329:文化祭一日目・ボーゲンレーベVSフリーデリーケ三世 -前編
「いけぇっ!」
ボーゲンレーベの『パワーショット』がフリーデリーケ三世に迫る。
対するフリーデリーケ三世は両手で持った王笏の柄部分を矢に当てる事で防御を図った。
拮抗は一瞬。
「っ!?」
ボーゲンレーベの矢の威力に耐え切れなかったのか、フリーデリーケ三世の体は吹き飛ばされ、舞台の上を転がる。
だが、吹き飛ばされたおかげで矢の直撃は避けられたため、フリーデリーケ三世は大きな傷を負うことは無く、転倒の勢いがなくなったところでゆっくりと立ち上がる。
「攻守交替っと」
「宣言通りくま」
これでボーゲンレーベの攻撃は終わった。
そう判断したナルはルーレットを少しだけ動かして、フリーデリーケ三世が攻撃するターンになった事を示す。
同時にジャッジたちはお互いに視線を交わし、ボーゲンレーベの攻撃が宣言通りに行われたのかを判断。
誰も旗を上げないどころか、今回は腕を動かす事すらなかった。
「初手から強烈な一撃ぃ! さあ、フリーデリーケ三世はどう反撃するのか!?」
「……」
そんなナルとジャッジたちの動きを見届けたところで、照東がフリーデリーケ三世に動く事を促す。
促されたフリーデリーケ三世は少しだけ考え、王笏を両手で振ろうとするような姿勢を見せる。
「宣言、『貴方の矢を貴方にお返しする……わ!』」
「っ!?」
フリーデリーケ三世が宣言を終えると同時に王笏を全力で振る。
ただそれだけの動作で以って、先ほどボーゲンレーベが放ち、フリーデリーケ三世に防がれた後に舞台の上に転がっていたボーゲンレーベの矢が、横から見れば円盤のように見えるほどに激しく回転をしつつ、矢を射たボーゲンレーベ自身へと向かって行く。
それはまるで、フリーデリーケ三世の王笏の動きにシンクロしたかのような挙動であった。
だが、ボーゲンレーベは矢の一本を軌道上に構える事で、反旗を翻してきた矢を防ぎ、止め、弾く。
「念動力! 事前に聞いてはいましたが、これほどとは!」
「悪いけど。私には自分の手をペラペラと解説するつもりはないわ」
「強烈な反撃ぃ! 詳細不明なフリーデリーケ三世の攻撃でしたぁ!」
ボーゲンレーベとフリーデリーケ三世が舞台上で話をしている中。
ナルはルーレットを回し、ジャッジは宣言通りであったと動かない。
そして照東は場を盛り上げるように叫ぶ。
これにて一巡。
再び、ボーゲンレーベの攻撃の番となる。
「……。『ハイストレングス』。宣言、『両手の槍で突く!』」
ボーゲンレーベは弓を腰にセットして落ちないようにすると、スキル『ハイストレングス』で自身の筋力を強化しつつ、両手で矢を持ち、駆け出す。
彼女が手に持つ矢は槍のように大きく太く、射る以外の使い方も出来るからだ。
また、ボーゲンレーベは、遠距離攻撃では次に防がれた時、フリーデリーケ三世の能力で操られる矢の数が増え、反撃に対処できなくなる事も考えた。
これらの判断の結果、ボーゲンレーベは獅子の下半身で駆け、フリーデリーケ三世に向かって飛びかかりつつ、両手に持った槍を突き出す。
「『ロックウォール』!」
対するフリーデリーケ三世はスキル『ロックウォール』を発動。
王笏で示した地点の舞台の床から出現した岩の壁が二人の間に聳え立つ。
「この程度の物で!」
「っ!?」
だが強度不足だったのか、岩の壁はボーゲンレーベの飛び掛かりだけで破壊されてしまう。
そして、すぐさま突き出された槍は岩の壁でボーゲンレーベの視界が遮られている間に逃げようとしたフリーデリーケ三世の足を捉え、突き刺さり、その足をもぐ。
「くっ……」
「これで片足ですね。降参するなら認めますが?」
フリーデリーケ三世が再び転がる。
普段の決闘ならば、ここからボーゲンレーベの追撃が行われ、フリーデリーケ三世はトドメを刺されていた事だろう。
だが、今回は宣言決闘であるため、此処でボーゲンレーベの攻撃のターンは終わり、フリーデリーケ三世のターンになる。
「降参? 馬鹿言わないでもらえるかしら。この程度で諦めていたら、決闘者なんてやっていられないわ」
片足になったフリーデリーケ三世は立たずに、王笏を構える。
生気のない顔のままにフリーデリーケ三世は笑みを浮かべる。
「では、どうするつもりですか?」
ボーゲンレーベは両手に一本ずつ槍を持ち、フリーデリーケ三世自身と舞台上に転がる岩や矢を意識して、何をされてもいいように警戒する。
「こうするのよ。宣言、『右ストレートでぶっ飛ばす』」
「何を言って……」
フリーデリーケ三世が宣言する。
それはフリーデリーケ三世とボーゲンレーベの距離、フリーデリーケ三世の片足を失った状態、そう言ったものを考えれば、実現不可能な宣言であると、ボーゲンレーベには思えた。
だがそれでもボーゲンレーベは何かしらの方法でフリーデリーケ三世が殴りかかってくるのだろうと判断し、意識をフリーデリーケ三世にだけ向ける。
「るぐっ!?」
そして、その瞬間を狙ったかのように、ボーゲンレーベは獅子の下半身、その脇腹を殴られ、吹き飛ばされる。
ボーゲンレーベは反射的に殴られた箇所を見る。
そこには岩で出来た人形が立っていて、右腕を振り抜く姿勢で止まっていた。
「ぐっ……」
「なるほど。そう言うのも有りなのか」
「これはああぁぁっ!? なんと、フリーデリーケ三世! 念動力で岩を操り、人形を作成! その人形が右ストレートでボーゲンレーベをぶっ飛ばしたぁ!!」
「右ストレートには間違いないからセーフだくま」
ボーゲンレーベが鈍い痛みを感じつつ、ゆっくりと立ち上がる中で、ナルたちが動く。
攻撃のターンが移った事を示すべくナルがルーレットを回す。
照東が何が起きたのかを解説する。
熊白たちジャッジは一人だけ思わずと言った様子で旗を上げてしまったが、他の四人は上げず、熊白の言葉で問題が無かったと示す。
そうしてナルたちの動きが済んだところでボーゲンレーベは気づく。
「なるほど。念動力はカモフラージュ。どちらかと言えば……ゴーレム化と言った方が正しそうですね。条件はその王笏で触れる事ですか?」
「さっきも言ったけれど、私には自分の能力の解説をする気はないわ」
いつの間にかフリーデリーケ三世が片足のまま立ち上がっている。
だが、立っているにも関わらず、確かに切断されたはずの足からは血の一滴も零れてこない。
そこでボーゲンレーベは思い出す。
フリーデリーケ三世が所属するサークル『パンキッシュクリエイト』のメンバーの仮面体はいずれもアンデッドと呼ばれるような者であったことを。
つまり、フリーデリーケ三世の仮面体の血色の悪さはフリではなく元からであり、フリーデリーケ三世もまた何かしらのアンデッドモチーフの仮面体だったのだろうと。
「でもそうね。降参するなら認めてあげるわ」
フリーデリーケ三世の前に岩でできた人形が立ち、ファイティングポーズを取る。
「冗談と皮肉がお上手ですね。もちろん、断らせてもらいます」
対するボーゲンレーベは再び弓を手に取り、矢をつがえた。
「宣言……」
そしてボーゲンレーベの宣言が始まった。