376:第三回スキル『ドレスパワー』検証会
「では、只今より第三回スキル『ドレスパワー』及び『ドレスエレメンタル』の検証会を始めたいと思います」
スズの声がスタジオの中に響く。
なお、今回は燃詩先輩は不参加である。
と言うのも、燃詩先輩は現在、コマンダー戦の関係で非常に忙しいからだ。
それこそ、以前から付き合いがあった風紀委員会の案件や、内容的に無視するわけにはいかない『ペチュニアの金貨』案件ぐらいでもなければ、関わっていられないほどに。
「えート、システムはオールグリーンですネ。問題なく基本的な部分は解析できるはずでス」
ではこれまで燃詩先輩がしてくれていた解析はどうするのか。
その答えが現在マリーが確認してくれている装置……見た目はテレビの撮影に使うようなカメラに幾つもコードを繋げたものである。
こちらもまた燃詩先輩が造った装置であるのだけれど、手順通りに使えば、対象の仮面体に現在かかっているバフ・デバフを解析してくれると言うものだ。
勿論、解析の精度については燃詩先輩自身がやるものよりも落ちるのだが、既存の同系統の装置に比べれば格段に詳細さも判別できる幅も性能が向上しているらしい。
ちなみにスズ曰く、国や燃詩先輩としては、ここで俺たちが使うのを最終確認として、今度の全国一斉魔力量検査に伴う『ドレスパワー』の試用で利用するつもりではないかとの事。
まあ確かに、俺の『ドレスパワー』に対応できるなら、だいたいの判別は出来そうである。
「じゃあ、始めるぞ。一着目、サークル『パンキッシュクリエイト』作成の新衣装だ。『ドレッサールーム』発動」
俺は『ドレッサールーム』を発動して、衣装を変更する。
そうして現れたのは……一言で言い表してしまうのなら、革製ビキニアーマーとでも言うべきものだった。
より正確に述べるなら、両手、胸部、股間、両肩だけに革製のプロテクターと擦れ防止の布が存在する服であり、極めて露出度の高い衣装と言える。
なお、流石は『パンキッシュクリエイト』と言うべきか。
革も布も質が良く、縫製は整っていて着心地は抜群で、デザインも良好、その上でとても動きやすいものとなっている。
「続けて『ドレスパワー』、『ドレスエレメンタル』発動」
「ふむふム。『ドレスパワー』については筋力上昇。『ドレスエレメンタル』については闇が少しだけ混ざっていますガ、ほぼ魔力そのままの固定値バフが攻防両方にかかっているようですネ」
「つまりシンプルに使いやすい効果と言う事ですね」
「『ドレスエレメンタル』に闇が混ざるのは『パンキッシュクリエイト』製だからかな」
うん、これはいいな。
風紀委員会に怒られない程度に露出度も高いし、性能も上々。
普段使う衣装としては、学園制服と同じくらいに便利そうだ。
「じゃあナルちゃん」
「そうだな。では二着目、『シルクラウド』社製の羽織と袴。『ドレッサールーム』発動」
俺は次の衣装に着替える。
現れたのは新選組を思わせるような羽織に袴の組み合わせ。
ただし、決闘で使う事を考えてか、動くのに邪魔になりそうな装飾品は無いし、俺の『ドレッサールーム』で形成されない武器の類もない。
紋は……『シルクラウド』社の社章だな。
「更に『ドレスパワー』『ドレスエレメンタル』発動」
「えート、『ドレスパワー』は筋力に敏捷性の上昇ですかネ。それト……なんですこレ?」
「解析不能ですか? なるほど、これは困るものですね」
「あー、こう言う事もあるんだね。でもとりあえず伝えちゃおうか。ナルちゃん、こっちの解析では、『ドレスパワー』の効果は筋力、敏捷性、静音性、騒音性の向上になってる」
続けて『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』も発動。
が、解析係をしてくれているマリーだけでなく、解決の為に見に行ったイチとスズも困惑する結果になったようだ。
ただ困惑するのは……当然だろう。
静音性と騒音性と言う、字面からして相反する性質が一緒に現れてしまっているのだから。
「『ドレスエレメンタル』の効果は? ん?」
「ア、そう言う事ですカ」
「なるほど。これは使い道もありそうですね」
「この解析装置の限界だね」
幸いにして、直ぐに解決は出来た。
俺が発した声が、普段よりも大きな声となって響いたからだ。
そして、敢えて音が鳴るように床を蹴ってみたのだが、こちらは俺が出そうとした音よりも明らかに小さく響いた。
どうやら、声に限定して音が大きくなり、他は静かになるらしい。
音と言うのは、決闘中に状況を把握するに当たって重要な要素の一つなので、それが乱されるこの効果は、知らないと撹乱されそうだ。
「ちなみに『ドレスエレメンタル』の方は?」
「金属と闇に偏った攻撃限定のバフになっていますネ」
「暗殺者?」
「どちらかと言えば、御用改めかと」
「なるほど」
『ドレスエレメンタル』の方は普通か。
まあ、そう言うものだよな。
「では三着目、今回の最後。スズたちプレゼンツのゲームキャラ衣装。『ドレッサールーム』発動」
俺は次の衣装に着替える。
現れたのは板金鎧。
ただし、顔、胸の谷間や二の腕、腹に太ももと言った部分は守られておらず、地肌を晒している。
そして、肩や胸を守る金属部分は装飾によって膨らみ、強調されている。
小手など一回りどころか二回りほど膨らんでいるように見えるな。
うん、間違いなく何処かのソシャゲのキャラで、しかも守りを主体としたキャラだな。
「続けて『ドレスパワー』『ドレスエレメンタル』発動」
「うワァ……『ドレスパワー』は防御力強化、『ドレスエレメンタル』は対物理に限定した防御バフと出ていますネ……。こレ、攻撃通るんでス?」
「ちょっと試す?」
「試してみてもいいかと」
で、『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を発動した結果。
マリーが思わず声を漏らしてしまうくらいには、防御力にバフがかかったらしい。
そうか、俺の防御力で更にバフがかかるのか……今ならドライロバーの首狙い攻撃を真正面から無防備に受けても、弾けそうな気がするな。
「ナルちゃん。その衣装についてはちょっと追加検証させて」
「分かった。盾だけ構えて立っていればいいか?」
「うん、それでお願い」
「でハ、少し試してみましょウ」
とりあえず追加検証が必要と言う事で、俺はいつもの強化プラスチック製の盾を出現させると、正面に向かって構える。
そうしてスズとマリーの攻撃を受けたのだが……結果だけ言うと、物理防御面についてはもはやシュタールが相手であっても耐えられるのではないかと言うほどになっていた。
勿論、欠点もあったのだが、そこは立ち回り次第だろう。