325:文化祭一日目・ショット&シュート
「翠川たちか。遊んで行くか?」
「そうだな。ワンゲーム頼む」
俺たちがやってきたのは射撃サークルと弓道サークルが合同で運営している的当てゲームの大型ブースである。
出迎えてくれたのは、この時間の担当者であるらしい縁紅だった。
「ゲームのルールは単純。こっちが準備したおもちゃの銃かおもちゃの弓を使って的を倒し、その点数に応じて景品が貰えるって奴だ。ちなみにワンゲーム三発までな」
「なるほど。分かり易いな」
お祭りの屋台とかでもありそうなゲームだな、と俺は思いつつも、縁紅が指さす先の的を見る。
数メートル先にある棚の上には的が幾つも並んでいて、的には点数が書かれている。
点数は1点、3点、5点、10点とあって、的ごとに大きさなどが違うし、たぶんだが重心の調整もされているな。
そして貰える商品は、1点だと駄菓子、3点だと少量のジュースとあって、最高得点となる30点だと……見るからに高価そうな、取られれば赤字確定なアクセサリーになっている。
つまり、30点を取らせる気はない、と。
「ま、ジュースが取れればいい所って感じか」
「よく分かってるじゃねえか。その通りだ」
ではゲームスタート。
俺はおもちゃの銃を選ぶ。
そして俺と同時に、スズ、イチ、マリーの三人も横に並んでスタートする。
で、巴は所属が弓道サークルで、あちらの身内だからだろうか、ゲームに参加せず俺の隣に立っている。
「よく狙って……」
「あー……」
「……」
俺は片手で銃を持ち、片目を閉じて、腕を伸ばすことで出来るだけ銃口と目標の距離を縮めて……撃つ。
「外れたか」
「ま、そう言うものだ」
そうして普通に弾は逸れて、的が無い場所を通り抜けていった。
その後の二発も狙ったところには飛ばず、それでも弾が掠った的は倒れてくれて、合計はなんとか2点。
駄菓子2個で終わりとなった。
「当たり前の話ですが、ナル様は銃の撃ち方を知らないのですね」
「撃ち方?」
終わったところで巴が声をかけてくる。
しかし、銃の撃ち方か。
確かに俺は知らないな。
銃が規制されている日本人なら、その方が普通なのだろうけど。
「理想はマリーがしているやり方ですね」
「あ、あー……」
俺は巴の言葉に従ってマリーの方を見る。
そこにはおもちゃの銃を構えるマリーが立っているわけだが……。
マリーはライフル型のおもちゃの銃のストックを肩に当てて安定させ、両目をしっかりと開き、足も程よく開いているように見える。
詳しい事は分からないが、少なくとも俺とは比べ物にならないくらいに様になっているのは確かだ。
そして、その見た目は伊達でも何でもないようで、今放たれた三発目のコルク弾でもって、5点の的を倒し、合計で15点を獲得したようだ。
うーん、俺とはレベルが違う。
「流石ですマリー」
「ふふン。流石に銃の扱いでは負けられませんからネ」
イチがマリーの事を褒めている。
なお、そう言うイチも、銃の方を使って、ちゃんと合計で8点獲得している。
うん、イチもまた、俺とはレベルが違うな。
「うーん、全然駄目だったね。ちゃんと前には飛んでくれたんだけどなぁ」
「ま、そう言うものだ」
最後にスズだが、弓の方を使ったものの、一発も的に命中しなかったようだ。
どうやら真っすぐに飛ばなかったらしい。
「ちなみに、弓側に原因が無いのは簡単に証明できる。護国」
「そうですね。では、デモンストレーションと言う事で」
と、いつの間にか集まっていた観客たちに聞かせるように、縁紅が巴を呼び寄せる。
そして巴はスズが使っていたおもちゃの弓を手に取ると、弓に先が吸盤になった矢をつがえる。
「すぅ……疾っ!」
巴が続けざまに三本の矢を放っていく。
どの矢も的に命中する事は当然として、俺が見た限りでは真っすぐに飛んでいるように見える。
だが、最も重要なのは……。
取った点数が、5点、5点、10点の、合計20点であると言う部分。
つまり、今この場でやった俺たち五人の中で最高の得点を巴はあっさり獲得したのだった。
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
「おー……流石は巴」
「ふふっ、ありがとうございます。ナル様」
観客が思わず声を上げ、俺も巴を褒め称える。
それを受けてか、巴は嬉しそうに微笑む。
「そういう訳でだ。難易度が高い事は否定しないが、ズルやイカサマは無しの射的場。腕に覚えのある奴は挑戦していってくれ!」
「そして商魂逞しいな縁紅」
「おいおい翠川。折角、良い感じに客を引いてくれたんだから、それに乗らない理由なんてないだろ?」
と言うわけで、俺たちのゲームは終了。
俺たちは商品を交換して、ブースを後にする。
「はい。巴とスズにはこれな」
「ナル様? これはいったい……」
「ナル君。いいの?」
で、少し離れたところで、俺は巴とスズに自分の獲得商品である駄菓子を一つずつ渡す。
「巴はデモンストレーションで素晴らしい技を見せてくれたから。アレで何も無しってのもどうかと思ってな。本当はもっと別に何か贈るべきなんだろうけど……まあそれは、この先のブース巡りで何かを見つけたらだな」
「ナル様……ありがとうございます」
「スズの方は……まあ、残念賞って事で」
「うん、ありがとうね。ナル君」
うん、二人とも喜んでもらえたようで何よりだ。
「ナル、それならマリーも何か欲しいですヨ。巴のデモンストレーション抜きなラ、マリーが一番だったわけですシ」
「分かってる、分かってる。イチも何か欲しいか?」
「いえ、イチは特には……」
「そうか? 別に遠慮しなくていいぞ」
そうだな、この流れならマリーにも何か渡すべきだろう。
それはイチも同様だ。
「と、この辺りは服飾サークルのブースみたいだな。じゃあ、折角だからここで探してみるか」
「オー、嬉しいでス!」
「では、何を選びましょうか……」
「……。閃いたかも」
「スズ? 何を考えたのですか?」
こんな会話をしつつ俺たちがやってきたのは服飾サークルのブースだった。
どうやら服飾サークルが作った服から、ハンカチやリボンと言った小物に、手作りのボタンやフェルトパッチと言った服に付けるもの、それから布の端切れと言ったものまで、服に関係するものをまとめてお出ししているようだ。
それからしばらく、十分な時間をかけて、俺たちは服飾サークルの商品を見て回り、マリーたちに一人一つずつ気に入った品を買ってプレゼントしたのだった。
なお、この後のアレで使ってと言いながら、マリーたちからもプレゼントを渡された。
いやうん、使うけども。
折角貰ったからには使うけどもな……まあ、立ち回りに気を付ければ大丈夫か。
余談ですが。
例年の射撃サークルと弓道サークルは飲食店を出しています。
が、時には飲食店以外もやりたいよね勢力が力を伸ばしたため、今年は別の出し物になっています。
たぶん、来年には戻ってる。
後、巴は寮の出し物優先で、文化祭中のサークルの手伝いは免除されています。
サークルメンバーの人数が多いからこそですね。