345:文化祭二日目・演武の控室にて
本日は三話更新、こちらは一話目です。
「巴、演武お疲れ様。舞い散る炎とか、火柱とか、最後の矢とか、とにかくきれいであると同時に力強かった」
「ありがとうございます。ナル様」
俺たちは恋佳さんを連れて、巴と大漁さんが居る控室へと移動した。
控室の周りは、当然ながら関係者以外立ち入り禁止のエリアなのだが、そこは事前に巴へ連絡をしておくことで、通れるようにして貰った。
で、控室に入ったところで、まずは巴に演武の感想をまとめて言う事にした。
無理を言ったのだから、これくらいの礼儀は果たさないとな。
「大漁さんも見事だった。あの網とか超高速の銛は、俺だったら対応できないかもな」
「網に関してはそうかもな。なにせ、ナルキッソスがアホをやらかした時用の策として、麻留田風紀委員長と相談して作り上げたものだしな」
「アッハイ」
同時に大漁さんも褒めておくのだけれど……どうやら今後俺が学園内で何かやらかしたら、あの網が襲い掛かって来るらしい。
覚えておこう。
で、俺のターンはとりあえず此処までだった。
「あ、愛佳ちゃん大丈夫なの!? 最後、凄い爆発に巻き込まれていたと言うか、レーザーに貫かれていたと言うか、とんでも無いことになっていたんだけど!?」
「大丈夫に決まってるだろ。マスカレイドを使っていたんだから」
「痛くない!? 夢の中で刺されたりしたら、目覚めた後もしばらく痛かったりするって聞くよ!?」
「痛くない痛くない、何もないっての」
俺を押し退けるように恋佳さんが大漁さんに抱き着いて、胸やら腹やらをペタペタと触って、色々と確かめている。
しかしまあ、こうして二人揃っていると、二人が双子だと言うのがよく分かるな。
顔のパーツや髪などがそっくりを通り越して同じだ。
それでも二人の表情や態度が全くの別物なので、ある程度親しい人ならば簡単に見分けがつくだろうけど。
「ナル様。彼女がそうですか?」
「ああそうだ。大漁さんの双子の妹。で、俺とイチが感知した限り、決闘中に何度か、彼女から『縁の緑』に似たような気配を感じた」
「『縁の緑』ですか……具体的なタイミングを窺っても?」
「勿論だ。その為に来たわけだしな」
さて、二人が騒がしくしている間に招いてもらった理由を果たさないとな。
と言うわけで、俺はスズが出してくれたトモエとアルレシャの演武の映像を見ながら、恋佳さんから『縁の緑』に似た気配を感じた瞬間を話していく。
具体的に述べるなら、アルレシャが十手でトモエの薙刀を奪おうとした瞬間、アルレシャが三叉の銛を突き出してからトモエが詰めるまでの間、アルレシャが最後の一撃を放った瞬間、この辺りだろうか。
「やはりですか」
「詳しく聞いても?」
「勿論です」
そして、俺が述べたタイミングは、巴も異常を感じた瞬間であったらしい。
十手の時はトモエの想定よりも十手が強固であり、破壊できなかった。
三叉の銛の柄を斬る時も、実は想定より柄が堅く、力を込める必要があったのだとか。
最後の一撃の時については……トモエ曰く、普段のアルレシャの攻撃なら、もっと一方的になるはずとの事。
そんなわけで、外から見ている分には分からなかったが、トモエとアルレシャの演武は幾つもの想定外が重なった、半分アドリブな演武になっていたらしい。
それであれだけの美しさと見応えのある演武だったのだから、二人の実力の高さが伺えるな。
「さて、問題はこの後ですね。誰かには相談するべきとして、誰に相談するべきでしょうか?」
しかし、美しくはあったものの、問題があった事も確かである。
となれば、詳しく調べて、きちんと原因を特定するべきでもある。
だが、この場に居るメンバーでは原因の特定など出来るわけもない。
だから、誰か信頼のおける人に相談をして、文化祭の後でもいいから原因の究明を図りたいわけだが……。
「俺に心当たりはないな。スズはどうだ?」
「私としては樽井先生を推すかな。燃詩先輩に相談できれば、そちらでも良かったんだけど……文化祭とその後しばらくは無理そうなんだよね」
「そうですか。では、樽井先生に連絡を取りましょうか」
樽井先生か。
色々とお詳しいようなので、確かに適当な人物ではあるな。
教師だから変な事もしないだろう、たぶん。
うん、俺の経験を思うと一抹の不安が無い訳でもないが、恋佳さんは一般人だし、流石に大丈夫だろ。
「恋佳がこっちに居るのは今日一日だけと聞いているし、そう言う意味でも樽井先生の方が都合がいいだろうね。はい、電話」
「風紀委員会にはイチの方から先に話を入れておきます。正式なのは大漁さん自身でお願いします」
「でハ、マリーは書類をまとめておきましょウ。ちょっと待ってくださいネ」
「慣れてんな、アンタら……」
「スズたちですから。電話、私が出ますね」
「そうだな。スズたちだからな」
「ほえー」
と言うわけで、スズたちが手早く動いてくれて、樽井先生と大漁さんと恋佳さんの三人が、巴付き添いの下でこの後に会う事が決定された。
流石の手際である。
「それではナル様。私たちはあちらの方へ行ってきます。恐らく今日はもう会えないと思いますが……。明日はよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ」
そうして巴たちは樽井先生の下へと向かって行ったのだった。
「さてナル君。私たちはこの後どうしようか?」
「うーん、普通に文化祭を楽しむでいいんじゃないか?」
「メインステージの最後がカラフル・イーロのステージだと聞いているのデ、そちらは見に行きたいところですよネ」
「では、それまでは校舎内の展示物を見ましょうか。昨日は途中までしか見れませんでしたから」
で、俺たちは大ホールから校舎の方へと移動する事にした。
既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、『マスカレイド・ナルキッソス』が書籍化されます!
2025年5月6日、書影発表となりました!
詳しい事は活動報告の方に挙げてありますので、そちらを読んでいただけると幸いです。
05/11誤字訂正