316:文化祭までにやるべき事
「あー……つまりだ。俺がと言うか、俺たちが文化祭前にやるべき事は案外少ない。だから、この期間にやるべき事を持たせるためにって事なのか?」
「うん、そう言う事になるね」
戌亥寮全体ミーティングは無事に終わった。
宣言決闘の参加者も、審判や司会と言った役職者も、トントン拍子で決まっていき、俺がバニーガール姿の仮面体でルーレット役を務める以外の疑問点は無く、終わってしまったのだった。
で、今はサークル『ナルキッソスクラブ』に移動して、俺がスズたちに色々と質問をし、文化祭についての疑問を解消させてもらっているところである。
「『ナルキッソスクラブ』は本を出版するだけですからネ。教師陣の事前監査ももう終わってますシ」
「何処のサークルと共同で行うかも既に決めてあります。後ほど顔合わせは必要ですが、それだけです」
まず今日から文化祭が始まるまでにやるべき事。
準備が終わっていないサークルだと、今から最後の追い込みが始まったりするのだが、俺たちは既に写真集を完成させて印刷を頼んでいる状態であるため、特にやるべき事は存在しない。
飲食物を扱うサークルならば、それ専門の許可や研修、練習などで忙しくしたりもするが、俺たちが扱うのは写真集なので、これも必要ない。
文化祭は三日間あり、期間中は仮に売り物が尽きても誰かはブースに居ないといけないそうだが、これについても他のサークルと共同でブースを出す事を決めていて、その他のサークルとやらも既に決まっているので、後で顔合わせさえすれば、問題は無い。
ブースの設営は当然のことながら文化祭の前日に行うべき事で、設営にあたって必要な物は既に確保済み。
とまあ、こんな感じで、スズたちが事前に頑張ってくれたおかげで、殆ど全部終わっているのが『ナルキッソスクラブ』の文化祭準備であるらしい。
うーん、流石はスズたち。
ちなみにだが。
個人レベルの研究発表や、美術サークルの作品群のように、最後の設営以外の準備は既に終わっていますと言うサークルは割と多いらしい。
忘れがちだが、決闘学園の生徒には勉学の成績が良好な生徒も多いので、こういう計画を立てて、事前に終わらせておくと言うのは、地味に得意分野であるらしい。
「なるほど確かにこれは暇になる……。でもそれでなんで、俺がバニーガールなんだ?」
話を戻して。
そうやって暇になってしまうから、文化祭関係の動きを何かしら俺にさせたかったらしい。
うん、これは素直に助かる。
準備が終わっているからと暇しているのは、俺としては微妙な気分になるところだ。
戌亥寮や他のサークルの手伝いをしに行くと言っても、限界もあるしな。
これで残す疑問点は、どうしてそれで俺にバニーガールの衣装を着させて、文化祭当日には宣言決闘のルーレット係と言う、ある意味でとても重要な役割を任せてきたのかだが……。
「私が見たいから」
「マリーはスズが推したので押しました」
「イチからは特に何もありません」
「あ、はい」
つまり、完全にスズの個人的事情であるらしい。
「まあいいか。やる事は実際ないし、スズたちが文化祭の準備をここまで頑張ってくれたご褒美みたいなものだな」
なお、宣言決闘のルーレット係とは、宣言決闘が始まった時にルーレットを回して、最初にどちらから攻撃を始めるかを決定する役目であるらしい。
そして、宣言決闘が始まった後も舞台近くに控えて、どちらのターンなのかを常に示し続けるのだとか。
つまり、宣言決闘と言う特殊な決闘の流れを分かり易くするためのラウンドガールやコンパニオンのようなものと言う事になる。
必然、長時間人目に晒される事になるので、見た目がいい人間が選ばれるべきであるらしいが……まあ、そう言う事なら、俺が選ばれること自体には納得しかないな。
俺の見た目の良さは俺自身も含めて、誰もが認めるところだからな。
マスカレイドを発動した状態で、わざわざバニーガールの格好をさせるのは、スズの趣味だろうけど。
「ナルとしては嫌な話なのですカ? そう言う事なラ、今からでも断りを入れて来ますガ」
「あー、嫌な話ではない。ただ理解が追い付いていなかっただけだ。ただ……」
「ただ? なんでしょうか?」
「先日の闇堕ちシスター服着用中の『ドレスパワー』『ドレスエレメンタル』案件を考えると、着用するバニーガール衣装の選定は考えないと、トラブルを起こしそうだなとは思ってる」
「「ああ……それは確かに……」」
「えっ!?」
うん、スズが驚いた点からしても、衣装はきちんと俺の目で問題のないものを選んでおくべきだな。
変なのを選んだら、最悪、麻留田さんか警察のお世話になりかねない。
ルーレット係をやっている間に『ドレスパワー』『ドレスエレメンタル』を使う事なんて無いだろうけど、念には念をと言う奴だ。
「くっ……ルーレット係と言う形で、合法的に好きな衣装を着せる。そうして、ナル君の実力を周囲に知らしめつつ、素敵な写真を撮ると言う私の計画が……」
「スズ。漏れてますヨ」
うーん、地元じゃこう言う祭りは地域の祭りが精々だったからなぁ。
スズが地味に浮かれているような気がしてきた。
「とりあえず、文化祭までは衣装合わせに顔合わせ、時間の調整と言った、やるべき事を各自こなしていこう。もちろん、文化祭で一緒に回る時間の確保も忘れずにな」
「分かりましタ」
「はい」
「うん、そうだね。ナル君の言う通り、まずはやるべき事をやっていこう!」
そうして俺たちは文化祭の準備を進めていく事となった。