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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
8:文化祭編
330/499

330:文化祭一日目・ボーゲンレーベVSフリーデリーケ三世 -後編

「『私は相手を射る』」

 ボーゲンレーベの宣言は為された。

 既に弓の弦は限界まで引き絞られ、後は指を離すだけで槍のような矢がフリーデリーケ三世に向かって放たれる事だろう。


「それ、最初と同じ宣言じゃない。受ける側の私にとっては楽だから良いけどね」

 対するフリーデリーケ三世は片足で器用に立ちつつ、王笏を振れるように構えを取る。

 同時に、自身とボーゲンレーベの間に立つ岩人形を何時でも動かせるように身構えさせる。


「「……」」

 この攻防で決闘の勝敗が決まる。

 舞台に居る二人も、ナルたち運営人員も、見守る観客たちも、それを直感的に理解した。

 だから、呼吸の音すら聞こえそうなくらいに静まり返り、それでもなお騒がしいと息を呑む。

 そのままの状態が一秒、二秒と続き……。


「すぅ……『クイックステップ』!」

 動く。


「からの『パワーショット』!」

 スキル『クイックステップ』の効果によって、ボーゲンレーベの巨体が斜め前の空間に向かって飛び出し、着地する。

 そして素早くスキル『パワーショット』を発動して、フリーデリーケ三世に向かって強化された矢を放つ。

 それは岩人形と言う遮蔽物を迂回するだけでなく、予想していない方向と距離から矢を射かける事によって、直撃を狙うボーゲンレーベの策であった。


「来るっ! 『ロックウォール』!」

 対するフリーデリーケ三世も動く。

 フリーデリーケ三世は片足になった状態では上手く動けないと理解していたし、攻撃の位置が確定してから動いたのでは遅いとも判断していた。

 だから、ボーゲンレーベが動き出したと認識した瞬間には、フリーデリーケ三世も動き始めていた。

 岩人形には両腕を広げさせながら前に飛び出させ、王笏の振りに合わせて自身の支配下にあるボーゲンレーベの矢を高速回転させつつ自身の前に持ってきて盾のようにし、更には回転する矢では補えない範囲をカバーするように『ロックウォール』による岩の壁を出現させていた。


「くっ……」

「よ……し……っ!」

 結果。

 ボーゲンレーベの矢は岩の壁に突き刺さり、打ち砕くも、フリーデリーケ三世の体には直撃せず、トドメを刺すには至らなかった。

 そして、ボーゲンレーベの攻撃が終わったと認識した時点で、フリーデリーケ三世の攻撃が始まる。


「宣言! 『右でぶん殴る』!」

 フリーデリーケ三世の操る岩人形が右腕を振りかぶりながら、ボーゲンレーベに向かって駆ける。


「っ!? 『クイックステップ』!」

 それを見たボーゲンレーベは直ぐに『クイックステップ』を発動して、岩人形の腕が届く範囲から飛び去る。

 この瞬間、フリーデリーケ三世の攻撃は失敗に終わる……かと思われた。


「舐めるな!」

 岩人形の腕が伸びていく。

 今さっき壊された『ロックウォール』の欠片が岩人形の右腕に継ぎ足されていき、岩人形の腕が伸びていく。

 それだけでも足りないからと、ボーゲンレーベの矢を先端に据えて、さらに伸びていく。

 そうして伸び切った先で……。


「なっ……!?」

 岩人形の持つ矢の鏃がボーゲンレーベの体に”突き刺さり“、貫く。

 それは致命傷となる一撃であり、ボーゲンレーベの仮面体は維持できなくなって、崩れ落ち始める。

 その光景に多くの人間はフリーデリーケ三世の勝利を確信した。

 そして、観客たちはフリーデリーケ三世の勝利を称える歓声を上げようとして……。


「失格だくまー!」

 その前にジャッジである熊白によってフリーデリーケ三世の反則負けが告げられた。


「「「ーーーーー~~~~~!?」」」

「失格! 失格です! 何があったのでしょうか!? フリーデリーケ三世の失格が告げられました! ですが確かにジャッジたちは旗を上げている! それも全員がです! いったいこれはどういう事だー!?」

 決闘が終わりを告げ、ボーゲンレーベもフリーデリーケ三世もマスカレイドを解除して、舞台の上に立つ。

 合わせて、ボーゲンレーベの矢やフリーデリーケ三世の岩人形も消えていく。


「説明するくま」

 そして、二人の前に熊白が立ち、何故フリーデリーケ三世が失格になったのかを説明し始める。


「フリーデリーケ三世の宣言は『右でぶん殴る』だったくま。確かに岩人形は右腕で攻撃を仕掛けていたくま。けれど、先端がボーゲンレーベから奪った矢で、おまけに鏃の方で突き刺してしまっているくま。これでは殴るとは、とてもじゃないけど言えないくま」

「あ……」

「なるほど……」

 熊白の言葉にフリーデリーケ三世……風鈴が思わず声を漏らす。

 また、ボーゲンレーベ……獅子鷲も感心したような声を上げる。

 何より、納得した。

 だって確かに突き刺さっていたと、それぞれ自分の感覚で分かっているのだから。


「よって、この宣言決闘はフリーデリーケ三世の宣言違反が為されたとして、ボーゲンレーベの勝利だくまー」

「「「ーーーーー~~~~~!!」」」

「やっちゃった……」

「その、ドンマイと言う奴です」

 そうして大ホールはボーゲンレーベの勝利を称えるように歓声に包まれて、その歓声の中で風鈴は獅子鷲に軽く慰められると言う形で、宣言決闘の一戦目は終わりを告げたのだった。


「それでは次の決闘に参りましょう!」

 なお、戌亥寮の出し物の時間はまだまだ存在している。

 この時間内で行う予定の決闘もまだまだある。

 と言うわけで、素早く舞台のチェックが行われて、次の決闘が始まるのだった。

Q:どうしてボーゲンレーベVSフリーデリーケ三世なんてサブキャラ同士の決闘を描いたの?

A:一般モブレベルよりちょっと上の決闘ってそう言えば描いていなかったな、と。

 後、宣言決闘の特性も考えると、これくらいのレベルの決闘者の方がちょうどよかったと言うのもあります。

 なお一番の理由は作者が書きたかったからです。

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― 新着の感想 ―
なるほど、つまり「あなたを窒息させる」って言って水球に閉じ込めても脱出されたらその時点で窒息してないから反則負け!みたいな感じになるのか 言ってることはすごくよくわかるし確かにルール上そうなるわって…
矢で刺すんじゃなくて振り回して殴っていればセーフだった? 猫「反則負けしたフリーデリーケ三世はお仕置き部屋逝きニャ(バニービルダー達に合図)。反則などせずに正々堂々と宣言決闘するニャ」
フリーデリーケ三世は勝負に勝って試合に負けましたか。 もうちょっと余裕があれば鏃の先に岩の欠片を付けるでも何でもして「殴る」にできたかもしれませんね。
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