371:ちょっとしたお勉強
本話に置いて語られている話は『マスナル』世界における話であり、現実の同地域と一致するとは限りません。予めご了承ください。
「ではナル君に確認です。東南アジアと言えば?」
「そうだな……」
完全に片づけを終えて戌亥寮に戻ってきたところで、スズによるお勉強会が俺の部屋にて行われる事となった。
と言うわけで、俺はまず自分が知っている事……幾つかの国に世界遺産に都市の名前、熱帯雨林の気候、それから大きなイメージとして決闘を利用したクーデターが横行していて、政情が不安定な事を話す。
「うん、おおよそは合っているね。ただ、政情と治安の安定については地域と国によって格差が大きい事は覚えておいて。荒れている場所とそうでない場所の差は本当に大きいから」
「そうなのか」
「そうなの。そして、『ペチュニアの金貨』の製造場所は十中八九、この荒れている地域。ただ、燃詩先輩の言葉からして、製造している組織とその地域を治めている組織はそこまで深い付き合いではなさそうかな。たぶん、目こぼしの賄賂のやり取りがあるくらい」
「へー」
スズのように知っている人が情報を得ると、ここまで分かるものなのか。
基礎知識の重要性がよく分かるな。
そんなわけで、俺はスズから東南アジアについて簡単な範囲でいいから教わっていく。
で、ある程度教わったところでだ。
「そう言えば、金貨の製造場所が分かったのはペインテイルやドライロバーから得られた情報のおかげって事でいいんだよな?」
ちょっと確認する事にした。
「うん、それで合ってるよ。ドライロバー……尾狩参竜が逮捕されて、それで関係各所に捜査が入ったから、分かった事も多いみたい。加えて数日前……ナル君がドライロバーを倒した直後くらいに、実は女神からペインテイルの件のレポートが出たんだよね」
スズに詳しく聞いたところ。
ドライロバーの関係各所からどんな情報が出て来たかは、流石に捜査資料と言うか、警察の話なので、スズたちは知らないらしい。
だが、ペインテイルの件についてのレポートは一般公開されていて、誰でも見られる状態になっているようだ。
で、そのレポートには何故ペインテイルが罰せられたのかや、俺たちがペインテイルにした四つの情報の要求があの時よりも正確かつ詳細に記されていた。
「なるほど。どこの船のどのコンテナに積まれたのか、それが分かれば、何処へ運ばれていったのかも想像が付く、と」
「うん、他にも幾つかの情報があって、それで確定したみたい」
そして、ペインテイル視点でのヤバい事の情報……コンテナに人を入れて海外へと運び出したという話から、色々と繋がっていったと。
「ちなみに、ペインテイルとドライロバーの話から『縁の緑』の方についても調査が進んでいるみたい」
「あ、そうなんだ」
「そうそう」
『縁の緑』か。
ペインテイルはアレを許されない形で使ったから罰せられたけれど、きちんと使えば有用なアイテムだから、調査が入るのは当然だな。
俺がドライロバーに勝てたのは闇堕ちシスター服の力があってこそだったしな。
「その件ですが。幾つか分かった事があります」
「イチ。と言うと?」
と、ここでイチが話に入って来る。
イチからの話と言う事は、諜報員関係からの情報か。
俺に話すと言う事は、話しても問題ない程度の情報だろうけど。
「どうやら『縁の緑』の製造場所は国外のようですが、原材料の一つは大漁さんの地元地域だったそうです」
イチによると。
尾狩参竜の手元にあった資料から、取り扱っていた商品の一つである『縁の緑』は外国の企業から輸入していた事が分かった。
この外国企業とやらが情報の開示を渋っているので、これ以上の情報はまだない。
だが、こちらにある『縁の緑』の現物と、大漁さんの地元で製造される、まじない糸を比較した結果、ほぼ間違いないというレベルで一致したらしい。
だから、原材料の一つは大漁さんの所のまじない糸で確定。
今は何処で実際に製造しているのかや、他の原材料は何かや、件の外国企業との交渉などをしているのだとか。
「とにかく件の企業が渋り続けているのであれですが、複数の国に跨った物品かもしれないという事で……既に揉める気配がしています」
「あー……そうだよな、うん」
「まあ、揉めるよね。何処の国も欲しいし、他国には渡したくないだろうから」
うん、これは揉めても仕方がない。
『縁の緑』は『ペチュニアの金貨』と違って、事前の通達や準備をしていれば、大きなトラブルも無く運用出来る物品。
しかも極めて有用。
そりゃあ、取り扱っている企業は情報を出し渋るし、原材料を出している国は色々と抑えたいだろうし、複数の国に跨るとなれば国同士の利害関係も出て来るだろうし……。
「これも『ペチュニアの金貨』の製造に関する知識の話と同様で、完全に政治のお話だな。つまり、学生である俺たちが関わる事じゃないな」
ちょっとこれ以上は考えたくないな。
よし、考えないでおこう。
『ペチュニアの金貨』の件と違って、やる気も起きないしな。
「そうですね。普通ならそうです」
「ナル君の実力と実績を考えると、お呼ばれはあるかもね」
「えぇ……」
そうもいかない可能性もあるようだが。
まあ、そうなった時は尽くせる範囲で力を尽くすか……。
そうして、大量の知識を脳内に投入される事となった今日が終わる事になったのだった。