341:文化祭二日目・大漁の妹
本日は二話更新となっております。
こちらは二話目です。
「あ、もしかして愛佳ちゃんの知り合いでしょうか? 愛佳ちゃんと私って顔を見れば簡単に判別されるけれど、顔以外については本当にそっくりだって聞いていますから」
目の前の少女の言葉に、俺は大漁さんの下の名前が愛佳である事、大漁さんには双子の妹が居る事、その妹は魔力量丙判定なので学園に入らなかった事を思い出す。
つまり、この少女は大漁さんの妹なのだろう。
「そうだな。知り合いではある。俺は翠川鳴輝と言って、学園の一年生で魔力量甲判定と言う事で、お姉さんとは顔を合わせる機会はあるんだ」
「そうなんですね。私は大漁恋佳と言いまして、愛佳ちゃんの双子の妹になります。恋佳でも、大漁妹でも、出涸らしでも、お好きに呼んでください」
「あ、あー……じゃあ。恋佳さんで」
「はい。ではそう言う事で」
うん、やはり大漁さんの双子の妹さんだったか。
しかし、出涸らしって……二人の魔力量の差から連想された言葉なのだろうけど、自分からそれ呼びで構わないとあっけらかんに言うだなんて、いったい何を考えたら、それにどういう経験をしていたら、こんな事言うのやら……。
ただ、こうして学園の文化祭にやって来て、大漁さんが出場する演武を見に来るのだから、姉妹仲については悪くないのだろう。
「それで、そちらの方々は?」
と、ここで恋佳さんの視線がスズたちに向けられる。
なので、スズたちもそれに応えるように自己紹介並びに大漁さんあるいは俺との関係を述べるわけだけど……。
「奥さん候補が三人も……都会って凄い……」
「凄いのは都会じゃなくてナル君だよ。魔力量甲判定だからこその扱いなの」
「そうなんですね。え、じゃあ、愛佳ちゃんももしかして……あわわっ」
「大漁さんについては現状ではそう言う話は聞きませんね。風紀委員会としてのお仕事と決闘者として実力を付ける事に忙しいようです」
「ほっ」
「そもそも女性ですト、そう言う関係性は無理と無駄が多すぎますからネェ。本人が強く望まない限りハ、そう言う事にはならないと思いますヨ」
「そうなんだ。ちょっと安心した。もしも愛佳ちゃんがそう言う子になっちゃったら、どんな顔をして会えばいいのか分からないところだったよ」
うん、見事に盛り上がってるな。
盛り上がっているついでに、俺と恋佳さんの距離は離れて、代わりにスズたちの距離が近づいている。
席も同様だ。
まあ、女性同士で隣り合った方が色々と良さそうだし、これの方が都合はいいな。
「ところで恋佳は一人で学園に来たの? 周りに誰も居ないみたいだけど」
「はい、一人です。本当はお父さんとお母さんも一緒に来たかったんですけど、最近はどうにも副業の方のお仕事が忙しくて、手が空かないみたいなんです」
「副業ですか?」
「はい、まじない糸と言いまして、漁の際に使う網の補修で補助的に使う糸におまじないのように混ぜる糸を作っているんです。ただ、その糸がどうしてか最近は村の外の人に対して良く売れていまして……しかも、値段も結構な物なんですよね。どうしてか」
「おまじない、ですカ。魔力が含まれているとかですかネ? それなら高く売れるのも納得ですガ」
「どうなんでしょう? 昔からの作り方で撚っているだけで特別な点なんて無いはずですし、強度的には最新科学で作られた糸の方が絶対に頑丈なはずなんですけど……どうしてか、高く売れているんですよね」
恋佳さんの言葉で俺の頭に思い浮かんだのは、どうしてか『縁の緑』と呼ばれている、物理的に切られただけでは魔力的には繋がり続けている糸だ。
いやまさかな?
そんなところに繋がりがあるとか流石にちょっと想像が飛躍し過ぎている。
「そう言えば水園さんたちはどうしてこちらに? 誰を見に来たんですか?」
と、それよりも恋佳さんのこの質問に答える事と、その後に見せるであろう反応に対処する方が大事だな。
「あー、実を言えば、俺たちが見に来たのは、大漁さんの相手として出る護国巴さんの方でな」
「む……では、応援的には翠川さんたちは私の敵だったわけですね」
「そう思われるよな。でもな……」
俺の言葉に恋佳さんはムスっとした表情を浮かべる。
うんまあ、そりゃあ、そう言う反応になるよな。
仲のいい姉が戦う相手を見に来たと言ったのなら、敵の味方は敵と判断して当然だ。
「敵にはならないよ。恋佳」
「ですネ。通常の決闘ならともかク、演武では敵味方と言う概念は薄いでス」
「そうなの?」
「ええ、そうです。そうですね。次の演舞が始まったら、その辺りはイチが説明します」
「うん、全部言われたな」
だがそうはならない。
通常のマスカレイドを用いた決闘を演武では、色々と異なる点があるからだ。
「分かった。それじゃあ、お願いね。ところで、翠川さんたちと護国さんの関係って……」
「俺と巴は婚約者って事になってる。今年の魔力量一位と二位で男女のペアって事でな」
「やっぱり……」
なお、時間はまだあると言う事で少し話が戻った。
その上で、恋佳さんは俺と巴の関係性を聞いて、戦慄した様子を見せている。
「ケダモノ……ハーレムが出来るのも分かるほどに美しいけれど、ケダモノ……奥さんが四人もだなんてケダモノだ……!」
「女神に誓って、まだ手は出しておりません」
「私たちとしては手を出してくれてもいいんだけどね」
「そうですネ。もう少し過剰なスキンシップがあってもいいとマリーは思いまス。巴も同様かト」
「イチはノーコメントとさせていただきます」
「後で愛佳ちゃんにも気を付けるように言っておかなきゃ!」
いやしかし、なんでこういう方向に話は流れていったのだろう。
不思議だ。
それと、やっぱり学園外の一般的な倫理観に沿うなら、恋佳さんのような反応になるよな。
とりあえず俺としては気まずさと恥ずかしさから、目を逸らすのがやっとである。
そして、俺たちがこんな事をしている間に、次の演武が始まろうとしていた。
大漁恋佳の決闘とその周辺に関する知識レベルは、二話時点のナルよりは多少マシ程度とお考え下さい。
さて、少しばかり宣伝を。
既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、『マスカレイド・ナルキッソス』が書籍化されます!
そして昨日2025年5月6日、書影発表となりました!
詳しい事は活動報告の方に挙げてありますので、そちらを読んでいただけると幸いです。