315:決闘学園の文化祭とは
十月に入った。
決闘学園の十月には、六月の体育祭に並んで重要なイベントが入っている。
それは……文化祭である。
マスカレイドと言う技術は決闘に用いるのが本来の用途ではある。
だが、その多彩な力を決闘とは言え、戦いの為だけに使うのはあまりにも勿体ないのではないか。
もっと別な、文化的で非戦闘的な用途に用いてもよいのではないか。
そんなお題目から始まったのが、決闘学園の文化祭である。
今年の開催日程は10月18日金曜日から、10月20日日曜日までの三日間。
初日である金曜日は、事実上の予行演習も含むため、学園内限定公開となっている。
だが、残りの二日間、土曜日と日曜日は学園外部の人間がほぼ制限なく入ってこれる。
その為、毎年三日間の累計入場者数は一万を超えるとか超えないとか……。
少なくとも、極めて大規模な祭りとなる事だけは確実な催しとなる。
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「さて、そんな文化祭だが、三日間遊ぶ側になり続ける事は許されないようになっている。祭りではあっても学園のイベントであり、生徒は授業の一環としてもてなす側でもあるからだ」
とまあ、そんな前振りを言っているのは、我らが戌亥寮の寮長、桂寮長である。
今は2024年10月1日の午後。
普段ならば、マスカレイドの訓練をしたり、授業の決闘をしたり、サークル活動をしたりと各個人ごとに自分の将来のための活動をしている時間である。
だが、文化祭が迫っていると言う事で、今日は戌亥寮に所属する生徒全員でのミーティングとなったのだ。
ちなみに、他の寮でも同様の集まりが開かれているらしい。
「各生徒は、自身が所属する委員会、サークル、寮、あるいは個人または文化祭限定での集まりでもって、何かしらの発表をする事が義務付けられているわけだな。そして、大半の委員会とサークルでは既にやる事は決まっているだろうし、やる気が漲っている個人は既に最終仕上げに入っている事だろう」
「まあ、俺たちは決まってるな」
「そうだね。ナル君の写真集を売り出すよ」
俺の言葉にスズが同意する。
そして、その言葉通り、サークル『ナルキッソスクラブ』は俺……正確にはナルキッソスの写真集を出す。
内容としては、純粋な写真集と、スキル『ドレスパワー』についてまとめたもので、非常に文化的な物と言える事だろう。
「ちなみに遊びに行ったり、他を手伝いに行く余裕は?」
「勿論ありますヨ。その為の準備もマリーとスズを中心にやってありまス」
「夏季休暇中に他サークルへ挨拶に行ったのも、この時のためと言えば、その通りですね」
そんな俺たちの写真集はつい先日完成して、後の印刷と製本は専門の業者にお願いする事になっている。
よって、今の俺たちは手が空いている状態と思ったのだが、事実そのようだ。
まあ、俺たちに出来る事をやるとしよう。
「で、現時点でやる事が決まっていない生徒たちを主体として、寮の出し物を行う事になる。では、戌亥寮の出し物について発表しよう」
では、その手伝いの候補の一つとなる戌亥寮の出し物について聞こう。
「宣言決闘だ」
桂寮長の言葉と共に、画面に映像が出て来る。
それは去年の文化祭の光景。
決闘の舞台の上で何かを叫んでから殴りかかると言う行為を、交互に繰り返しているものだった。
うん、文化的とは程遠い行為が行われているようにしか思えないな。
「前提として、寮の出し物は内容こそ決まっていないが、大枠は定まっている。具体的には開催場所や開催時間、出し物の方向性だな」
画面が切り替わる。
戌亥寮の出し物が出される場所は、普段の決闘でも使われている大ホールだ。
そして、この大ホールの舞台上で、時間帯ごとに区切って、四つの寮がそれぞれの出し物をするらしい。
子牛寮は演劇を、虎卯寮は演武を、申酉寮は演技を、戌亥寮は宣言決闘を。
いやうん、ウチの寮だけ方向性と言うか、字面がおかしくない?
「怪訝な顔を浮かべている一年生たちは安心しろ。俺たちも去年一昨年はそうだった」
「あ、はい」
とりあえず俺の感性がおかしいと言うことは無かったらしい。
「さて、宣言決闘の内容だが、簡単に言えば、『右ストレートでぶっ飛ばす』と宣言したなら、右ストレートでぶっ飛ばさないといけない決闘だ。そして、交互に宣言し、攻撃を仕掛ける事になっている。で、宣言通りに攻撃が出来たかを五人の審判が判断し、宣言通りで無いと判断されたら、その時点で敗北となるルールだ。つまり……」
「つまり?」
「自分の攻撃内容を言葉で正しく表現すると言う、非常に文化的な決闘だ」
無理やり!
無理やりだこれ!
「はい、ナル君」
「ん? あ、はい……」
ちなみに俺の心の叫びを肯定するかのように、桂寮長のマスッターのページには、宣言決闘以外の題目が浮かんだらメッセージを送ってくれとのお知らせが書いてあった。
つまり、例年そうだから続けているだけで、他に何かいいものがあれば、そちらにしたいって事ですね、分かります。
「さて、そんな内容であるから、当然ながら人員は相応に必要だ。決闘者は割り当てられた時間を埋められるだけ必要だし、審判係も複数人必要だ。司会に解説役も当然居るし、最初にどちらから仕掛けるかを決めるルーレット役なども出来れば欲しいところだな」
再び画面が切り替わって、どんな役がどれだけの人数求められるかが表示される。
桂寮長の言う通り、結構な人数が確かに必要だな。
うーん、俺に審判、司会、解説は無理だよな。
そうなると決闘者として参加するのが……。
「そうそう。先んじて言っておくことがある。麻留田、翠川。この二人が決闘者として出ることは無しだ。勝負にならんし、この二人同士をぶつけるのもアレだからな」
「「「デスヨネー」」」
「む……まあ、それもそうか」
「まあ、ナル君相手に宣言決闘はちょっとね」
「無理ゲーになるのが目に見えてますからネ」
「攻撃が通りませんから」
出来ないらしい。
うーん、これ、寮の出し物には準備段階でしか関われないかもしれないな。
そう思っていたのだが。
その後、桂寮長主導の下に求められる役割は埋められていった。
そして俺は何故か、バニーガール姿の仮面体でルーレット役を務める事が決められていた。
なんで?