370:二つの蓄財の接点
『さて、『ナルキッソスクラブ』の面々だけになったところで話の続きをするか』
マリーの『蓄財』の記録と解析、それにその後の話まで終わった後は、当然のことながら片付けになった。
そして、片付けが終わって巴たちが去り、スタジオ内に居るのが俺たち四人だけになったところで、唐突に燃詩先輩の声が響いた。
「燃詩先輩、まだ何かあるの?」
『あるとも。そちらにしてもらっていた片付け中に、吾輩の方では軽くだが解析を進めていたのだからな。そこから得られる知見は少なからずあった』
「おオー、流石は燃詩先輩ですネ。それデ、どのような内容ですカ?」
この短時間に追加で分かった事があるのか、流石は燃詩先輩だな。
だが、分かった事があるなら、少なくとも麻留田さん、山統生徒会長、先生方はスタジオに留めておいて、そのまま話をし続けて良かったはず。
となると……内密に済ませるべき話って事か。
「イチ」
「一応確認しておきましたが、誰も残っていませんし、盗聴器の類もありません。今ここで外と繋がっているのは、スズが後で返すからと残した燃詩先輩の端末だけです」
『察してくれて結構。翠川、貴様もだいぶ慣れたようだな。さて、追加で分かった事だが……』
とりあえず、この先の話は必要な時まで黙っておく事を覚えておこう。
『ゴールド一族の『蓄財』で作られる金貨と『ペチュニアの金貨』の製造工程は、収斂進化では説明がつかない程度には似ている』
収斂進化……ああ、別口、無関係に進歩していったが、求められる機能の都合などから、結果として似てしまったもの、だったな。
それでは説明がつかないレベルで似ているとなると……。
「……。それは製造者にゴールド一族の誰かが関わっているという事ですカ?」
マリーの言う通り、関係者が関与しているのではないかと言う話になってしまうよな。
『いや、ゴールド一族は関わっていない。それにしては粗悪で劣化な模造品過ぎるからな。恐らくはアメリカでゴールド一族が研究されていた頃に関わっていた研究者の誰か。人命を著しく軽視している点も含めれば、ペチュニア・ゴールドマインの爆発事故が起きた頃に所属していた連中の誰かだろう』
「奴らですカ……! ですが根拠はあるのですカ?」
だが、対する燃詩先輩の言葉はその真逆と言っても良いものだった。
『先ほども言った通り、偶然で片づけるには工程が似過ぎている。それから製造の癖もだな。吾輩がゴールドケインの『蓄財』をきちんと解析できているわけではないから、感覚的な物言いになるが……本質は理解していないが、表面は真似できている。と言う具合だ。正に猿真似だな』
「……」
『少なくともゴールド一族の資料は確実に見ているはずだ。ペチュニアの花の絵柄と言い、リスクが高い日本からも被害者を誘拐している点と言い、東南アジア周辺での行方不明者数から考えられる試行回数に対する完成度の高さと言い、そうでなければ説明が付かない部分があまりにも多い』
燃詩先輩の手の内にはいったいどれだけの情報が集まっているのやら。
そして、もう少し詳細な情報が欲しい。
俺の脳内だと、東南アジア周辺と言われても、一部地域は決闘を利用したクーデターが横行して政情不安定な地域があるとか、熱帯雨林のうっそうとしたジャングルがあるとか、それくらいの情報しか存在しないので。
うん、後でスズに聞こう。
「なるほド……それデ、このような話をマリーたちにした理由は何ですカ?」
『この先確実に起きるトラブルで声を上げてもらうためだな』
「トラブルですカ?」
『そうだ』
さて、今重要なのは、どうしてこんな話を燃詩先輩はマリーにしているかだが……そこにはきちんとした理由があるらしい。
『まず大前提として、『ペチュニアの金貨』は確実に所有すらも禁止される物体になる。そして、今現在製造している組織は潰される。この流れは世界全体に及ぶだろう。いや、波及させる。此処までは絶対だ』
まあ、生きた人間を加工して作るとか言っていたもんな。
そんな物の存在が許されるわけがない。
『問題はその後。どの国も製造に必要な知識の破却を求めるだろう。少なくとも表向きはな』
「裏ではこっそり広がル。ト?」
『何も手を打たなければ確実に広がる。独裁者にとっては政敵や反逆者を口封じしつつ、自分たちの戦力として有効活用できる技術にしか見えんだろうからな。デメリットにしても、自分自身ではなく手先に使わせる前提なら、ノーリスクだとかも考えている事だろう。全くもって悍ましい事だ』
起きない、なんてことは口が裂けても言えないな。
俺でも簡単に想像できてしまう光景だから。
『だから、製造している組織の人間を日本で引き取り、知識を吸い上げ、対抗手段以外を徹底的に破却する。そうする事で、人命の浪費を前提とした技術の発展の遅延、コストとリスクの増大を起こし、将来的には伸ばす価値も無い技術と思われるようにする事を狙う。そして、その為には……』
「関係者であるゴールド一族が声を上げる方が早ク、説得力もあル。と言う事ですネ」
『そうだ。もちろんは実動はゴールドケインではなく、父親の方にやってもらう事になるだろうが』
「……。パパママには話しておきましょウ。必要な事ですかラ」
『頼んだ』
うん、確かにこれは必要な話だな。
そして、今はまだ学園の教師にも伝えておかない方が良い……と言うか、完全に政治のお話だな、これは。
「話は以上ですカ?」
『以上……いや待て、念のために言っておくか』
「?」
さてこれで話は終わりと思ったのだが……まだ何かあるらしい。
『これは完全にオカルトの領分となるが、この手の話でトラブルが起きる時はだいたい元から関係者であった者の周りだ。よって、この先『ペチュニアの金貨』関係で何かトラブルが起きるとしたら、それはゴールドケインか翠川の周囲で起きると考えていい』
「ナルもですか?」
「俺!? いや確かに、ペインテイルにドライロバーとで関わりはあったかもだが……」
『近々小隊戦も始まるし、闇のオークション(合法)で競り落とされた『ペチュニアの金貨』は校内で行方知らずになっているし、まあアレだ。十割吾輩の勘だが、備えておけ。二度ある事は三度あるとも言うしな。話は以上だ』
どうすればいいのだろうか?
まさかここに至って、徹頭徹尾科学の信奉者みたいに思っていた燃詩先輩からオカルトなんてものがお出しされてしまったんだが。
いやでも、燃詩先輩ってよく考えればアビスの信徒だから、オカルトが出て来るのはむしろ自然な事なのか?
あーでも、そうだな、結局のところだ。
「分かりました。備えておきます」
「ですネ」
俺がやる事に変わりはない。
学園内で行われる決闘に備える、これだな。
「ナル君。後でお勉強はしようね」
「スズ? 今の話の流れでどうしてその言葉になるのですか?」
「必要そうだったから?」
後、ナチュラルにスズが俺の心を読んでいるのだが、そこの勉強は確かにちょっと必要そうなので、正直に言って助かるところである。