366:文化祭四日目・後片付け
「せーの……ふんっ!」
「おりゃあぁっ!」
本日は2024年10月21日月曜日。
文化祭の片付け日である。
と言うわけで、俺たちは自分のブースの正式な後片付けをしているところである。
「昼飯買って来たよ」
「折角だからボディビルサークルのほうで、スムージーにしてもらったっす」
当然ながら他のブースなども、解体作業、片付け作業に邁進中。
なのだが、最後の片付けが簡単なブースだったり、諏訪と曲家たちが売っていたような腐らない物だと、今日も密かに売買が行われていたりもする。
まあ、風紀委員会に目を付けられないように、見逃してもらえるように、小規模かつこっそりとだが。
「ナル君、精算終わったよー」
「お、無事にか。どうだった?」
また、俺たちのブースに限った話であるが、精算作業は今日行われる事になってしまった。
言うまでも無く尾狩参竜が原因である。
本当に面倒事しか招かない奴だ。
「『ナルキッソスクラブ』の商品は無事に完売と言う事デ、簡単な作業でしタ」
「無事に全部売れていたのか。それは良かった」
「当時ブースに居た人間として言わせてもらうけれど、最後の方は凄かったよ。電子版で満足できない人が物理版を持っている人に転売交渉を仕掛けて、風紀委員会に怒られていたぐらいだから」
「そ、そこまでか……」
「来年以降はもっと部数を増やさないといけないかもね。ナル君」
さて、文化祭のリザルトその一として。
サークル『ナルキッソスクラブ』の売り上げは上々だった。
それに釣られるように、曲家たち工作サークル・テラリウム専門分派、岩上先輩たち『Rock On YYY』の売り上げも予想以上だったらしい。
これは素晴らしい事だな。
「ナルさん。先ほど連絡が来ました。夜来叔父さんが目を覚ましたそうです」
「そうか。ちょっと長めだったか?」
「かもしれません。ただ、後遺症は無さそうとの事です」
「そこはアビスがやった事だから当然だね」
リザルトその二として。
尾狩参竜たちは壊滅し、その取り巻きや利用していた連中も続々と捕まっているとの事。
ぶっちゃけ、日本中で現在掃除が行われている状態らしい。
勿論、中にはうまく逃げた奴も居るとの事だが……まあ、そう長くは逃げていられないだろう。
この件については、これ以上は気にする必要はないだろうな。
「それと天石家の方からも連絡が来まして、現状ではナルさんとスズのご両親とその周囲は安全との事です。そうでなくとも、今の捜査状況ではそちらまで手を回す余裕はないでしょう」
「じゃあ一安心だな」
「はい」
合わせて、親父たちの安全も確保されたので、今後そちらを利用した脅しは通用しない、と。
これは本当にいい事だな。
「そう言えば、掲示板ではナルの事を『玲瓏の魔王』とか呼んだらどうかとか言ってたっすよ」
「なんだそりゃ? 二つ名の類か?」
「ウチにもよく分からないっす。ドライロバーとの決闘のアレやコレの結果なのは分かるっすけどね」
「ふーん? まあ、『放送事故』と違って名乗れそうな二つ名ではあるか」
リザルトその三。
『玲瓏の魔王』とか言う、使えそうな二つ名が流行り始めている。
なお、玲瓏とは美しく照り輝くさま、玉などがさえた良い音でなるさまを指す言葉であり、八面玲瓏になると、どの方面も美しくすき通っているさま。心に何のわだかまりもないさま、となる。
まあ、俺の見た目の美しさとドライロバーとの決闘中でやったアレコレを考えれば、そこまでおかしくない二つ名ではないかなと思うところではある。
「魔王関係の称号は迂闊に使うと変なのが寄って来るから気を付けた方が良いですよ。ナルさん」
「ですネ。どういう意味で捉えるにしても変なのが来ますかラ、準備を整えてからにするべきでス」
「決闘で名乗ると公共の放送に乗っちゃうから、絶対に耳に入るだろうしね」
「そうなのか……」
ただまあ、イチ、マリー、スズの反応からして迂闊に名乗らない方が良い二つ名っぽいので、名乗るタイミングは慎重に考えるとしよう。
「しかしこれで文化祭も終わりか。トラブルもあったが、中々に楽しめたな」
「そうだね。ナルちゃんのバニー姿も拝めたし、総合的にはプラスだったと思う」
「ナルのご両親にも挨拶出来ましたからネ。これで親公認と言う奴でス」
「トラブルも一先ずは解決しました。後始末は多少あるでしょうが、とりあえずは落ち着くと思います」
俺は周囲を見渡す。
話をしつつも作業を進めていたおかげで、俺たちのブースはもうほぼ解体完了だ。
他のブースも同様。
明日は振替休日となって一日休みで、水曜日からはまた日常が戻ってくる事となる。
「来年は……どうする?」
「うーん。写真集はとりあえず確定だよね。これから一年かければ、ナルちゃんの衣装も『ドレスパワー』の資料も貯まる事は確実だろうし」
「でも追加で何かやりたいですよネ。毎年、新作写真集だけでは味気が無いというものでス」
「そうですね。何かは考えてもいいと思います。今年のようなトラブルがまた起きるとも思えませんので」
来年の予定は……とりあえず、スズの言う通り、写真と資料については貯め込んでおくべきだろう。
今年と同じように売れるはずだ。
他に何をするかは……その時になったら考えるでいいか。
「さて、明日の為に受け取りに行かないとな」
「だね」
「ですネ」
「お供いたします」
ではこれで俺たちの文化祭は終わり。
次に移るとしよう。




