328:文化祭一日目・ボーゲンレーベVSフリーデリーケ三世 -決闘前
「まずは東より……ボーゲンレーベ!」
照東によって仮面体の名前を呼ばれた獅子鷲がスポットライトに照らされて姿を現す。
そして、素早く舞台まで駆け上がると、腰に手を当てて、堂々と立つ。
その素早い動きと堂々とした振る舞いは、獅子鷲の実力と自信のほどを示しているようだった。
「続けて西より……『パンキッシュクリエイト』所属、フリーデリーケ三世!」
同様に仮面体の名前を呼ばれた風鈴が姿を現す。
その動きは獅子鷲と対照的にゆっくりとしたものであったが、堂々とした様子については同様。
風鈴は棘とドクロで装飾された王冠を揺らしながら舞台の上にまで移動すると、軽く腰を逸らして、自らの存在感をアピールする。
「わざわざ自分の所属サークルを表明するんですね。宣伝ですか?」
「宣伝よ。『パンキッシュクリエイト』は作り出している物の質に反して人数が少なすぎる。こういう場所で存在をアピールしておかないと、私のようにサークルに合っているけれど知らないから入らなかった人を増やしてしまう。そんなの勿体ないでしょ?」
「確かに。でも、そう言う事なら気を付けてくださいね。勝ち負けはともかく、簡単に終わってしまったら、見る人の印象に残らないでしょうから」
「それは私の台詞よ。お願いだから、一撃でノックアウトなんて、情けない振る舞いはしないで頂戴」
獅子鷲と風鈴の仲は別に悪くない。
と言うより、同じ戌亥寮の一年以外に接点がない二人であり、お互いの事は殆ど知らず、決闘で戦うのも今日が初めてであり、仲を語れるような関係性がそもそもない。
だからこそ、二人ともに相手の最新情報を少しでも得るために、煽りのような探りを入れていく。
そして共に理解する。
相手は自身の一撃に自信があって、油断をすればあっという間に決闘が終わってしまいかねない、と。
「おーと、早速ヒートアップしています! で す が、今回は宣言決闘です。なので、決闘開始の宣言前にまずはどちらが先手を取るかを決定するルーレットが回されます! では、ナルキッソス!」
「ああ、任せておけ。ルーレット……スタート!」
そんな二人の睨み合いで場が緊張していく中、照東の合図に従ってナルキッソスがルーレットを回す。
一気に加速された針はしばらく回り続け、やがて減速し、停止。
針が指し示した先にあった文字は……東。
つまり、ボーゲンレーベが先手を取る事となった。
「私が先手ですね」
「ふうん。そうなの……」
実質的にこの時点で既に決闘は始まっていると言ってよかった。
獅子鷲も風鈴も、自分がどう動くかを、相手がどう動くかを、どう攻撃するのか、どう凌ぐかを素早く思考していく。
そして特に重要な事として……自分の行動をどういう言葉で宣言するかを深く考えていく。
勿論、二人ともに自分が宣言決闘に決闘者として参加すると決まった時点で、幾つかのパターンや固定文は考えてきている。
相手の情報も集められる範囲で集めてはいる。
だが、相手と対面して、最新の情報を得て、自分たちの事前想定がそのまま使えるかどうかも含めて、改めて考える事は必須であり、二人は限られた時間を使って、必要な修正を頭の中へかけていく。
『右ストレートでぶっ飛ばす』と宣言したならば、右ストレートでぶっ飛ばさなければいけない。
そんな繊細さの欠片もないような説明とは裏腹に、宣言決闘へ実際に臨む者は、決闘の前から頭を非常によく使わされていた。
それは文化祭の名に恥じない光景とも言えた。
「それでは決闘を始めてまいりましょう! 3……2……1……」
「「……」」
カウントダウンが始まる。
獅子鷲も風鈴も自身のデバイスに手を当てて、構えを取る。
「0!」
決闘が始まる。
「マスカレイド発動! 射貫け、ボーゲンレーベ!」
マスカレイド発動と共に獅子鷲の体が大量の羽根に包まれ、膨れ上がる。
吹き飛ばされた無数の羽根の中から現れたのは、人の上半身と獅子の首から下を下半身として持つ、半人半獅子、異形にして大柄な仮面体。
右手と腰には槍のような見た目の大きな矢を持ち、左手にはそれをつがえられるだけの巨大な弓を持つ。
顔は覆面で隠され、他に革製の防具に獅子の部分含めて体の各部に付けていて、必要な防御力を確保している。
そうして、変身を完了したボーゲンレーベは、直ぐに弓に矢をつがえて引き始めた。
「マスカレイド発動! 君臨せよ、フリーデリーケ三世!」
風鈴もマスカレイドを発動して、その体を地面から噴き出した黒い霧のようなもので隠す。
やがて薄れていく霧の中から、人影が現れる。
頭に被るのはマスカレイド発動前と同じデザインの王冠。
手にしているのは立派な装飾を施され、王笏と呼ばれるに相応しいデザインの杖。
だが、その肌は病的なほどに白く、額に貼られた札の下に覗く顔は何処か虚ろな物。
そうして、変身を完了したフリーデリーケ三世は、直ぐに杖を両手で構えて、防御の姿勢を取る。
「宣言! 『私は相手を射る』! 『パワーショット』!」
ボーゲンレーベは自分の攻撃内容を宣言すると共にスキル『パワーショット』を発動。
魔力によって威力と推進速度の向上を受けた矢がフリーデリーケ三世に向かって放たれる。
それが宣言決闘の開幕を告げる鏑矢となった。
10/16誤字訂正