373:小隊戦の相手
「では、本日のミーティングはこれまでとする。諸君、お疲れ様だ」
「……。お疲れさまでした」
その後も小さい通達事項、全員で話し合うべき事、マスカレイド関係の授業などをして、本日のミーティングの時間は終わりとなった。
さて、これで今日の授業は終わりとなって、放課後の自由時間になるのだけど……。
「早速か」
「そうみたいだね」
既に『マスッター』経由で11月の授業の決闘についての連絡が来たようだ。
早ければ、今週の金曜日に決闘をする事になるから、当然なのかもしれないけれど。
「えーと。ちゃんと俺、スズ、マリー、イチの四人で小隊になっているな」
「当然だね」
「で、決闘相手は……グレーターアーム、チョウホウ、サンライザー、アンクルシーズの四人か」
スマホを確認した俺は、決闘相手の名前を呟いていく。
グレーターアームとチョウホウの名前には覚えがあるな。
グレーターアームは五月に決闘した相手で、一撃の威力に重きを置いた仮面体だったはずだ。
そしてチョウホウは体育祭の特殊決闘プロレスで決闘した相手の一人であり、速さと手数に重きを置いた仮面体であったはず。
二人ともあの頃から成長しているだろうし……この時点で難敵なのはもう確実だな。
「サンライザーは照東さんの仮面体の名前だね。どちらかと言えば防御寄りの仮面体だったかな」
「へー、そうなのか」
サンライザーこと照東さんは文化祭において、戌亥寮の出し物である宣言決闘の司会役を三日間務めてくれた同級生の女子だな。
まあ、防御寄りと言う事は、俺はそこまで気にしなくても大丈夫だろう、たぶん。
「それで最後の一人、アンクルシーズってのは?」
「うーん、聞き覚えは無いかな。とりあえず戌亥寮の生徒でない事だけは確かだよ」
「スズに覚えがないなんて珍しいな」
「ナル君。幾ら私でも学園の生徒全員を把握している訳じゃないから。知らない事は知らないよ」
アンクルシーズは正体不明。
ただ、スズが把握していないという事は、戦闘能力が高い、特殊な能力を持っている、と言うタイプの仮面体ではない可能性が高そうだ。
そう言う仮面体なら、スズなら把握している可能性が高いだろうし。
「ナル様、スズ。少しよろしいでしょうか?」
「巴か。構わないぞ。どうしたんだ?」
「うん、いいよ」
と、ここで巴が俺たちに声をかけてくる。
巴の後ろには羊歌さん、大漁さん、瓶井さんの巴と小隊を組んでいる三人も揃っているな。
ちなみに教室全体に目を向けてみれば、まだ誰も教室の外には出ておらず、数人ごとのグループ……恐らくは小隊ごとに固まって、話をしている。
恐らくだが、誰も彼もが情報収集をしているな。
「では単刀直入に。私たちの小隊とナル様の小隊で模擬戦を行いませんか?」
「模擬戦か……」
有りか無しかで言えば……有りだろう。
俺たちの小隊は、これまでに他にやるべき事が多かったので、他の小隊と決闘した経験はない。
と言うか、俺が他の誰か組んで決闘した経験自体、数えるほどしかない。
勿論、小隊結成以降は、暇を見つけて、小隊内の四人で出来る訓練などはしていたが……四人一緒に同数の相手と戦った経験は存在しない。
この状態のまま進んでいき、初めての小隊戦が本番になるのと、模擬戦になるのとでは、模擬戦になった方が良いのは誰の目にも明らかだろう。
「俺はやってもいいと思う。スズは?」
「ナル君が受けたいのなら、私も大丈夫だよ。イチとマリーの二人もたぶん大丈夫だと思う」
「ありがとうございます。二人とも」
と言うわけで、俺は了承。
スズも同意してくれた。
「えーと、場所や日時の確保については……」
「それは私と羊歌さんの方でやっておくよ、ナル君」
「そうですね~。任せていただければ大丈夫ですよ~」
「ではよろしくお願いします」
細かい手続きについてはスズと羊歌さんがやってくれるから大丈夫、と。
あの二人ならメンバーの予定も当然のように把握しているだろうし、そう言う意味でも安心だな。
「後、先に決めておくべき事としては……コマンダー戦にするかどうか?」
「そうですね。とは言え、ナル様たちも私たちもまだ小隊戦自体に慣れていませんから、今回は普通の小隊戦で良いと思います」
「それもそうか」
コマンダー戦にはせず、今回は普通の小隊戦、と。
「ただ、今回の話とは無関係に何処かで、コマンダーになった時に味方にどのような影響を与えるのか、その確認はしておきたいですね。現状では私以外がコマンダーになった時の性能は明らかになっていませんので」
「だな。と言うか、俺とか魔力性質的にコマンダーのオート効果が発揮されない可能性もありそうな気がするんだよな……」
コマンダーのオート効果と言うのは、コマンダー席に着いた人間がマスカレイドしている間、自動的かつ恒常的に発揮される何かしらの効果を指す言葉である。
例えばドライロバーとの決闘の時なら、奴の四肢に纏わりついて動きを見づらくしていた黒い靄こそが、シセットをコマンダーにした時のオート効果であった。
そして、トモエのオート効果は全体的にステータスが上がり、微弱ながら炎属性のエンチャントを四肢に帯びるというもので、トモエ本人の立ち回りと同様に俺の勝利に貢献してくれている。
この二例を見るだけでも、コマンダーになった時のオート効果について確かめておくことの重要性は確かだろう。
「ま、これについては機械を借りられたらだな」
「そうですね。機械の数も明らかになっていませんので、機会があればと考えておきましょうか」
うん、巴の言う通り、機会があれば確認はしておきたいな。
「ナル君、巴。話がまとまったよ」
「分かった」
「ありがとうございます」
とりあえず俺たちと巴の小隊が模擬戦をするのは、来週の木曜日の午後、私的に決闘の舞台を借り、一般には非公開の状態で行う事となった。
さて、どういう決闘になるだろうな?