318:予定合わせ
「ナル様。お隣よろしいでしょうか」
「構わないぞ、巴」
文化祭の為の顔合わせをした翌日。
スズたちと一緒に食堂で昼食を取っていると、巴がやって来た。
どうやら何か話があるようだ。
「その……ナル様の文化祭の予定はどうなっているでしょうか?」
「そうだな……今のところはこんな感じだな」
とりあえず文化祭の予定を聞かれたので、現状どうなっているかをスズとも確認しつつ、巴に見せる。
俺の予定を確認した巴は一瞬嬉しそうな顔をして……それから、とある時間を指さす。
「実は文化祭二日目の大ホールで、私は演武をお見せする予定があります。そ、その……見に来ていただけませんか!?」
うん、予想通りと言うか、予定通りだったな。
そこでなくとも、虎卯寮が大ホールで出し物をする時間については、巴が出てくる可能性を考えて、予め空けておいたので、俺のこの後の答えは決まっている。
だがここで重要なのは、裏側で実はそうなっていたのを一瞬たりとも疑わせない事。
だって巴が勇気を振り絞り、覚悟を以って、俺に尋ねて来た事実は何ら変わりないのだから。
俺に求められているのは、その行動に相応しい態度と答えであって、知ってたなどと言ってマウントを取る事ではない。
なので俺はこの辺の感情は隠しきった上で、口を開く。
「勿論。喜んで、見に行かせてもらうとも」
「ナル様……」
うん、喜んでもらえたようで何よりだ。
実際、楽しみではあるんだよな。
聞くところによれば、マスカレイドを用いた演武であるらしいので、仮面体の機能とスキルをフル活用するらしく、演武だからこそ出来る見せ場もあるとかで、見ていて楽しそうな予感がしているのだ。
「ところでナル様。ナル様は戌亥寮の出し物で何をするのでしょうか? 見たところ三日間、常に出る事になっているようなのですが」
「あー……ルーレット係をやる事になった。宣言決闘の奴な」
「ルーレット係……」
巴の視線がスズに向かう。
対するスズは笑顔で親指を上げている。
それを受けた巴は……何かを察したかのように、嬉しそうな顔で親指を上げた。
「二人の仲が良くてナニヨリダナー」
「そうですね」
「これを仲が良いで済ませていいんですかネ?」
巴とスズの間には言葉のやり取りは何もなかった。
スマホなどを操作した様子も見られない。
だが、通じ合いはしたようだ。
でもそうか、巴は俺のバニーガールを望む側なんだな……。
なお、イチとマリーは若干呆れ気味である。
「それでスズ。具体的なところは?」
「あ、うん。こんな所。当日まで漏らさないでね」
「勿論です」
と思っていたが、流石に細部まで伝わっていなかったらしい。
巴にだけ見えるように、スズがスマホの画面を見せて、あれやこれやと言っていて……なんか巴の顔が微妙に赤くなりつつあるな。
「流石に全部が伝わっている訳じゃなかったのか」
「みたいですネ」
「でも、同じ穴の狢、と言う熟語は思い浮かびます」
そうして最終的にはスズと巴はガッチリと握手を交わしていた。
まあ、仲が良いことに変わりはないから、問題は無いな。
「コホン。ところで巴、他に文化祭の最中に一緒に回りたい場所があるとか、そう言う話はあるか? 今ならそう言う話があっても、戌亥寮の出し物がある場所でなければ、予定の調整も出来るはずだから、教えて貰えれば付き合えるけど……」
さて、巴の話はまだあるのだろうか?
そう思って俺は巴に質問したのだけど……今度は微妙そうな顔をしているな。
いったいどうしたのだろうか。
「実はその、三日目にほぼ妹のような子と父が文化祭に来ることになっていて、そこでナル様と会いたいと言っています」
「ほぼ妹?」
巴の父親が来るのは分かる。
文化祭の二日目と三日目は一般開放されているし、娘である巴が居るのだから、来るのは自然な事だ。
親子間の仲は微妙かもしれないが。
それよりも気になるのは、ほぼ妹と言う、普通なら使わないような語句が使われた事だ。
どういう意味だろうか?
「その……父の妾の一人である女性と、母と親しい付き合いがある男性。その間の子で、幼少期から護国家内で育てられ、実質的に護国家の一員のように育っている子です。私も妹のように可愛がっていて、悪い子ではないのですけれど……」
「ああ……」
「護国家はそう言う事をしているからね……」
「彼女の事ですカ……」
「外から見るとどうしてもという奴ですね……」
なるほど、それは確かに、ほぼ妹、などと言う微妙な表現になってしまう。
血縁的には間違いなく他人であるし、法律上も他人であるのだろうけど、付き合い的には家族って奴か……。
巴が言い淀むのも分からなくはない。
俺としてもどう反応すればいいのか、ちょっと分からないな。
と言うか、護国家の内部事情が色々な意味で恐い事になっている気がする。
「ちなみにあの子は今年15歳になって、魔力量も甲判定なので、来年には確実に決闘学園に来ます。文化祭でやってくるのは、下見も兼ねての事かと」
「あーうん、それなら一緒に来るのは当然以外の何物でもないな」
そして、俺たちの後輩になる事が既に確定している相手でもあるらしい。
「それでその、ナル様どうしましょうか? ナル様が会いたくないと言うのなら、断りを入れて、それで終わりですが」
「うーん……いや、会おう。どうなるかは分からないけれど、巴の家族だって言うなら、一度は会うべきだ」
「ナル様……。ありがとうございます。あ、もしも当日、父が馬鹿な事を言った時には殴ってしまって構いませんから。今ここで先に言っておきます」
「あ、うん。分かった」
うん、とりあえず会いはしよう。
用件は分からないが、何かあったら、その時はその時で、巴と協力すれば何とかなるだろう。




