32:決闘進行 VS縁紅慶雄
本日は四話更新となっております。ご注意ください。
こちらは二話目です。
「そんな……そんな馬鹿な事があって堪るかぁ!!」
縁紅の叫びと共に、再びリボルバーから黄金色の弾丸が六発放たれる。
「ふんっ」
そして放たれた弾丸はナルの盾に命中して、今度は小さなヒビしか入らず、そのヒビもまた直ぐに消え去った。
「!?」
「……」
この時点で縁紅も観客も理解させられる。
縁紅のリボルバーでナルの盾を破るためには、最低でも七発以上の弾丸が必要となる。
しかし、縁紅のリボルバーには六発までしか弾丸が装填できず、リロードをしている間に盾は直ってしまう。
つまり、縁紅のリボルバーでは、真正面からナルの盾を撃ち破る事は不可能である。
そんな無慈悲な現実を。
が、本当に残酷な真実はそこではない。
「ついでに少し言っておく。俺はお前と違って燃費がいいからな。こうしてただ立っているだけなら、魔力はむしろ回復していくぞ。盾の修理についても、そこまで消費はしない。さて、それに対してお前はどうなんだろうな? 立っているだけでも、撃つだけでも、魔力は削れていく。絶対量からして俺の方が多いのに、な」
通常のマスカレイドでは、仮面体を維持するのに消費する魔力と自然回復する魔力では、消費の方が勝つようになっていて、ただ立っているだけでも維持できる時間は減っていく。
縁紅のリボルバーの弾丸のように、魔力で作られた何かを射出するならなおの事。
これはマスカレイドにおける常識の一つと言っても過言ではない。
だが、ナルにその常識は適用されない。
素の仮面体が裸と言う究極の簡素さで、盾と服を持ってもなお仮面体としては極めて軽装、それでいて燃費を向上させる魔力性質と圧倒的な魔力量に基づく魔力精製量。
これらの要因が組み合わさる事によって、魔力の消費と回復の関係性は逆転し、待機しているだけならむしろ回復すると言う異常にして残酷な存在。
それがナルである。
「「「!?」」」
「なっ!?」
この事実に縁紅は動揺を隠せなかった。
時間が経てば経つほどに自分だけが一方的に不利になっていく事が確定したからだ。
「だったら、先に弾丸をぶち込んでぶち殺すだけだ!」
だが、ナルの宣告は縁紅に踏ん切りをつけさせるものにもなった。
時間切れで勝てないことが確定した以上、勝つためには攻めるしかない、それは単純ながらも正しい答えだからだ。
「オラアッ!」
「ま、そう来るよな」
縁紅はナルに向かって駆けつつ、リボルバーを連射する。
そして、ある程度近寄ったところで、リロードを挟みつつ、左右に跳んで、あるいは左右の手でリボルバーを受け渡して、盾の陰に潜むナルの体へと弾丸を当てようとする。
距離を詰めた方がフェイントも効くからと、少しずつ近づいても行く。
対するナルは縁紅の動きに合わせて盾を動かすだけでなく、時には自分の体の方を動かして、縁紅の弾丸を凌いでいく。
必ず盾を挟んで動くようにする動きは、まるで踊っているようでもあった。
そうして動きつつ……縁紅に気づかれないようにナルはほんの少しだけ距離を詰める。
「この距離なら……」
縁紅がナルの真横を完全に取る。
「俺の蹴りも届くな」
「っ!?」
直後、ナルの全力の蹴り……トゥーキックが縁紅の腹に突き刺さる。
観客席にまで弾けるような音が響く。
縁紅の体が吹き飛ばされ、苦し紛れの射撃は見当違いの方向へと放たれていく。
縁紅の体が舞台の上を転がっていき……。
「……」
「ははっ、はははははっ!」
縁紅の笑い声が響くと共に、ナルの顔が苦々しいものになる。
「これは! 今度は明確な欠点だな! 翠川ぁ! 笑えて来るぐらいに軽い蹴りだったぞ! その程度だったら、仮面体じゃない方がまだ威力が出るんじゃないか!?」
「はぁ、攻撃力不足はやっぱり俺の課題だな」
縁紅はダメージなどない様子で立ち上がってしまう。
そう、これはナルの仮面体の明確な欠点だった。
理由は定かではないが、ナルの攻撃能力は低かった。
それこそ、相手を蹴飛ばし、殴り飛ばし、距離を取らせることは出来ても、ダメージについては碌に与える事も出来ない程度には。
つま先に硬質の芯が入っているブーツを再現してなおこれなのだから、攻撃力不足は紛れもなくナルの欠点だった。
「とは言えだ。縁紅、それの何が問題なんだ? 俺はお前にマトモなダメージを通せない。お前も俺にダメージを通せない。となれば泥仕合になる事は確定だが、そうなった時に負けるのはお前だぞ?」
「っ!? 言われなくても分かっているんだよ、露出狂」
とは言え、それが問題になる状況でない事もまた確かだった。
だからナルは冷静に盾を構えて、少しずつ縁紅へと近づいていく。
対する縁紅は出来るだけ距離を保ちつつも、どうすればナルの守りを突破できるかを考える。
「さて、蹴るのがダメなら、これはどうだ!」
「っ!?」
果たして、先に動き出したのはナルだった。
盾を構え、その陰に体を隠したまま、突進を敢行……シールドチャージと言われるような攻撃を仕掛ける。
既に距離が詰まっていたために縁紅はナルの突進を避け切れず、半端な形で受けて吹き飛ばされる。
「ぐっ……」
「こっちなら多少は効くみたいだな」
吹き飛ばされた縁紅が舞台の上を転がる。
先ほどの蹴りと違って、明確なダメージを縁紅は受けており、立ち上がるのに少し時間がかかっていた。
だから、追撃を仕掛けようと、ナルは再びシールドチャージを行う。
「舐めるなぁ!」
そこへ苦し紛れに、少しでも足を遅らせようと、倒れた縁紅がリボルバーを発射する。
放たれた弾丸は舞台の床を舐めるように飛んで行き……。
「っ!?」
「やっ……」
盾と床の隙間をすり抜けて、次の一歩の為に床を蹴ろうとしていたナルのつま先へと突き刺さる。
「悪いな縁紅」
そして、ナルに一歩分だけたたらを踏ませて、弾丸はあっけなく弾けた。
「は?」
「俺の体は現状だと盾よりも頑丈だ」
「ーーー!?」
盾を横に構え、自分の身も屈め、俗に低空タックルと呼ばれるような姿勢で以って、真正面からマトモにナルと縁紅が衝突する。
会場中に衝突音が響き渡って、縁紅の体が勢いよく吹き飛ばされて、そのまま舞台の周囲を覆う結界に衝突して、更なる音を奏でる。
「ぐっ……がっ……」
縁紅の体が床までずり落ち、跪く。
その姿は誰の目から見ても瀕死と言っていい状況であり、マスカレイドに仮面体がどれだけ傷ついても本来の体には影響を与えないと言う特性が無ければ、今すぐにでも決闘の終了が告げられていた事だろう。
「……」
そして普通ならばトドメを刺しに行くこの状況。
ナルは敢えて動かず、盾を構えるに留めていた。
それは、決闘前に聞いた、女神はどちらにも勝てる可能性があるからこそ決闘を認めた、と言う言葉を思い出していたからだ。
この状況からでもまだ何かあるのかもしれない。
そう判断したナルは、油断なく盾を構え続けていた。
そして、その判断は正しかった。
「な、舐めるな……俺は強い、強い! 強い!! 俺は選ばれた存在なんだ! 魔力と言う女神からの授かりものを扱う天賦の才を授かった! その才を生かせるだけの努力もしてきた! それなのにお前のような魔力量だけのクソッタレが俺よりも認められる事なんてあってはならないんだよ!!」
「奥の手ってところか」
縁紅の体から黒い魔力が迸る。
それはまるでナルへの嫉妬を煮詰めたかのような魔力であり、此処ではない何処かからか無理やりに引きずり出したかのような得体の知れない力。
「ぶっ殺してやる! その小綺麗な顔をグチャグチャにしてやる! お前の未来なんて断ってやる! 俺は……俺は俺こそが最強である事を! 最も優れた存在である事を証明して、英雄に至ってやる! この弾丸はその階だ! 先駆けだ! ありったけを込めて……ぶち抜いてやる!!」
「いいだろう、それなら……」
黒い魔力は弾丸となって、リボルバーへと装填される。
縁紅のリボルバーはナルの額に向かって真っすぐに向けられ、引き金が絞られていく。
「真正面から受けてやる。だから、しっかりと狙え。此処で外されたら興冷めも良いところだ」
それを見たナルは本当に真正面から、堂々と盾を構え、全身に魔力を漲らせると、両目で縁紅のリボルバーを見据える。
「この期に及んで……ふざけんじゃねぇ!!」
縁紅のリボルバーの引き金が引かれ、撃鉄が振り下ろされ、これまでにない爆発と共に漆黒の弾丸が放たれる。
放たれた弾丸は目にもとまらぬ速さで舞台の上を飛び抜けていき、ナルの盾へと真正面から衝突する。
衝突した弾丸は込められた螺旋回転と共に突き進むと、大幅な速度低下と引き換えに盾を破砕して、更に直進する。
ナルはその光景をしっかりと両目で見ていた。
此処で咄嗟に自分が頭を動かせば、避ける事も叶うだろうと直感もしていた。
それを理解した上で……目を見開いて、額の正面で弾丸を受ける。
「「「……」」」
会場にようやく発砲音が響く。
「はぁはぁはぁ……あ、ぐ、体が……動かねぇ……」
縁紅は息も絶え絶えと言った様子で、その場で崩れ落ち、手からリボルバーが零れ落ちる。
「……」
そしてナルは……。
「いい一発だったが、俺の額の方が硬かったみたいだな」
額から血を流しつつも立っていた。
「さて……」
ナルはしっかりとした足取りで踏み出す。
「今更だが言っておくぞ」
額の傷口から零れ落ちた漆黒の弾丸を右手の内に収めつつ、倒れた縁紅へと堂々と近づいていく。
「俺の事を露出狂だの、馬鹿だの、魔力量だけだのと呼ぶのは別に構わない。はっきり言って、それはただの事実だからな。怒る事の方が馬鹿らしいぐらいだ」
そうして縁紅の前に立ち、既に傷が無くなった顔で見下ろす。
「……」
「だがな。真っ当な努力をしてきて、学園に入って来たスズたちを馬鹿にして、排除しようなんて動きを許す気は俺にはない。俺は俺の周りにいる連中への不条理を許す気はない」
ナルは縁紅の首元を左手で掴むと、そのまま持ち上げる。
同時に、まるでナルの魔力に耐えきれなかったかのように服が弾け飛び、右手の周囲が集まった魔力によって揺らぐ。
「歯を食いしばれ。性根を叩き直す一発だ」
「!?」
ナルの拳が縁紅の顔面へと突き刺さり、その衝撃で縁紅の仮面体が砕け散る。
そしてそのまま縁紅の体は場外へと吹き飛ばされ、意識を失った縁紅の体は完全に崩れ落ちた。
「決着っ! 勝者!! 翠川鳴輝!!」
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
次の瞬間、ナルの勝利を告げる言葉が響き渡り、会場は歓声で満たされた。
なお、今現在のナルはブーツだけ履いた状態である。




