33:決闘事後
本日は四話更新となっております。ご注意ください。
こちらは三話目です。
「ふぅ。勝ったな」
司会の先輩が俺の勝利を告げただけでなく、縁紅のマスカレイドが解除されて、傷一つない元の姿が見えたところで俺は少しだけ気を抜く。
で、念のためにと、自分の残りの魔力量がどれぐらいかを探ってみたが……半分は確実に割っているが、四半分にはなっていない、と言うところだろうか。
どうやら縁紅の最後の一撃、あれだけで俺の魔力は半分くらい持っていかれたようだ。
盾で一応防いだ上でこのダメージとなると、撃たれ方や状況次第では、俺が負ける可能性も十分にあったようだ。
「「「ーーーーー~~~~~……」」」
「ん?」
さて、そうして心の内では決闘の反省をしつつも、体の方では決闘の余韻を全身の肌で感じていたのだが……気づいた。
いつの間にか、ホールに満ちている声が歓声ではなく、ざわつきに変わっている事に。
「翠川! 服だ! 服を着ろ!!」
麻留田さんが非常に慌てた様子で、俺へと声をかけてくる。
そこで思い出した。
そう言えば、決闘中にどうしてか服が弾け飛んでいたな、と。
「別に見せたって……」
別に見せたところで恥ずかしくもなんともない。
なにせ、非の打ちどころのない、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでおり、傷など存在しない、あるべきものが程よく在る素晴らしい肉体なのだから。
そんな事を言おうとしたところ、麻留田さんの手には鋼鉄製の檻が出現しており、既に投球フォームにも入っていた。
「いやはい、ごめんなさい。今すぐ服を出しますので、その檻は下げてくださいませ。麻留田風紀委員長様。ですので何卒、お許しいただければと……」
「分かればいいんだよ。分かれば。おら、とっとと服を着ろ」
「はい」
俺は即座に土下座をすると共に、魔力を肌の上に出して、ライダースーツを出現させる。
ああうん、着るとよく分かるが、やっぱり何も着けていない方があるべき状態で、着けるとどうにも息苦しいと言うか何と言うか……いやはいごめんなさい、なのでこちらの心の内を読んだかのように、再度投球フォームに入らないでくださいませ。
折角、決闘に勝ったのですから、舞台を降りるのは自分の足で行いたいと言うのが、初勝利に伴う心情と言うものでして。
『えー、少々もたつきましたが……決闘の勝者の退場です! 皆様どうか拍手でお送りくださいませ!』
「「「ーーーーー~~~~~」」」
「たく、今回のも事故だから何もなかったことに出来るかと思えば……あともう少し見せつけ続けていたら、私だってやるべき事をやらない訳にはいかなかったぞ」
「はい。ご迷惑をおかけいたしました」
何とか許していただけた。
そうして俺は麻留田さんに案内される形で舞台を降り、観客の目が届かない場所にまで移動した。
「なんにせよだ。正式な決闘の初勝利おめでとう、翠川鳴輝。今回の結果に慢心することなく、きちんと衣装を着て、今後も活躍できるように頑張ってくれると、先輩としても鼻が高い」
「はい、ありがとうございます」
こうして今回の決闘は俺の勝利で幕を下ろしたのだった。
■■■■■
同時刻貴賓席。
「いやはや、入学して一週間とは思えない戦いぶりでしたな。今年は護国嬢の入学だけでなく、魔力量の時点で豊作だと言われておりましたが、あの戦いぶりを見れば魔力量以外も豊作と判断して良さそうだ。学園長としても、先達としても、これからが楽しみで仕方がありませんな。ほっほっほ」
部屋の中には決闘学園の学園長である沖田英雄が居て、ナルと縁紅の決闘を見ていた。
そして、決闘が無事に終わると共に、その評価を始めていた。
「しかし気になるのは縁紅君の最後に放った攻撃。アレは感情の発露に合わせて魔力が限界まで引きずり出されただけではありませんな。アレはアビスの魔力が込められた弾丸でした。貴方様が学園に緊急で来られた時点で怪しんではおりましたが……なるほど、縁紅君はアビスの信徒でしたか。となれば……」
「沖田英雄」
部屋の中に居るのはもう一人……女神。
女神は饒舌に語る学園長の言葉を、名前を呼ぶことで止める。
「縁紅慶雄はアビスの信徒ではありませんよ。アレは何処かで囁きを聞いてしまった程度です」
女神は淡々と事実を告げた。
「おや、そうなのですか。これは勘違いしておりました。いやしかし、そうなりますと……本命は別ですかな?」
「そうなるでしょう。ただ、狂信者ではなく純粋な信徒であれば何も問題はありません。アビスは私と対立しているだけで、人類の敵ではないのですから。ですので、貴方たちは普通に教育をすれば、それが最も私にとって有益です」
「儂としては貴方様と対立していると言う時点で問題なのですがなぁ……。ですが、貴方様がそう言うのであれば、実害が出ない限りは気にしないことといたしましょう」
「それで構いません。縁紅慶雄についても、今回の決闘で賭けたものには彼の改心が含まれていますので、それを利用すれば監視と教育は問題なく出来るでしょう。間違っても見限るようなことは無いように」
「それは言われずともです。なにせ貴重な甲判定者には変わりない事ですから」
アビスが何者であるかは語られない。
女神はアビスが何者であるかを理解しているからこそ口には出さない。
余計な知識を与えない事も、また必要な事であると分かっているから。
「では、私は用事を果たしましたので、帰らせていただきます。来月のデビュー戦、楽しみに待たせていただきますね」
「今日はありがとうございました、我らが女神様。デビュー戦、貴方様に楽しんでいただけるよう、誠心誠意、己が務めを果たさせていただきます」
そうして女神は帰り、学園長も貴賓室を出ていく。
■■■■■
同時刻観客席。
「凄い戦いでしたネ。新入生同士の戦いとは思えないものでしタ」
「同感。最後なんて、まるで三年生やプロが戦っているようなものだとイチは感じた」
「……」
マリー、イチ、スズは観客席で並んで座り、ナルの決闘を見て、その勝利が確定すると盛大に喜んだ。
そして今、マリーとイチが興奮冷めやらぬと言った様子で決闘について語り合う中、スズは一人だけ何か考え込んでいる様子だった。
「スズ? どうかしましたカ?」
「ううん、なんでもない。ただ私だったら、どう戦っていたかなって」
そんなスズへマリーが声をかける。
それに対して、スズは笑みで返す。
「スズは実際の決闘を見てなお縁紅に勝てると思うの?」
「……。少し勝率は下がったと思うけど、やり合えば十回に八回くらいは勝てると思うかな。初見ならもっと高くなるかも」
「仮面体の機能確認もまだなのニ、大した自信ですネ。普通は良くても逆だと思いますヨ」
「ちょっとした秘策と言うか、相性の問題かな。でも、向こうの機能やスキル次第ではもっと厳しいかも。うん、私も頑張らないと。でないと……」
スズは両手を握り、決意する。
『置いていかれたくないのなら、離されたくないのなら、しっかりと掴まないと』
「またナル君に置いていかれちゃうから。絶対に逃がさないんだから……」
「「……」」
絶対にナルに追いつき、その隣に立つに相応しい存在になるのだと。
そうしてスズたちはナルが居るであろう控室へと向かった。