335:文化祭二日目開幕
「これで準備完了か?」
「うん、大丈夫だよ。ナル君」
現在の時刻は8時30分頃。
もう十五分ほどしたら混雑緩和の為に学園の正門が開かれて、三十分ほどしたら文化祭二日目が開幕である。
「看板ヨシッ! 誘導ヨシッ! 商品ヨシッ! 万全ですネ!」
「そうですね。これなら大丈夫そうです」
昨日の経験もあって、ブースの準備は手際よく、かつ抜かりなく終わっている。
これだけ揃っているなら、客層の差によってどの程度の人数が来るのかは予想出来なくても、何とかはなる事だろう。
「それじゃあ翠川たち。俺たちはライブの方に行ってくるから、後は任せた」
「はい、分かりました。岩上先輩たちが活躍してくるのを祈ってます」
そうして準備が完了したところで、各種出し物の都合でブース関係者の一部が居なくなる。
岩上先輩たち『Rock On YYY』の四人は、グラウンドの一つに設けられたメインステージの方で、音楽フェスのようなものに出るそうだ。
聞くところによれば何曲か披露してくるらしい。
二日目と言う外の人たちが客として入って来る環境で、開幕に近い時間帯を短時間でも任せてもらえると言うのは……どうなんだろう?
個人的には凄い事だと思うのだが、俺の知識に判断基準になるようなものがないから分からないな。
「ではウチも寮の出し物に行ってくるっす」
「ああ、頑張ってな。曲家」
曲家は申酉寮の出し物であるマスカレイドを使った演技……サーカスのようなものを、大ホールの方でやるらしい。
なんでも、文化祭二日目である今日の申酉寮の出し物では曲家だけでなく、徳徒と遠坂も出て、三人で演技を披露してくるとの事だ。
まあ、御覧の通り、俺たちはブースの方を担当しなければいけないので、曲家たちの演技がどのような物であったかは、文化祭の後で確認する事になるだろう。
「えーと、確か今日の戌亥寮の出し物は申酉寮の後だったよな?」
「うんそうだよ。だから、私たちがブースで働くのも一時間ちょっとだけで、その後は曲家君たちの演技を見る事も無く、舞台裏に入る事になるはず」
ちなみにだが。
申酉寮がマスカレイドを使った演技、戌亥寮が宣言決闘を行うように、子牛寮と虎卯寮もマスカレイドを使った催しを大ホールでお披露目する。
子牛寮は演劇で、虎卯寮は演武だったかな。
そして、今日二日目の虎卯寮の演武では巴が出るので、そこを見に行くことは俺の予定として決まっている。
昨日と違って巴が今この場に居ないのも、そちらへの注力と言うか、最終調整のために朝から色々とやっているためのようだ。
うん、楽しみにしていよう。
「うワー。分かってはいましたガ、凄い人混みになっていますネ」
「そうですね。ですが、この人たちが分散して動くので、イチたちの下に来る人の数は限られているはずです」
「ん? ああそうか。テレビも入っているんだな」
「そうだね。学園が開放される数少ない機会だから、テレビたちマスメディアも積極的に入って来るみたい。当然人もだね」
と、ここでマリーが声を上げる。
見れば、マリーの手元にはスマホが握られていて、そこには学園の内外を分ける門の前に沢山の人が並んでいる姿が見えた。
既にほぼ黒山の人だかりと言ってもいい状態になっている。
それと、危険物チェックのためのスペースも見えた。
どうやら今日一日は正門前の道路を封鎖して、そこでチェックをしてから学園の敷地に入れるようだ。
「ちなみに一部のOB・OGは既に入場済みだよ」
「知ってる。『パンキッシュクリエイト』のブースの人たちがやけに多いなと思ったら、見覚えのない人たちだったからな」
そう言う諏訪の視線の先には、人数が十人以上に増えている『パンキッシュクリエイト』のブースがある。
客の増加とサークルメンバーの少なさから発生してしまう問題を起こさないために、ヘルプとして同サークルのOB・OGの人たちが入っているらしい。
また、他のサークルや寮の出し物についても、一部では、正門以外のルートを使って既に入場し、在校生の手助けをしてもらっているそうだ。
学園の文化祭なのにそれで良いのかと思うけれど……、許可を出すのは学園なので、俺たちが気にするところじゃないな。
周りに迷惑をかけているわけでもないし、問題が起きない方が重要だ。
『只今より、外の方の入場を始めます。しかし、ブースなどの営業はまだ始めないでください。開始は9時です』
「と、人が入り始めるみたいだな」
「みたいですネ。マリーが見ている方も動き始めましタ」
「では、身構えておきましょう」
「そうだね。あ、そうだ。ナル君……」
8時45分になったらしい。
正門の方から人がこちらへと近づいてくる。
誰も彼も楽しそうにしているが……走るような人は居ないみたいだな。
この手のイベントでは先頭の人は駆けるものと言うイメージがあったのだけれど、決闘学園の文化祭はそうでもないらしい。
「此処がブースエリアか……まるでテーマパークに来たみたいだぜ」
「へー、服飾サークルの商品。これが手作りなのか」
「メインステージの方はライブだってさ。行こうぜ」
「お、そうだな!」
「くくくっ、サブステージで行われる宴とやらを見て、先輩方の実力を確かめさせてもらおうか」
「申酉寮が出し物をやる大ホールはこっちだって」
「慌てず騒がず~ですよ~」
「美術サークルの展示エリアは校舎内か。ではこちらだな」
「お供いたします。旦那様」
「あの子は何処に?」
「ショッピングモールにあるカフェとの事です」
そうしてやってきた人たちはやがて散らばっていく。
俺たちが居るブースエリアに。
グラウンドに設置されて、ライブなどのイベントが行われているメインステージに。
もう一つのグラウンドに設置されて、特殊な決闘が行われているサブステージに。
各寮の出し物が催される大ホールに。
屋内展示の方が適している催し物が行われている校舎内に。
今の学園内でもいつも通りの環境を維持しているショッピングモールに。
自分たちの目的に合わせて、移動していく。
『9時になりました。只今より、決闘学園文化祭、二日目、開催です』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
そうして文化祭二日目が始まった。