347:文化祭二日目・不思議な少女
本日は三話更新、こちらは三話目となります。
「む。凄まじい魔力。貴様……何者だ!」
そこに居たのは一人の少女。
歳はたぶん俺たちより一つ下か二つ下程度。
髪は鱗模様が入った独特な物。
服は黒と赤のゴスロリに銀色の蛇モチーフの装飾品を合わせた物。
そして、左目を眼帯で隠しているのだが……今、少女はその左目を眼帯の上から抑えるように手を上げている。
うん、その、なんだ、実に分かり易いぐらいに中二病である。
非常によく似合っているので、滑稽とかの言葉は決して付かないのだけれど。
「く、くくく。我如きでは名乗る価値も無いと言う事か? それとも力を隠しているのか? だが名乗ってもらうぞ。明らかに我を上回る魔の力を宿している貴様の名を知らなければ、我が今日ここに来た意味が無いと言うものよ!」
「ナル君。ナル君をご指名のようだよー」
少女は左目を抑えたまま、右手で俺の顔を指さしている。
あーうん、その指さしっぷりも実に堂に入っているな。
で、スズ、分かってはいるんだが……急にこの空気に対応しろと言われても、ちょっと困る。
困るんだが、周囲の目も集まってきているし、この場を穏便に終わらせるためにも、名乗るくらいはするべきか。
見るからに年下だしな。
「あー、ゴホン。俺は翠川鳴輝と言う。君は?」
「翠川鳴輝……それが貴様の真名か。そして良いだろう。名乗られたからには名乗り返すが礼儀と言うもの。我が名は荒川千恵! ヤマタノオロチをその身に秘め、破壊と豊穣を司るものである! 恐れ戦きひれ伏すがよい! ハーッハッハッハ!」
荒川千恵、ね。
俺は此処でスズ、イチ、マリーの三人に視線だけで何か知っていることは無いかと尋ねる。
返事は……無しか。
つまり、決闘に関わる企業や有名どころの家の子供ではない、と。
そう言うところの家の子供なら、スズたちの情報網に引っ掛かっているはずだからな。
この濃さで引っ掛からないとも思えないし。
「そうかそうか。それで荒川さんはどうして学園に」
「ふん、そんな物決まっている。国の決まりとやらで我は来年からこの学園に入学する事が定められているのだ。ならば、事前に見に来るぐらいの事は当然であろう?」
「なるほどご両親は?」
「知らん! 行きたいとゴネても聞きもしなかったのでな、一人で来た!」
おっと、二重三重にヤバい情報が出てきた気がするな。
この子……荒川さんは自身が魔力量甲判定である事を確信している。
だが両親はそれを信じていない。
となれば、魔力量の検査を受けていないはず。
中学三年生時点での全国一斉魔力量検査も十一月の事なので、まだのはず。
だが、荒川さんの自信には何処か根拠があるように思えるし、此処までの言動からして……もしかしなくても、正確に魔力量を計れるようなユニークスキル持ちか?
しかし何よりヤバいのは……一人で来た、これだろう。
もしかしなくても、地元では今頃、行方不明者届とか出されている奴ではなかろうか……。
「もしもし麻留田さん?」
と言うわけで、麻留田さんに通報する。
これが最善手だ。
『翠川か。スキル開発部の展示ブースに居ると聞いているぞ』
「話が早くて助かります。どうにも迷子より一段上っぽいんで、外とのやり取りも準備しておいてもらえますか」
『……。例年居るものとは聞いているが、今年も出たか……』
「なっ! 貴様誰と話している!? まさか機関か!? くっ、貴様ほどの剛の者であっても抗えないとは機関の力はいったいこの国にどれほど深く浸透していると言うのだ!?」
どれぐらいかと言われれば、少なくとも警察と言う名の機関は全国に根を張っているだろうし、イチのような裏に通じる家との関わりも考えれば、かなり深いところまで根を張っているんじゃないかなぁ。
そして、麻留田さんの言葉が意味するところは、毎年親が連れて行ってくれないから、自分一人でやって来ちゃう子供がいると言う話なんだろうな。
入口のチェックは危険物の確認がメインであって、こう言うのはチェックの対象外だろうし。
「だが我が機関の手に落ちることは無い! ふははははっ、さらば……」
荒川さんが逃げようとする。
「確保しました。麻留田風紀委員長」
「ぴえっ」
「よくやった青金」
が、その前に風紀委員会の副委員長である青金先輩が荒川さんの脇下に手を入れて持ち上げると言う方法で以って、確保してしまった。
そして直ぐに麻留田さんもやってきて、顔を見せる。
「は、放せー! 貴様は一体どんな権利があって我の肢体に触れているのだ! 横暴だ! これは国家権力の横暴だー! 我はヤマタノオロチを宿す者! 破壊と豊穣を司るものぞー! うおー、はなせえええぇぇぇ……」
「心配しなくても俺はただの風紀委員会で、事情を聞かせてもらうだけだ。ご来場の皆様、騒ぎにしてしまい申し訳ありませんでした。では、失礼」
青金先輩は荒川さんを小脇に抱えると、そのまま何処かへと連れて行く。
うーん、男女差と年齢差を合わせても、あの持ち方を出来る青金先輩は流石としか言いようが無いな。
「翠川」
「はい。話せる範囲で事情は話します。ただ、本当に偶然ここで会って、絡まれただけなので、大した話は出来ませんよ」
「それで構わん。十分もかからないだろうから安心しろ。水園、天石、ゴールドケインも付いてこい」
「分かりました」
「了解でス」
「はい」
そして俺たちも移動し、事情を話す事となった。
なお、俺たちが事情を聞かれている間に荒川さんの魔力量については検査されて、彼女の魔力量が1000を超えている事は確実との事だった。
また、年齢も今年で15歳になる中学三年生との事。
なので、俺たちの後輩になる事は確実であるらしい。
「あの分だと、来年の戌亥寮の甲判定枠はアレでほぼ確定だな。まあ、私は卒業した後なんだが」
「あー、そうなるよねぇ」
「見事に戌亥寮って感じの性格でしたからネ」
「仕方がないですね」
「アレが後輩かぁ……」
ちなみに性格的にほぼ確実に戌亥寮行きとの事。
戌亥寮は問題児の置き場か何かと、学園側を問い詰めたくなるな。
「とりあえず来年の寮長や青金先輩たちは大変そうだな」
「貴様がそれを言うか、翠川」
「ナル君がそれを言うの? いや、私が言うのもどうかと思うんだけどさ」
「ナルは迷惑をかける側じゃないですカ」
「イチは黙秘します」
で、来年、管理側になる生徒たちの事を思ったら、何故か麻留田さんたちから揃ってジト目で返された。
理解はするが、納得は出来ないな……入学当初はともかく、最近の俺はそんなに迷惑をかけた覚えはないと言うのに……。
既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、『マスカレイド・ナルキッソス』が書籍化されます!
2025年5月6日、書影発表となりました!
詳しい事は活動報告の方に挙げてありますので、そちらを読んでいただけると幸いです。




