331:文化祭一日目・宣言決闘の感想戦
「いやー、見ごたえのある決闘ばかりだった」
二時間に及ぶ宣言決闘は無事に終了した。
と言うわけで、俺も本日の役目は終了。
舞台裏にまでルーレットを運びつつ退出をして、今は俺の為に用意された控室でマスカレイドを解除したところである。
「お疲れ様。ナル君」
「お疲れ様です。ナル様」
「ありがとうな、スズ、巴。マリーとイチは?」
「二人は飲み物を買いに行ってる。二時間もマスカレイドをし続けたら、流石のナル君でも疲れただろうから」
「あー……魔力消費やマスカレイドによる疲労はないけれど、気を使うと言う意味では確かに疲れたな」
「それはそうですよね。ルーレットも、私たちが買って渡した装飾品も普通の品でしたから」
そこへスズと巴がやって来て、労いの言葉をかけてくれる。
うん、流石に疲れたので、二人の気遣いも、マリーとイチが買ってきてくれる物も嬉しい事になりそうだ。
「まあ、明日からは多少マシになると思う。宣言決闘の間にスズたちが買ってくれた装飾品については、『ドレッサールーム』への取り込みも完了したし」
「そうなんだ。よかったね、ナル君」
「では、明日からも楽しみですね」
さて、俺についてはこれくらいだな。
それよりもだ。
「しかし、宣言決闘。中々に見応えがあると言うか、人によって立ち回りも宣言内容も何もかもが違う面白い決闘だったな」
俺は宣言決闘について語り合いたい。
思い返すは一戦目、ボーゲンレーベとフリーデリーケ三世の決闘だ。
「ボーゲンレーベは素直な宣言をして、多少の揺さぶりはあっても、素直な挙動で戦っていた。対するフリーデリーケ三世は、宣言からして捻っていて、挙動も虚を突くようなものだった。アレはそれぞれの能力や性格がよく出ていたよな」
「そうだね。あの決闘は宣言決闘の特殊性が出ていたと思うよ。如何に自分の宣言内容を守りつつも、相手に攻撃手段や方向を悟らせないのかと言う戦術性を要求されていたから」
「私も二人に同意します。実力もいい具合に拮抗していましたし、どうやって相手に攻撃を当てるかを二人ともよく考えていました。最後が宣言違反による失格で終わってしまったのも、ある意味では宣言決闘らしい幕引きだったと思います」
実際、あの決闘は今日の宣言決闘の中では一番見応えがあったように思える。
どうやって攻撃するのか、どう宣言するのか、どう防ぐのか、二人とも、普段の決闘とは比べ物にならないほどに頭を使っていたのではないかと思う。
「その最後の攻撃にしても、やり方次第では成立していたよな?」
「そうですね。矢を先端に持ってくるのではなく、腕の中継ぎに使う。矢の鏃ではなく矢羽根の側を使う。これが出来たなら、ジャッジの判断は変わっていたと思います」
「巴の言う通りだろうね。ただ……咄嗟に出ちゃったんだろうね。スピード重視で動く状況だったし、少しでも殺傷能力を上げようとしちゃったんだろうね」
「その辺りの咄嗟の反応も含めて、宣言決闘の醍醐味であると、私としては思うところですね」
「それは同感だな」
「だね」
本当に最後の最後まで分からない決闘であり、エンターテイメントとしては素晴らしい出来だったと思う。
まあ、戦っていた二人にとっては……どっちにとっても相当に悔しい結果だっただろうけど。
フリーデリーケ三世は、少しの注意で防げたミスにより負けになってしまった。
ボーゲンレーベは、相手がミスしなければ負けていた。
と言う状況だったから。
「後あれだな。どうして俺が決闘者として宣言決闘に出せないのかがよく分かった」
「まあ、ナル君が出ちゃうとね……。実力差もあるけど、特性的にもね……」
「ルール上、宣言内容を考えるための待ち時間がありますが、その待ち時間で回復してしまいますからね……」
俺の言葉に二人も呆れを滲ませつつも同意してくれる。
うん、実際の所、俺が宣言決闘に出てしまうと、自分のターンをわざとゆっくり消化するだけでも、圧倒的に有利になってしまう。
攻撃内容が宣言されている以上、不意を突く形にしないと防御も回避も容易で、元々堅いのが更に堅くなってしまう。
これが容易に予想で来てしまう時点で、俺自身、宣言決闘で俺と戦いたいとは思えない。
「同様にスズとマリーも出禁だよな。宣言決闘については」
「出禁だね。好きに調合する時間が取れるって時点で、私は何でもやりたい放題になっちゃうから」
スズも宣言決闘には出せない。
スズの調合は材料が多かったり、手順が複雑なものほど、威力や効果が高まっていく傾向にある。
だから通常の決闘では、相手はスズに調合の時間を与えないようにアレコレするし、スズも時間稼ぎのためにアレコレするわけだけど……宣言決闘だと、相手の行動を妨害するのはルール違反になってしまう場合があるからな。
下手をすれば、死刑の執行待ち時間になってしまう。
「マリーも確かに駄目ですね。詠唱内容がそのまま宣言内容になった上に、あの威力ですから」
マリーも同様と言うか、もしかしなくても俺とスズ以上に酷い事になる。
スキル『P・魔術詠唱』の効果で攻撃の威力を上げる行為が、そのまま宣言として通用してしまい、破壊力が恐ろしい事になってしまう。
もはや宣言がそのまま死刑宣告になりかねない。
「かと言って身内同士でやり合ってもな……」
「私たち自身は気にしなくても、お客さん的にはどうなんだと思うところだろうね」
「そこが宣言決闘の難しい所でもありますね。あくまでも決闘ですから、忖度なしの戦いが見たいわけですし」
では俺たち同士を戦わせるのは?
うーん、普段なら有りかもしれないが、エンターテイメントと言うか、文化的な物を求められる文化祭においては合わないように思えるな。
うん、やっぱり俺たちを宣言決闘に出さなかったのは正解だと思う。
「戻りましター! 飲み物買ってきましたヨ!」
「只今戻りました。ナルさん」
「ありがとうな、マリー、イチ」
と、此処でマリーとイチが戻って来た。
では、ちょっと休憩をしたら、文化祭一日目の残りを楽しむべく動くとしよう。
別名:どうして宣言決闘にナルたちをお出ししなかったのか、の説明回。
ちなみに、イチは隠密系統であるため、ジャッジたちが審判を出来るとは限らない場合があります。なので、一人だけ宣言決闘との相性が悪かったりします。