356:尾狩参竜とは
「まずは尾狩参竜についてのおさらいだね」
スズはそう言うと、スマホに尾狩参竜の情報を出す。
魔力量は2000ちょっと。
つまりは俺ほどではないけれど、魔力量甲判定の中でも多い方になる。
そして、これは学生時代に測定したものを公表しているだけなので、実際にはもうちょっと多いかもしれない。
「こうして改めて見ると……」
公式戦の勝率は90%オーバー。
負けている決闘もハンデが大量に付けられたものや、事前に尾狩参竜の足を引っ張るような何かが行われていたようで、純粋な実力差や相性に基づく負けは数戦程度。
国対国の、国益や国防に関わる決闘に呼ばれる事もあり、こちらでの勝率も悪くない。
何度か逃げたようにしか見えない決闘もあるが……それ込みでも安定して勝利を収めていると言っていい成績をしている。
また、休憩を挟まない連続決闘と言うものもやっていて、相手の実力は不明だが、五連勝した記録を持っている。
つまりなんだ。
「普通に尾狩参竜は強いですね。国が忖度するのも分からなくはありません」
「そうだね。だからこそ、見逃せる範囲の犯罪行為なら、国は見逃してきたんだと思うよ」
「逆に言えバ。これほどの功績を上げてなオ、機が来れば排除するべきと判断されるほどに問題児なのですガ」
「だから、国は尾狩参竜に決闘の機会を与えずに排除する方向で考えていました。誰を差し向けても、決闘では万が一がありましたので」
うん、今でも尾狩参竜にワンチャンスがある程度には優秀なのだ。
だが、この優秀さで資料に付随して書かれている、犯罪行為……決闘で奪い取った他の人物の婚約者に対する性的暴行、小規模な会社の乗っ取りと売却、暴行に恐喝、決闘を利用した殺人……と言ったものを見れば、尾狩参竜がどうしようもないクズなのも分かるな。
なお、ここで明らかにされている行為の幾つかは決闘の褒賞を利用しているため、明らかな犯罪であるのに合法として扱うしかないパターンもあるようだ。
「そんな尾狩参竜の仮面体はドライロバー。見た目はこの通りだね」
尾狩参竜の仮面体……ドライロバーの画像が表示される。
見た目は竜を模した兜を着けた、全身金属鎧の男。
手にはギロチンの落とす部分を刃として長柄の棒に付けた両手斧が握られている。
「仮面体の機能ですが、頸部への攻撃能力の大幅な上昇があります。これは叔父さんからの情報なので、信用してもいいと思います」
「つまり、首で攻撃を受ける真似は絶対にするなって事か」
「そう言う事です。もしもドライロバーの攻撃を首で受けたら、ナルさんでもタダでは済まないと思った方が良いです」
仮面体の機能は首への特効能力。
スキルについては……記録では色々と使っているが、仮面体の機能で十分な攻撃能力を確保できるからか、速さや奇襲性を重視しているように見えるな。
「イチ。尾狩参竜側のコマンダーは誰になると思いますか?」
「残念ながら分かりません。ただ、誰が指揮官になるにしても、尾狩参竜の性格からして指示は聞かず、徹底して支援をさせると思います」
戦闘のスタイルとしては、基本的には一撃必殺狙い。
ただ、相手が圧倒的な格下である場合、敢えていたぶったり、ワザと防御が間に合うようにしてから攻撃したりと、傲慢としか言いようのない性格を見せている。
そして、そのような性格をしている上に、尾狩参竜が連れている連中の立場も併せれば、尾狩参竜側のコマンダーは指揮官ではなく支援者と呼ぶべき動き方になるのは、ほぼ確実か。
が、コマンダーが誰で、何をしてくるかは出たところ勝負だな。
情報がないから探りようがない。
「問題はマスカレイド以外に何を持ち込んでくるかですよネ。アチラにとっても負けられない決闘なのは明らかなのデ、ペインテイルと同じように何かを持ち込んでくるはずでス」
「そうですね。『縁の緑』、深藍色の宝石、『ペチュニアの金貨』、その他魔力含有物質を使用して作った物品は闇のオークションを開いていたのですし、入手できる伝手は確実に持っています」
「まあ、『ペチュニアの金貨』についてはいっそ使ってくれた方が助かるけどな。アレは俺にとってもバフなようなものだし」
「……。『縁の緑』については使用する事は確定で良さそうです。今正に使用する事が女神に申請されました」
「ふうん、そうなんだ。でもそれなら深藍色の宝石については、逆に心配不要になったかな。理由はちょっと話せないけど」
相手の持ち込み品は……まあ、何が出て来てもおかしくないという心構えは持っておくべきだな。
しかし、仮に尾狩参竜が深藍色の宝石……『アビスの宝石』を使ったなら、魔力量4000オーバー……俺より魔力量が多い事になるのか。
他の道具についても、一つでも利用すれば、俺に匹敵するかそれ以上……。
魔力量で同格の相手と戦う事になると考えておいた方が妥当ではあるな。
「……。スズ、『縁の緑』関係で女神に一つ質問を送ってもらっていいか?」
「分かった。内容は?」
ただ、道具を使うからこそ、付け入れる部分もあるかもしれない。
なので、俺は念のために確認をしておく。
「こんな所か。まあ、俺はいつも通りに真正面から堂々と戦うだけだ。他の戦い方も無いしな」
「まあそうだよね」
「そうなりますよね」
「ですよネー」
「そうなりますか」
ま、時間もないし、追加で出来るような準備もない。
多少の調整をした上で、今の手札を使った、出たところ勝負に臨むしかないな。
「それでナル君。私たち四人の中から、誰をコマンダーにするかは決まった? 準備する時間もあるから、そろそろ決めて欲しいんだけど」
「ちなみにここに居ない人間を選ぶのは無しですヨ。間に合いませんかラ」
「それは分かってる。そうだな……」
そしてコマンダー戦と言う事で重要になる俺のコマンダー役だが……四人ともに長所と言うか、出来る事がたぶん大きく違うんだよな。
スズなら、調合による多彩な行動を相手に妨害される事なく、状況を俯瞰的に見て行えるはずだ。
マリーなら、『P・魔術詠唱』付きの攻撃を徹底的に威力を高めて放てるはず。
イチなら、ユニークスキル『同化』がどう働くのか次第だが、相手の不意を突くような事が出来るだろう。
巴なら、魔力量の多さから長期的な支援が可能だし、やれる事も多彩なはず。
ただ、誰を選ぶにしても、今回は事前情報一切なしの出たところ勝負。
こうなると……。
「頼む。俺に力を貸してくれ」
そうして俺は自分のコマンダー役を選んだ。
一般的ギャルゲーならルート分岐にも繋がりそうな重要な場面ですが、本作のルートは最初から決まっているので、ご安心ください。