319:身内会わせ
「そうダ。話の流れなので言ってしまいますネ。マリーのママも文化祭に来ますヨ」
「お、そうなんだな」
巴の父親が文化祭に来ると言う話から引き続いて、マリーの母親も文化祭に来ると言う話が出て来た。
「そうなると案内とかが……」
「必要ないみたいでス。マリーに会いに来るわけではなク、シンプルに文化祭を見て回りたいだけだそうですかラ。校内でばったり会ったら案内しまス。くらいでちょうどいいそうですヨ」
「そうなのか」
ただ、案内の類は必要ないらしい。
純粋に観光目的と言う事だろうか。
いやでも、マリーなら自分の予定くらいは伝えているだろうし、校内でばったりと言うのも、事前に打ち合わせた通りにばったり、と言う事になりそうな気がするな。
まあ、マリーの母親なら、無茶な事を言いだすとも思えないし、その時の空気や流れに任せればいいか。
「ちなみにマリーの父親は?」
「電話口ではお仕事が忙しくて来れないと嘆いていましたネ」
「そうなのか」
マリーの父親は来ないらしい。
仕事は重要だから、仕方が無いな。
「じゃ、話の流れで聞くが、イチの方はどうなんだ?」
「イチの両親も一族も来ると言う話は聞いていません。しかし、職分からして、イチに知らせずに来て、仕事をしているかもしれません」
「なるほど」
イチの家は不明。
でも、諜報員と言う仕事を考えたら、連絡なしに来ていてもおかしくはない、と。
うーん、顔を合わせても、向こうから何かを言ってこない限りは気にしない方針で行くべきなのかな?
仕事の内容によっては、声を掛けられても迷惑だろうしな。
「……。そうですね。念のために言っておきます。もしも、この場に居る誰かと顔合わせをしたいと言う話をしてきたならば、最低でもイチへと先に話を通し、仲介を頼むはずです。なので、イチを通さずに話が来た時は断ってください。叔父さんの手の者の可能性があります」
「分かった」
「覚えておくね」
「分かりました」
「了解でス」
ああ、そう言う危険があり得るのか。
これは覚えておいた方が良いな。
イチの叔父さんの手の者って要するに、ペインテイルの上役である尾狩参竜の手の者って事だろう?
主義主張やこれまでを考えたら、イチを介さない顔合わせには臨まない方が絶対に良い。
「で、最後にスズの両親なんだが……」
「二人とも来ると言ってたよ。あ、ナル君の両親も一緒だって。四人一緒に文化祭二日目を巡るんだってさ」
「あ、はい」
うん、当然のように俺の両親の情報もスズに行っているな。
まあ、親同士の付き合いがあるからこそ、俺とスズも幼馴染になったわけだし、俺の両親も俺に連絡するよりスズに連絡した方が色々と都合がいいのは知っているからなぁ。
こういう連絡の形になるのは当然だな。
「案内とかは?」
「好きに回るから不要だって。でもナル君が何時何処で何をするのかは教えて欲しいそうだから、教えておいたよ」
「そうか」
ま、父さんと母さんに、スズの両親も一緒なら、放っておいても大丈夫だろう。
問題は……戌亥寮の宣言決闘でやる俺のバニーガール姿を見られる事か。
思えばこれまでに俺のマスカレイドや決闘についての感想とか、一切聞いてないんだよな。
微妙に怖く思うが……。
まあ、何とかなるか。
恥じるようなことはしていないし、俺の美貌に陰りなんてないのだから。
「ナルさんの両親……」
「ナルのパパママですカ……」
「ナル様のご両親……」
ところで、俺の両親が来ると言う話を聞いた途端にイチ、マリー、巴の三人が真剣な表情で何かを悩み始めたんだが……なんだろう、怖さと言うか、不安感と言うか、そう言う負の方向の何かは、こちらの方がよほどあるように思えて来た。
大丈夫なのだろうか?
「コホン。とりあえず各自の家族周りの話はこんな所か」
「そうだね。巴のお父さんだけは時間を考えないといけないけれど……」
「正確な時間はまだ決まっていません。護国家の当主だけあって、忙しくはあるので。文化祭に来るのも、複数の用事を果たすためのようですし」
「そっか。じゃあ、その辺は向こうの予定が決まってからだね」
巴の父親は複数の用事があって文化祭に来る、か。
確かに複数ありそうではあるよな。
来年入学してくる少女の下見に、俺との顔合わせも、こなしたい用事ではあるのだろうけど、その二つだけの為に学園まで出向いてくるのは勿体ないだろうし。
でも実際に何をやるのかと考えたら……。
他の有力な決闘者の家と疑われずに会うとかありそうだな。
考えてみれば、文化祭と言う場はそう言うのをやりやすい気がする。
あるいは、文化祭では個人で魔力やマスカレイドに関係する研究の発表をする人も居ると聞いているし、その辺りで何かあるのかも。
純粋に研究を聞いてもいいし、期待が持てるのならスポンサーになってもいいだろう。
これもまた、決闘で有名な家の当主に相応しい仕事ではなかろうか。
「お、ちょうどいいところに居たな、翠川。少し話がある」
「引っ張るな。転ぶだろうが」
「麻留田先輩? 燃詩先輩?」
そんな事を考えていたからだろうか。
気が付けば、俺たちの近くに麻留田先輩と燃詩先輩がやって来ていた。
そして、話があるのは燃詩先輩の方らしく、麻留田先輩は燃詩先輩を前に出すと、後ろで静かに腕を組んでいる。
はて、何の話だろうか?
「あー、翠川。貴様は文化祭三日目のラストは空いているか?」
「そこならまあ、空いていますが」
燃詩先輩の言葉に、一応スズと目配せをして大丈夫かを確認してから頷く。
「そうか。では吾輩から貴様に依頼を出す。そこで吾輩の研究発表をするから、実演係として来てもらいたい。あー、詳細は申し訳ないが、当日まで出せない。ただ、決闘の準備はしておいて欲しい」
「なるほど……。分かりました。お受けします」
「いいのか?」
「燃詩先輩には日頃からお世話になっていますから」
「そうか。では、当日時間になったら、メインステージの方に来て欲しい」
「分かりました」
どうやら、燃詩先輩は決闘関係の何かで研究発表をするらしい。
俺に求められているのはサンドバッグか、特殊な魔力性質を生かしたものか……いずれにせよ、燃詩先輩にはスキル『ドレスパワー』の製作から解析までお世話になりっぱなしだからな。
それを考えたら、拒否する理由など何処にもないだろう。
「うーん、意外と予定が埋まって来たな」
「そうだね。でも、ちょうどいいんじゃない?」
「ですネ。自由時間もありますシ、これくらいでいいんじゃないですカ?」
「……」
「むむむ……」
こうして俺の文化祭は順調に予定が増えていくのだった。
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