339:文化祭二日目・ウサギは跳ねて魅せる
「レディィィィィスッ! アンド! ジェントルメェェェン! この度は文化祭、戌亥寮の名物出し物、宣言決闘の観戦にお越しいただき、誠にありがとうございます!!」
さて、本日の宣言決闘が始まった。
流れは昨日と同じで、司会である照東さんの自己紹介、簡単なルール説明に、ジャッジたちの紹介。
それから俺の登場を挟んで、決闘に臨む生徒たちの紹介となっている。
「さて、上手くいくと良いんだがなぁ……」
なっているのだが……実は宣言決闘のルーレット係を務めるに当たって、俺は桂寮長から軽い無茶ぶりをされている。
具体的には、文化祭の三日間、毎日違う演出で登場して、人目を惹くようにと言われているのだ。
戌亥寮の宣言決闘が行われる前に披露されていた他の寮の印象を、俺の行動によって払拭したいと言う思惑があるらしい。
勿論、無理なら普通に登場しても良いと言われているが……俺の美しさを披露できる機会を逃す理由はない。
うん、やってやろうではないか。
コケたら、その時の責任や批判は桂寮長に押し付ければよい。
一緒に演出を考えてくれなかったしな。
「マスカレイド発動。魅せろ、ナルキッソス」
俺は名前が呼ばれる前にマスカレイドを発動し、バニーガール姿のナルキッソスになっておく。
なお、昨日と違って、ルーレット盤は連れて行かない。
この後の演出中に、他の生徒が所定の位置まで運んでくれる手筈になっているからだ。
「では、ルーレット係の登場です。戌亥寮一年……ナルキッソス!」
「『ドレスパワー』発動」
時間だ。
俺はスキル『ドレスパワー』を発動すると、笑顔で舞台裏に繋がる通路から人目に触れるところにまで出て来る。
そして、頭の上を遮る物が完全になくなったタイミングで……。
「すぅ……とぅ!」
「「「!?」」」
跳ぶ。
バニーガール姿の『ドレスパワー』の効果によって跳躍力を大幅に強化し、助走無しで、床から5メートル……いや、10メートル近く跳び上がり、空中で上下左右に回転。
そうする事で、俺の美しさと『ドレスパワー』の影響で仄かに輝くバニーガール衣装を観客全員に見せつける。
そこから、重力の導きに従って舞台の中央に小さな音を立てつつ着地し……ゆっくりと顔を上げる。
「どうも、こんにちはー! ルーレット係のナルキッソスでーす!」
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
で、笑顔を浮かべ、両手を上げて軽く振りつつ、挨拶をしたのだが……歓声が凄い事になっているな。
しかも昨日と違ってなんだか声が全体的に野太い気がする。
うん、上手くはいったが、もしもこれで何かトラブルが起きたなら、その解決は桂寮長に押し付けよう。
一緒に演出を考えてくれなかったのが悪い。
「はい、ド派手な登場演出ありがとうございます。ナルキッソスさん。では、仕事の方、よろしくお願いしますね」
「分かりました」
照東さんが笑顔なのに笑っていない顔を俺に向けている。
昨日もそうだったが、嫉妬をされているなぁ……。
まあ、照東さんは俺に嫉妬をしていても、仕事をしっかりとこなしているし、こちらの足を引っ張るような真似もしないから、何も問題は無いのだけれど。
と、俺も仕事をしなければ。
俺は演出中に運び込まれていたルーレット盤の隣に立つ。
「それでは、本日の第一決闘に出場する決闘者の入場です!」
照東さんが決闘者の紹介を始める。
もうじき仕事の開始だな。
「……。なるほど。確かにチンピラっぽいのが居るな」
それはそれとして、俺は観客席の様子を窺う。
基本的には普通の大人や家族連れ、一部に生徒と言う感じだ。
だが、極一部は……なんと言うか、チンピラと言った方が良い空気を纏っていて、周囲を威圧している。
「麻留田さんたちが来ているから、いざって時は任せて大丈夫か」
しかし、チンピラたちは態度で威圧しているだけだ。
声も動きも、排除されるほどのものではない。
だから、麻留田さんたち風紀委員会も警戒するだけに留めているようだ。
「では、ナルキッソス!」
「ルーレット……スタート!」
俺は照東さんの声に従ってルーレットを回す。
そして、ルーレットが止まり、宣言決闘が始まる。
始まって……。
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
「あー……」
「爆発したぁ!?」
爆発した。
比喩でも何でもなく、本当にただ爆発した。
けれど爆発の規模が桁違いで、決闘の舞台を囲う結界越しでも空気が震えるほどの大爆発だった。
おかげで純粋に決闘を楽しみに来た客は歓声を上げているが、何かを狙っていたらしいチンピラ系統の連中は明らかに腰を抜かしている。
えーと、今戦っていたのは梅駆先輩ことグロリアスライダーに、スキル開発部の名前を知らない二年の先輩で、攻撃を仕掛けたのはグロリアスライダーの方だった……あー……うん、何があったのかまで理解した。
「反則! 明確な反撃は反則だ! と言うか、少しは加減しろ、馬鹿者!!」
今日のジャッジ担当らしい桂寮長が叫ぶ。
そうだろうねとしか、俺は感想を持てない。
だってこれはつまり……。
スキル開発部の名も知らぬ先輩が、攻撃を受けたら大爆発を起こして反撃するスキルを使ったと言うだけの話なのだから。
と言うか、もしかしなくてもスキル『チェンジボディトゥボム』の製作者だろ、この先輩。
この爆発には覚えがあるし。
なお、次の決闘が始まるまで五分ほどかかった。