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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
7:文化祭前の日常編
310/499

310:アビスの巫女

「あ、ヤベーのが帰って来た」

「本当だ。よくあの場で言えたよなぁ……」

「でも翠川が言いたくなるのは分かるよ。だって、タイミングがタイミングだったからね」

「むしろ文句の一つくらいは言うべき場面だったわ。あの場に居なかった私が言う事でもないかもしれないけど」

 事情聴取が終わり、戌亥寮へと戻ってくると、食堂などの共有スペースに残っている人が普段よりも明らかに多かった。

 まあ、今日に限っては起きた事件が起きた事件だからな。

 誰かと一緒に居て、話をしたくなるのはよく分かる。


 で、俺の事を言っているっぽい呟きについては……大きく分ければ二種類だな。

 何処か非難するようなものと、感心しているようなものだ。

 殆どの生徒は前者で、諏訪や『パンキッシュクリエイト』の風鈴さんと言った一部の生徒だけが後者と言う感じだな。

 ま、俺から何か言うことは無いな。


「ナル君。大丈夫だった?」

「スズ。俺は大丈夫だ。そっちも……大丈夫そうだな」

 と、此処で先に帰って来ていたらしいスズが声をかけてきた。

 その様子を見る限りでは、特に具合が悪いとか、違和感があるとかはないらしい。


「マリーたちは?」

「マリーは部屋で休んでる。イチは後始末に奔走中で、今日は部屋に帰ってこれないんじゃないかって」

「そうか。仕方がない事なんだろうけど、大変だな」

 マリーとイチについても問題はないらしい。

 いや、あんな事があったにも関わらずイチは働くことになっているので、問題はあるのかもしれないが、とりあえず差し迫った問題は無いようだ。

 ちなみに巴は俺たち全員に伝わるように、問題なく寮に戻ってこれたと言うメッセージを既に送ってくれている。

 とは言え、巴の立場を考えると、今頃は虎卯寮の自室で護国家の両親……じゃなくて策謀担当さんと話をしていそうだが。


「スズ。外でいいか? ちょっと話をしたいことがある」

「……。分かった」

 俺はスズを寮の外へと誘うと、周囲に人気が無く、明かりも微かな場所まで歩いていく。

 そんな俺の後ろをスズはゆっくりと付いてくる。


「スズ。あの時のアビスはお前の協力の下に顕現したものだな」

「うん、正解。流石はナル君。よく分かったね」

「笑い方がそっくりだった。それと、アビスが居る間はスズの姿が見当たらなかったからな」

「なるほどね……」

 俺が話したい事とは、ペインテイルの決闘後に現れたアビスについて。

 アレはやはり、スズの協力の下で現れたものだったらしい。


「確認するが、体の不調とかは無いんだよな?」

「無いよ。むしろ調子がいいくらい。ちなみに自己診断じゃなくて、燃詩先輩の検査も受けているから、見逃したって事もないはず」

「そうか。なら良かった」

 ただ、アビスと言う神を顕現させたにも関わらず、スズの体に負荷がかかるようなことは無かったらしい。

 スズが上手くやったのか、アビスが色々と気を使ってくれたのか、スズとアビスの相性が良かったのか……全部ありそうだな。

 なんにせよ、スズに後遺症の類が出ていないのは何よりだ。

 なにせ、あの時あの場に居たアビスは、女神と比べれば弱いかもしれないけれど、俺と比較したら勝負にならないと断言できるぐらいには力を秘めていたからな。

 あんなものを呼び出したのに、何事も無かったと言うのなら、それは本当に良かった話だ。


「ナル君。分かってはいると思うけど、この話は広めないでね」

「分かってる。この件はアビスの信徒なんて情報とは比較にならないぐらいにヤバいからな。逆に聞くが、この件を把握しているのは俺以外だと誰だ?」

「カメラを含む各種情報の操作をしてくれた燃詩先輩だけだね。たぶん、この会話も聞いてる。でも燃詩先輩が情報封鎖をしてくれているなら、私たちがバラさなければ、漏れることは無いから安心していいよ」

「分かった。覚えておく」

 スズの言葉に俺は深く頷いておく。

 実際、今回の件がスズが行った事であるのを明らかにすることは絶対にしてはいけない事だ。

 神を顕現させることが出来るだなんて、どう考えても碌でもない連中に狙われるのが目に見えている。

 絶対に黙っておくべきだろう。

 それはそれとして、燃詩先輩は把握していると言う点からして……燃詩先輩もアビス信徒なんだろうな。

 ただ、あの人の場合、アビスの力抜きでもヤバい気がするんだよな。

 今この場での会話を聞いていると言うスズの言葉も、ほぼ確信して言っているように思えるから。


「ん? その燃詩先輩からだな。明日の昼頃に『ナルキッソスクラブ』のスタジオで、今日のペインテイルが使っていた道具の説明をしてくれるらしい」

「そうなんだ。でもナル君の方に連絡が行くの?」

「あー、麻留田さんが話を通しておくと言っていたから、たぶんそれだな……」

「……。後で甘いものの差し入れでもしておこうかな」

「……。俺も金は出すから、頼んでいいか?」

「うん、分かった」

 と、ここで当の燃詩先輩からメッセージが来たわけなのだけど……。

 うん、スズがそう言うのなら、ご機嫌取りをしておいた方がいいと思うので、俺も出せるお金は出しておくとしよう。

 ちょうどよくペインテイルの資産とか言うあぶく銭も手に入るわけだしな。

 いや、期待はしない方が良いか?

 下手をしなくても、借金だらけとかもありそうだし……その辺の確認はまた後日だな。


「ナル君。今更だけど、勝利おめでとう。それと、女神相手に反論して見せたの、凄くカッコよかったよ。見ていて思わず嬉しくなっちゃった」

「ありがとうな、スズ。そう言ってもらえて何よりだ」

 ま、なんにせよ勝ちは勝ちだ。

 これまでとは比べ物にならないくらいに後処理が面倒そうではあるけれど、決闘に勝ったのだから、粛々とこなしていくとしよう。

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― 新着の感想 ―
>笑い方がそっくりだった。 >女神相手に反論して見せたの、凄くカッコよかったよ。見ていて思わず嬉しくなっちゃった 大丈夫? カッコいいナルちゃんを見たアビスちゃんがだらしない笑顔になってなかった?
>無いよ。むしろ調子がいいくらい。 貧血とか大丈夫ですか? 自分を真剣な眼差しで見るナルキッソス(キャストオフ済み)を見たんだし、スィルローゼ様に褒められたエオナみたいに某体液噴き出しているはず! …
女神が正論に逆ギレするような性格ではないことは感情よりも契約やルールを優先する言動から読み取れるので、今回は無謀ではないが、逆ギレするような格上にも同じことするのがナルですねw
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