37:仮面体の機能確認
「さて全員揃ったな! 今日のマスカレイドの授業は、各自の仮面体の機能確認を行う! と言うのも、マスカレイドは魔力を用いて仮面体を作り出し操る技術であるため、その身には女神降臨以前の物理法則では説明がつかないものが含まれている事もある。そう言った、マスカレイドだからこその部分が自分の何処に、どのような形であるのかを確認するのが、今週の授業だ」
午後。
俺たち一年生は、グラウンドに全員集合させられていた。
立ち位置は例によって寮ごとにまとまる傾向があるものの各自自由で、俺の周囲にはスズ、イチ、マリーの三人が居る。
で、今は壇上で味鳥先生が全体に説明をしている最中だ。
「さて当然の話ではあるが。仮面体の機能と言うものは、各自の生命線と言っても過言ではないものである。なので、今日の授業はこれから個人または、この相手になら明かしても構わないと言う者同士で組み、個別に確認をしてもらう事になる。教師の立ち合いも当人が望むか、これまでの一週間で生徒だけで確認させるには危険と判断された場合のみだ」
「……。なお、念のために緊急用のコールスイッチは渡しますので、各グループ最低一つは持っていくようにしてくださいね。それと、グループを組む場合は多くても四人までにしておくように」
味鳥先生の言葉に付け加えるように放たれた樽井先生の言葉で、どうしてスズたちが俺の周囲に居るのかを理解した。
なるほど、スズは俺になら明かしてもいいと考えていて、イチとマリーの二人もスズに合わせてという事なのだろう。
俺、俺は……そもそも俺の仮面体に機能とかあるのだろうか?
服を出さなければ、素っ裸なんだが。
いやまあ、機能が無いことを確認する事もまた、大切な事なのだろうけど。
「では、何処で誰と機能の確認をするかの届け出を提出した者から行動を開始するように! 始め!!」
生徒たちが一斉に動き出す。
「ナル君。一緒に確認をしよう?」
「分かった。スズと一緒に確認しよう。それでイチとマリーは? 機能確認は重要な事のようだから、無理に俺とスズに合わせなくてもいいと思うんだが」
と同時にスズが声をかけてくる。
うん、知ってた。
俺としても、スズの目と意見があった方が確認が進むのは明らかであるし、スズに知られたところで困ることなどないから、断る理由もない。
「イチはご一緒させていただきます。今後の事を考えれば、お互いに知っておいた方がスムーズでしょうから」
「マリーも行きますヨ。今更他の相手と付き合うとカ、賭けるとかは考えられませんからネ」
「だってさ、ナル君」
「分かった。じゃあ一緒に行こう」
と言うわけで、俺はスズたちと一緒に味鳥先生の下へ行き、この四人で確認する事を届け出た。
で、樽井先生から万が一用のコールスイッチも受け取り、割り当てられた教室へと向かうのだが……その前にこう言われた。
「……。ああそうだ翠川君。今回は機能確認と言う授業名目ですし、水園君も一緒に居ますから、割り当てられた教室の中でなら服を身に付けなくても構いませんよ」
「あー、はい」
「……。ただし、教室の扉の鍵はしっかりと閉める事。授業終了後にうっかりそのまま外へと出ない事だけは気を付けてください。いいですね」
「分かりました」
小さな声だったので、スズたち以外には聞こえてはいないだろうし、その通りでもあるのだけど……こう、微妙に何とも言えない気持ちにはなった。
「……。では頑張ってください」
そうして俺たちは改めて機能確認に向かった。
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ナルたちが移動を開始した後のグラウンドにて。
「やっぱりあの四人って……」
「まあ、そう言う事だろうね。水園さんは幼馴染で、他二人は水園さんと同室。そこから囲いに来たってところじゃない?」
「まあ、あの外見に魔力量だったら狙うのは当然なんだろうけどね」
「羨ましい。二重三重の意味で。翠川君の仮面体も鑑賞用じゃないと分かったからなおの事……」
当然のように四人一緒に行動して、一瞬の迷いもなくグループの中身が決まったナルたちは、当然ながらに注目を浴びていた。
「翠川と水園さんたちってやっぱりそう言う事なんだろうな」
「そりゃあそうだろ。魔力量甲判定者の男は実質、一夫多妻制なのは公然の秘密って奴だしな」
「ま、こればかりは持てる者の特権って奴だな。幸いにして、翠川の奴は決まった相手以外に手を出すようなクソ野郎じゃないんだし、俺らは俺らの出来る事をしていこうぜ」
「羨ましい。ああでも一人で三人のご機嫌取りとか考えたら、かなり大変そうかもな」
向けられる視線の内容は様々だ。
単純な嫉妬、羨みもあれば、哀れみもある。
ただ、ナル単体ではなく、ナルたち四人にまとめて向けられるものの方が割合としては圧倒的に多かった。
「吉備津すまん! お前の知恵を俺たちに貸してくれ!」
「ワイたちの頭ではどう調べればいいのかも分からん!」
「ウチらの伝手と人柄ではこの二人以外に信頼できる相手も見つからないんす!」
「え、ええぇ……いやまあ、僕の事を頼ってくれるのなら、まあ構わないけど……」
そうしている間にもグループは決まっていく。
例えば徳徒たち三人は、同じ甲判定者である吉備津に声をかけて、グループを組むことにした。
「巴様~萌たちと組みましょ~」
「何故貴方たちと私が? 今日の授業は個人でも問題ないはずですが」
「羊歌曰く、今後の為に。だそうだ」
「今後の為に……ああなるほど。そう言う事なら末永くお願いします」
「はい、お願いします! 護国さんの足を引っ張る事だけは無いように頑張りますので」
護国巴は、甲判定者の女子四人で組むことにした。
他の者たちも、現状で仲が良いもの同士で、あるいは少し先に待つとある事柄を見越した上で、グループを組んでいく。
また、中には、それらの事情を分かった上で敢えて個人で確認へと赴くものも居る。
こうして、グラウンドに居る生徒の数は徐々に減っていき、機能確認の為に用意された教室が少しずつ騒がしくなっていく。
「……。ふんっ」
「縁紅はそこで待て。後で先生がマンツーマンで対応してやる」
「……。ありがとうございます」
そんな中で縁紅は味鳥先生と共に機能確認をする事となった。
これは、様々な要因が重なったためである。
やがて、消極的行動の結果として誰とも組まなかった者たちも、グラウンドを離れていく。
そして、本格的に仮面体の機能確認が始まった。
なお、国立決闘学園の教師たちが最も胃痛を感じる日。
それは、この新入生の仮面体の機能確認を初めて行う日である事は、ここに明記をしておく。
新入生の頃の風紀委員長「なんか出た(大砲ぶっぱ)」
新入生の頃の生徒会長「剣振ってたら壁に傷をつけた」