニークスキルを生かすことは可能なのか……」
「あの晴れはどこまで日光を再現していたのか……」
うん、理解が及ばなくなってきたな。
おかげで俺、徳徒、遠坂、曲家の四人はジェスチャーだけで『何を言っているか分かる?』『分からない』『分かるわけがない』『ウチらお馬鹿組に分かるわけないじゃないっすかぁ』と言う感じのやり取りを続けている。
えーい! 相手がどんなオート効果を持ち出してこようが、その場で対応して勝てばいいんですよ、勝てば!
「と、これくらいにしておこうか。模擬戦の時間が無くなっちゃう」
「そうですね~。次の希望者にコマンダー席を渡してこないと怒られてしまいますし~」
「やべっ、確かに時間が迫って来てるな」
「そうだね。急いで戻してこないと」
と、そんな脳筋丸だしな事を考えていたら、時間が来たらしい。
縁紅たちが急いで後片付けを始め、コマンダー戦の為の機械を部屋の外に運び出すための作業をする。
「じゃ、模擬戦頑張れよ。お前ら」
「遠坂と徳徒は置いておくから、審判は任せてやってくれ」
「コケッ、任せておけ」
「おう、やるぞ」
「二人とも頑張るっすよー」
「吉備津たちも片付けありがとうな。じゃ、遠坂、徳徒。審判は頼んだ」
そうして、俺たちのコマンダーのオート効果確かめは終わり。
俺たちナルキッソス小隊とトモエ小隊での模擬戦が行われる事となった。