340:文化祭二日目・戌亥寮の反響
本日は二話更新となっております。
こちらは一話目です。
「凄い爆発だったな」
「凄い爆発だったね」
「凄い爆発でしたネ」
「ですが、あの爆発のおかげで、学園の生徒を舐めていた連中は軒並み黙ったようなので、意味はあったと思います」
宣言決闘一戦目の反則反撃爆発の後は、特に何事も無く進行していき、無事に本日の戌亥寮の出し物は終わった。
と言うわけで今は控室でマスカレイドを解除して、この後に行われる虎卯寮の出し物……もっと言えば、巴と大漁さんの演武を見るべく、舞台裏から観客席の方へと移動している途中である。
二人の演武は虎卯寮の時間の中では後ろの方になるのだが、注目もされているだろうから、席取りの為にも早めに行くべきだと判断した形だ。
「アレは黙ったではあるが、シンプルに命の危険を覚えて怯えた。の方が正しくないか?」
「黙った事に違いはないから問題ないよ。ナル君」
「ですネ。結果として黙ったのだかラ、問題はありませン」
で、爆発の話題がもう少し続くのだけれど……。
最初の爆発で黙らされた連中は、正直見ていてちょっと可哀そうなくらいには震えていた。
そして最終的には途中で退席して、何処かへ行ってしまっていた。
「ナルさん。そもそも生徒全員がマスカレイドを扱う訓練を受けているような学園に喧嘩を売る方が悪いので、優しくする必要は無いと思います」
「まあ、それはそうか……」
きっと彼らは気づいてしまったのだろう。
もしも自分たちがここでトラブルを起こしたならば、あの爆発が自分たちに向けられる可能性があると言う事実に。
勿論、彼らの中にはマスカレイドを扱える人間も居たのだろうけど……殆どの人間は魔力量丙判定だったろうし、そうなるとマスカレイドは殆ど使えない。
仮に乙判定でマスカレイドを使えたとしても、常日頃から使っている学園の生徒とそうでない人間の差は明らかだった事だろう。
そう言った事実の積み重ねと、自分たちがやろうとしていた事のマズさに気が付いた結果が……あの震えだったのではないかと思う。
まあ、いずれにしても、喧嘩を売ろうとする方が悪いのだから、イチの言う通り、気にする事ではないか。
「そうそう、ナル君。あれで居なくなる連中は後ろ盾の居ない末端だけだろうから、油断は禁物だよ。具体的には尾狩参竜配下の連中とか」
「あー、そうだな。そう言う連中はマスカレイドの事も理解して喧嘩を売ってくるか」
「売ってきますネ。目的もマウントではなク、金銭でしょうシ」
むしろ気にするべきは、あの爆発を見てもなお喧嘩を売ってくる連中か。
そう言う連中は、こちらの戦力を理解した上で喧嘩を売って来ている事になるから、気を付けて対処しないと……決闘制度を悪用した金銭の強奪をやられる事になるのか。
うん、気を付けておこう。
「なあ、さっきのバニーガール。ナルキッソスだったか? あのバニーガールは何処に行けば会えるんだ?」
「アレが男? 嘘を言うんじゃない! あんな立派なものが付いていて男な訳があるか!」
「彼女に惚れた! 会わせて欲しい!」
「……」
なんか不意に変な言葉が聞こえてきてしまった。
視線だけを向けると、おっさんたちが控室の方に続く通路の前に立つ警備員の人たちに向かって何か喚いているようだった。
いや、おっさんだけじゃないか。
「あの、これ。ナルキッソス様にプレゼントを渡したいです!」
「差し入れを、差し入れをさせてください!」
「妹にしたいので会わせてください!」
女性も普通に居る。
見た目からして、学園外の高校生、成人女性、大学生と言う感じだろうか。
熱量だけなら、さっきのおっさんたちにも引けを取っていない。
「人気者だねぇ。ナル君」
「そうみたいだな。と言うか、ナルキッソス=翠川鳴輝なのって案外知られていないのか?」
「普通に調べれば出て来る範囲ですネ。調べなければ出て来ませんけド。それデ、ここで警備員に詰め寄るような人たちが調べるかと言われたラ……怪しいと思いませんカ?」
「あー……なんか納得できてしまった。そうだよな。普通のファンなら、正規の手順を調べて、その手順に従って行動するよな」
「はい。普通はそうします。逆に言えば、ここで詰め寄る方は少々暴走している状態なのだと思います」
なるほどつまり、あの人たちは俺……ナルキッソスの美しさによって暴走してしまった人たちになるわけか。
なんだか、やってしまった感があるな。
ただ、絡まれたいとは思わないので、とっとと距離を取ってしまおう。
俺はファンとは適切な距離を保ちたいのだ。
「ちなみに俺の普通のファンってどれぐらい居るんだ?」
「うーん……今日の写真集の売上で判断するべきかなぁ。決闘の映像の視聴回数の多さはナルちゃんを研究する目的で見ていて、ファンではないって人も多いから」
「でも少なくはないですよネ。具体的な数を出すことは難しいですガ」
「一年生の中で見ればトップクラスだと思います。それと普通のファンの中でも熱量は様々ですので、量る事は難しいと思います」
「そうか」
さて、そうしている間に俺たちは観客席までやって来て、四人で座れる適当な席を探しだす。
そうして見つけたのは青髪ツインテールの大漁さんが座っている席の隣で……。
「ん? 大漁さん? どうしてここに?」
そこで俺は思わず尋ねてしまった。
だって、大漁さんは、この後トモエの相手として演武に出場する都合上、既に控室に居なければいけないはずなのだから。
それがどうしてここに居るのか。
何かトラブルでもあったのか?
俺には理解が追い付かなかった。
そして、声をかけた相手がこちらを向き、声を発したことで、俺はさらに困惑する。
「はい? 確かに私は大漁ですが……どちらさまでしょうか?」
向けられた顔はパーツ単位で見れば大漁さんそっくりではあったものの、雰囲気や表情がまるで別人だったからだ。
それなのに帰ってきた言葉は、俺の言葉を肯定しつつも、困惑したものだった。
さて、少しばかり宣伝を。
既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、『マスカレイド・ナルキッソス』が書籍化されます!
そして昨日2025年5月6日、書影発表となりました!
詳しい事は活動報告の方に挙げてありますので、そちらを読んでいただけると幸いです。